シニアに選ばれる店舗と接客
超高齢化時代の店づくり

2023年12月21日

流通お店づくりトピックス

■業種・業態:スーパー  
■キーワード:高齢社会/掲示物/陳列/接客

シニアに選ばれる店舗と接客のイメージ

現在、65歳以上のシニア(高齢者)は全人口の28.1%を占めています(2018年総務省統計局)。2025年には30%に達すると予想されており、来店客に占めるシニアの割合は今後ますます高まっていきますので、シニアに配慮した店づくりが重要になります。本特集では、シニアに支持される店舗のあり方や接客について解説します。

「加齢による不便」を理解し掲示物や陳列を見直す

「シニア」には60歳代から100歳以上まで、さまざまな人が含まれます。これまでマーケティングの世界では、「アクティブシニア」と呼ばれる、比較的若くて肉体的にも精神的にも元気な層が注目されてきましたが、今後は団塊の世代が75歳以上の後期高齢者に入ってくることもあり、より高齢の層への目配りが必要になってきます。

人の体は加齢によってさまざまな身体機能や精神機能が低下していき、若い人には思いもよらないような不便が生じます。シニアが来店しやすい店をつくるには、それらへの配慮が欠かせません。

たとえばシニアが若い人に比べて転びやすくなるのは、足腰が弱くなるからだけではなく、視力の低下により小さな段差や障害物を見落としやすくなることが影響しています。このため、店内の小さな段差をなくしたり、階段の縁を目立つ色にするといった対策が必要です。

また、背骨が曲がることで首を上げて上を見る動作が負担になります。大型の量販店では売場のカテゴリーやレジなどの位置を示すサインが天井から下がっていますが、シニアには見えていないことが多いものです。サインは棚の低い位置や床に貼ると効果的です。

同じ理由で背中や腰が曲がっている場合、腕の可動域が狭まる場合を想定して棚割りを変える必要があります。商品にもっとも手が届きやすく売れやすい一般的な「ゴールデンゾーン」は床上110~140センチとされますが、シニアの場合は30センチほど低くなる傾向があり、シニアが選びやすい「シルバーゾーン」は80~110センチと見るべきです。シニアをメインターゲットとする商品は、この高さに並べるとよいでしょう。また、シニア向けの棚をつくる際には、同一商品や関連商品を横に配列していく「水平陳列」よりも、縦に配列する「垂直陳列」が適しています。その場で立ち止まって、移動せずに商品を探すことができるためです。一方、不必要な店舗改装や棚割り変更はしないほうが好ましいです。シニアは視力や記憶力の低下によって売場がどこにあるか混乱しますし、落ち着かないからです。

白内障などにかかると、色の見分けが難しくなってきます。POPに赤や黄色などの暖色系や蛍光色の文字、濃い背景色を使うとシニアにとっては視認性が下がります。背景色と文字色が近い場合も、文字が読みにくくなります。無地の背景に、黒色や黒に近い青などの寒色系の文字を使うとよいでしょう。

体力が落ちているシニアは疲れやすいため、店内に休憩スペースがあると喜ばれます。小さな店舗では気軽に座れる椅子を置いておくとよいでしょう。休憩スペースはなるべくレジカウンターの近くに設けることで、店員は仕事をしながら対応でき、商品の提案などもしやすくなります。

シニアに選ばれる店づくりのポイント

床・階段など

  • 床の小さな段差をなくす
  • 階段の縁を目立つ色にする
  • 階段やスロープに手すりをつける
  • 段ボールなどを通路に置かない

陳列

  • 同一商品や関連商品は縦方向に並べる(垂直陳列)
  • シニアが見やすい「シルバーゾーン」は床上80~110cm
  • 不必要な棚割変更はしない

サイン・POP

  • サインは天井からつるさず、低い位置に貼る
  • POPは無地に黒文字など、見やすい色づかいにする
    (暖色系・蛍光色の文字や濃い背景色は避ける)

