休眠顧客とは?
離反の原因や掘り起こしの必要性、掘り起こし方法を解説
「一度購入したものの足が遠のいている顧客」や「以前は通ってくれていたがしばらく顔を見ていない顧客」を指す休眠顧客。新規顧客獲得の難易度が高まっているいま、この休眠顧客は磨けば光る、いわば「宝」の原石のような存在です。
本記事では、休眠顧客となってしまう原因や、休眠顧客の掘り起こし方について、事例を交えながら解説していきます。
休眠顧客とは
休眠顧客(読み方:きゅうみんこきゃく)とは、過去に購買歴があるものの、一定期間にわたり商品やサービスの購入が途絶えている顧客のことです。初回購入以降は来店があっても購入がない、あるいは来店が滞っている顧客などが休眠顧客に該当します。
BtoBビジネスにおいてその重要性が指摘されることの多い休眠顧客ですが、アパレルや飲食店、小売店など、BtoCビジネスにおいても、その大切さは変わりません。適切なアプローチを講じることで売上アップが見込めるため、休眠顧客はあらゆる事業体において重要な存在に位置付けられます。
何年経ったら休眠顧客になる?
一般的には、最終購入日から半年〜1年程度の間、購入が途絶えている顧客のことを休眠顧客と呼ぶケースが多いです。ただし、休眠顧客になる期間は、商品やサービスの特性、これまでの顧客の購買頻度などによって異なります。
たとえばアパレルの場合、顧客の購買行動は季節や気温に密接に関係しています。優良顧客であれば、季節の変わり目を迎える3ヶ月に1度程度は購入機会が発生するでしょう。そのため、アパレルでは離反期間が3ヶ月以上続いた顧客は休眠顧客と定義してもよいでしょう。
あるいは、1ヶ月に1回ほどの頻度で来店してくれていた顧客が、1ヶ月以上来店しないケースも休眠顧客に該当します。
このように、商品やサービスの属性、過去の顧客の購入頻度によって、休眠顧客と見なされる離反期間は変動します。休眠顧客を掘り起こすにあたっては、その第一歩として「自社における休眠顧客の定義」を定めておくことが大切です。
休眠顧客が発生する原因
休眠顧客が発生する原因には、次の3つが考えられます。
- 商品・サービスに対する満足度が低い
- 商品・サービスが必要なくなった
- 商品・サービスを購入したことを忘れてしまった
休眠顧客となる理由は、商品・サービスに対する「不満」、顧客自身の「変化」、あるいは購入歴の「忘却」。このいずれかに該当することがほとんどです。
商品・サービスに対する満足度が低い
購入した商品が、購入前の期待値を超えなかった場合、顧客が抱く満足度は低くなります。いわゆる「期待はずれ」の状態です。
昨今では需要に対して店舗数が上回る「オーバーストア」が発生しています。また、数多くの商品が世に溢れており、顧客は多くの選択肢のなかから比較検討できるポジションに立っています。別の商品をすぐに試せるため、一度「期待はずれ」と認定されてしまうと、顧客は容易に離反するでしょう。
休眠顧客の発生を防ぐためには、商品の質はもちろん、対応するスタッフの接客クオリティなどの向上を図り、競合他社との差別化を講じる必要があります。
商品・サービスが必要なくなった
ライフステージやライフスタイルの変化によって、これまで継続購入していた商品の必要性が乏しくなり、休眠顧客になることもあります。
たとえば、妊娠・出産を経てこれまでに着ていた衣料品が合わなくなったり、テレワークが導入されて化粧品の使用頻度が少なくなったりするなどのケースです。特定の年齢層をターゲットにした商品であれば、年齢を重ねた結果ニーズが変化し、休眠顧客となることもあるでしょう。
こうしたニーズや環境の変化に対応するには、商品を提供する側(サプライヤー)側の思惑に基づいた商品開発ではなく、顧客(デマンド)の需要から遡って商品を開発していく、目線の変化が求められます。
この消費者を起点としたマーケティングプロセスは「デマンドチェーンマネジメント(DCM)」と呼ばれます。デマンドチェーンマネジメントについて詳しく紹介している、以下の記事も合わせてご確認ください。
商品・サービスを購入したことを忘れてしまった