休憩スペース

  • できるだけレジの近くに設ける
  • 小さな店舗では気軽に座れる椅子を置く
シニアが店内でショッピングカートを押している画像

シニアとの会話は目線を合わせトーンを落としてゆっくり話す

続いて、接客上のポイントを解説します。

シニアは聴力や声帯など会話に必要な身体機能も低下していますので、店員は話し方や聞き方に注意する必要があります。まずシニアに顔を見てもらえる位置に入り、お互いに目線を合わせて話すことができる姿勢をつくるのが基本です。相手が背の低い人なら腰を落としたり、車椅子の人であれば膝を床につけた姿勢で話を聞きます。シニアは上を向くのが苦手なため、上からの目線は高圧的に感じられてしまいます。同じ高さか、やや下から目線を合わせましょう。

加齢で聴力が衰えると高音が聞き取りにくくなり、低い音(500ヘルツ)と比べて高い音(2000ヘルツ)は1.5倍以上の音量がないと聞こえないと言われます。特に女性の店員は、声のトーンを落とし気味に話すとよいでしょう。ゆっくりと抑揚をつけて語尾を強く発音し、相手と同じスピードで話すこともポイントです。また、口の動きをはっきりと見せたり、表情や身振り手振りを大げさにしてオーバーアクションで話すと、伝わりやすくなります。

シニアと会話するときのポイント

  • シニアに顔を見てもらえる位置に入る
  • 目線の高さを合わせる
  • 低い声でゆっくり話す
  • 抑揚をつけ、語尾を強く発音する
  • 口の動きをはっきり見せる
  • 表情や身振り手振りを大げさにする
シニアと会話するときのポイントを表示した画像

レジはシニアにとって難関 紙幣、硬貨、レシートは別々に渡す

シニアによっては、レジでの会計は買物のなかで最も緊張するという人もいます。記憶力や思考力の低下により計算が苦手な場合や、視力の低下でお金を識別しにくくなっていること、触覚の衰えで手に持っているものの感触が鈍くなり、小銭の受け渡しに困難が伴うことなどが原因です。もしも小銭を落としてしまったり、急かされているように感じたりすると、お店に対して嫌なイメージが残ります。

お釣りを渡すときは、紙幣、硬貨、レシートを別々に渡すと受け取りやすくなります。トレーにお金を置く場合は、紙幣と硬貨を種類ごとにそろえて並べるとよいでしょう。

現在急速に普及が進んでいる電子マネーやクレジットカードによるキャッシュレス決済は、お金の受け渡しがなくなるためレジでのストレス軽減に有効です。現在の60歳代は電子機器の使用に慣れており、スマホ決済などにも抵抗がない人も増えています。

それ以上の世代では現金決済にこだわる人も多いでしょうが、お客様全体のキャッシュレス決済利用率が上がればレジの混雑を緩和でき、急かされていると感じることなく落ち着いて会計をしてもらうことができます。複数のレジを設置できる店舗では、セルフレジやキャッシュレス決済用レジと従来型のレジを分ければ、より効果的です。

過剰な「シニア扱い」をせず一人ひとりの希望をくみ取る

一口に「シニア」と言っても、身体機能や精神機能の衰え方や、お店に期待することは人それぞれです。そのため、店員が「こうすればシニアに喜ばれるはず」と思い、先回りしてサービスを行っても、シニアの希望とは異なることもありますので、そのつど意向を確認する必要があります。

たとえば飲食店で車椅子のシニアが家族と来店した際、店員がテーブルの椅子を一つどけて車椅子が入れるスペースをつくった場合、「家族と一緒に同じ椅子に座りたかった」と残念がられることもありえます。車椅子を使用していても、短い距離なら立って歩き、自分で他の椅子に座られる人もいます。

また、会話などに必要な能力が低下しているシニアの場合、相手に判断や選択をゆだねる傾向がありますが、本心では自分の希望を持っている場合もあります。「どの商品でもいい」と言われても、できるだけ希望を聞き出したり、「この商品でよろしいですね」と確認する姿勢が必要です。

大切なのは「シニアとはこういう人たち」と、ひとくくりにせず、一人ひとりのシニアを知ろうとすることです。比較的若くてアクティブな層からは、過剰な「シニア扱い」が反感を買うこともあります。

目の前のお客様が何を望んでいて、どうすれば喜ばれるかを考える接客を積み重ねることが、シニアからの信頼を勝ち取ることにつながります。

※当記事は2019年10月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。