購入した商品自体には満足感を抱いていたとしても、仕事やプライベートなどで忙しくしているうちに、購入したこと自体を忘れてしまうケースもあります。
この場合の対策となるのは、電話やDMなどを活用して顧客との定期的な接点を保つことです。商品の存在を忘れられないようにつなぎとめておけば、顧客側の必要性が高まったときに再購入を促せるようになるでしょう。
休眠顧客を掘り起こす必要性
多くの商品が世に溢れるいま、新規顧客の獲得難易度は上がる一方です。これまで自社の商品に興味を持っていなかった層は、すでに競合他社の商品を購入していることもあるため、新規顧客として誘引するハードルはますます高まっています。
その点、休眠顧客は「一度は自社商品に興味を示している顧客」です。また、休眠顧客の場合はすでにある程度の顧客情報を取得できているケースもあるため、まったく情報がない新規顧客と比較して効果的なアプローチが可能です。
新規顧客を獲得するよりも、休眠顧客を掘り起こす方が効率的に売上アップを狙えることから、再訪を促す施策の重要性が高まっているのです。
休眠顧客を掘り起こす方法
休眠顧客を掘り起こす方法を、手順に沿って紹介していきます。
- 休眠顧客の中からターゲットを絞る
- ターゲットごとにアプローチ方法を決める
- アプローチの具体的な内容を決める
なお、前述の通り、休眠顧客の掘り起こしに着手する前には「休眠顧客の定義」を定めます。休眠顧客と設定する離反期間などを定義してから掘り起こしを始めましょう。
1.休眠顧客の中からターゲットを絞る
休眠顧客の定義を決めて、該当する顧客をリストアップできたら、その中からアプローチをかけるターゲットを絞り込みます。
休眠顧客といっても、顧客それぞれによって状況は異なるはずです。過去の購入回数、購入頻度、離反期間などの条件に着目して休眠顧客を比較し、確度の高い順に優先度を付与するなどアプローチの精度を高めていきましょう。
また、購入回数や頻度、離反期間などの条件をあらためて洗い出すことによって、それぞれの顧客が離反した理由も見えてきます。たとえば1回きりの購入回数で終わってしまっている場合は、商品が合わなかったと考えられます。離反期間が長い場合は、購入したこと自体を忘れている可能性も疑われるでしょう。
この「理由の見極め」は非常に重要なポイントです。この後に続くアプローチ方法の土台にもなってきます。
2.ターゲットごとにアプローチ方法を決める
休眠顧客へは次のような方法でアプローチをかけていきます。
- メール
- DM
- 電話
なお、「すべての休眠顧客にメールを送る」といった画一的なアプローチは望ましくありません。休眠顧客へのアプローチは、離反理由に応じた最適な方法を選択すべきです。
各手法の特徴と合わせ、どのようなタイプの休眠顧客に適しているのかも見ていきましょう。
メール
メールでのアプローチは、段階的にメールを配信し顧客の購買意欲を育成する「ステップメール」が有効です。ターゲット層に合わせた内容や時間帯での配信ができるほか、低コストで始められる利点もあります。
また、メールのクリック履歴から休眠顧客の現在の心理状況を推測できることから、マーケティング施策のブラッシュアップにも効果的です。その一方、メールでの接触は開封率の低さがボトルネックとなりがちです。興味を惹きつける件名付けなど、工夫が求められるでしょう。
メールでのアプローチは、「商品・サービスの満足度が低い」ことが原因で休眠顧客になったターゲット層に有効です。商品の仕様変更や有効な使い方、活用方法の説明などを通じて商品の魅力をあらためて実感してもらえれば、再購入のモチベーションを高められます。
DM
DMは、休眠顧客のなかでも「商品・サービスを購入したことを忘れてしまった」ことが原因で休眠顧客になったターゲット層に効果的な方法です。
デジタル化が進行し、パンフレットや広告が送付される機会は減っています。裏を返せば、DMという形に残る手法をあえて選択することで、特別感が際立ちます。商品のことを長期間忘れてしまっていたターゲット層に向けて、興味を再度抱いてもらえるきっかけになるでしょう。
DMはメールよりも開封率は高い傾向にありますが、メールよりも費用がかかります。そのため、再訪を望める確度の高い休眠顧客層を見極めて送付する必要があります。
電話
電話によるテレマーケティングも、休眠顧客の掘り起こしに有効な手段です。休眠顧客と直接話ができることから、現在の状況や心境などを詳しくヒアリングできます。「商品・サービスの満足度が低い」ことが原因で休眠顧客になったターゲット層に効果的でしょう。
また、過去に手に入れた情報をもとに、会話を広げることも可能です。コミュニケーションを介して親しみを醸成できれば、成果効率は自ずと高まります。文章では伝えきれない商品の魅力を訴求できることもメリットです。
一方、架電件数が多くなると、少なくない時間リソースが割かれることになります。テレマーケティング会社に委託するにしても人件費が発生するため、施策を遂行するハードルは低くありません。
また、顧客によっては電話されること自体に嫌悪感を持つ場合もあります。DMと同様に、ターゲット層の見極めが重要です。
3.アプローチの具体的な内容を決める
アプローチ方法を決めたあとは、どのような内容を伝えれば効果的な施策になるのか検討していきます。ここでも休眠顧客となった原因から考えてみましょう。
休眠顧客となった原因 | 伝える内容 |
---|---|
商品・サービスの満足度が低い | 意見や不満を伺う内容にする。商品・サービスの内容・仕様変更がある場合は、その旨も伝える |
商品・サービスが必要なくなった | 予想される変化に合わせて、状況にマッチした別の商品を紹介。長く愛用してくれていた人には「お友達紹介キャンペーン」の案内も有効 |
商品・サービスを購入したことを忘れてしまった | 購入履歴・商品画像を露出。「その後、いかがですか?」「久しぶりにお顔を拝見できたら嬉しいです」といった現状を探る文言を入れる |
なお、顧客のニーズや環境の変化に離反要因が認められる場合は、基本的にアプローチするターゲット層から除外してもよいでしょう。ただし、顧客の変化にマッチした商品やサービスを保有している、あるいは新規に開発したといったケースでは、ターゲットに含める余地が残されます。
休眠顧客を掘り起こす際のポイント
休眠顧客の掘り起こしの際は、次の4つのポイントを抑えておきましょう。
- 離反期間が短いうちにアプローチする
- 顧客心理の理解を深める
- 確度に応じて優先順位を決める
- CRMを活用する
一般的に、離反期間が短い顧客の方が掘り起こせる確率が高いです。離反に気づいたら、早めのアプローチが鉄則になります。
ただし、離反するには何かしらの原因が必ずあります。やみくもにアプローチするのではなく、顧客心理の理解に努めなくてはいけません。
また、先述の通り、すべての休眠顧客に向けて画一的なアプローチを展開していては、無駄なコストが発生するだけです。離反要因に応じてターゲット層を分類し、アプローチする優先順位を明確に定めましょう。
優先順位を付ける工程において有効なのが、顧客管理システム(CRM:Customer Relationship Management)です。顧客の基本情報や営業活動履歴などを管理できるため、休眠顧客の優先順位付けに役立ちます。また、顧客の購買履歴から行動パターンを分析できるなど、休眠顧客の状況把握においても有効に機能します。
休眠顧客掘り起こしの成功事例
東京都に本社を置くスーパーマーケットでは、ポイントカードの有効期限が切れる前に、保有ポイントと有効期限をリマインドするDMを送付しました。さらに、DM送付後にはコールセンターからの電話連絡によるフォローを実施したところ、25.6%もの顧客が再来店したとのことです。
なお、DMを送信しなかった場合の再来店率は6.2%でした。DMを送ることにより19.4%もの休眠顧客の掘り起こしに成功したということです。
まとめ
自社の商品やサービスを購入した経験を有する休眠顧客の掘り起こしは、新規顧客を獲得するよりも実効性が高く、手間やコストも抑えられる傾向が見られます。
顧客数を増やし、事業を伸ばしていくためには、休眠顧客へのアプローチは欠かせない取り組みになるでしょう。