PBが台頭する中でのNBメーカー戦略

2024年2月28日

流通トピックス

■業種・業態:スーパー  
■キーワード:プライベートブランド/ナショナルブランド/低価格化

PBのイメージ画像

安かろう、悪かろうのイメージがあったのは過去の話。味や品質に優れリーズナブルな価格のプライベートブランドが大人気です。日本はナショナルブランドへの信頼が厚いと言われてきましたが、大きな変化が起こっているようです。

PBの歴史と現状

買い物をする親子のイメージイラスト

スーパーマーケットやコンビニエンスストア、ドラッグストアなどでよく目にするプライベート・ブランド(以下PB)は、今や小売業や消費者にとって欠かせない存在となっています。

PBとは、本来は商品開発や生産を行わない小売業者が、実際に販売している知見を活かして企画・開発した上で外部のメーカーに委託して生産し、独自のブランド名を付けて自社店舗で販売する商品のことを指します。

日本では、これまで知名度のある大手メーカーの生産するナショナルブランド(以下NB)志向が高く、PBはそれほど注目されていませんでした。PBに対して、NBはメーカーが商品企画・開発・生産を行い、全国の様々な店舗で販売されることを目的としています。

NBメーカーは、商品の企画・開発力の向上に注力することで高品質な商品を上市するとともに、テレビCMの放映など豊富な資金力を生かした広告活動によりブランド力を高めてきました。

一方、PBも比較的最近開発され始めたイメージがあるかもしれませんが、ある大手百貨店が1959年に開発したオリジナル紳士服が最初であり、食品では 1960 年にスーパーのD社が缶詰を開発するなど、長い歴史を有しています。

カートを押して買い物をする女性のイメージイラスト

その後も数多くのPBが企画・開発・生産されてきましたが、1973年の第一次石油危機や1979年の第二次石油危機、1985年以降の円高不況、さらにバブル崩壊後の1990年代前半の平成不況など、景気低迷期が続きました。

その結果、NBと比較しての「割安感」や「お買い得感」を実感してもらうための低価格化を重視するあまり品質が落ち、「安かろう、悪かろう」というイメージが浸透してしまっていました。

しかし、近年はPBの位置付けに変化があらわれてきています。具体的には、従来のNBの模倣版・低価格版としての位置付けだけでなく、明らかな品質の向上がみられます。特に、大手小売業者の開発するPBの品質は、大手NBメーカーに委託して生産されているケースも多く、NBと比べて遜色ない水準まで向上しています。

また、商品の企画・開発にあたっては、ID-POSの普及、CRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)の導入などITの進展にともない買い物客の嗜好を精緻に捉えられるようになった小売業者が、NBの模倣ではなく消費者目線で新市場の創造につながる商品の企画・開発に注力することで、価格以外の独自性を重視したPBが普及し始めてきています。

(一社)全国スーパーマーケット協会「2023年スーパーマーケット年次統計調査」(調査実施期間:2023年7月~2023年8月/回答企業:283社)によると、PBを「取り扱っている」小売業者は2023年調査で全体の80.5%となっており、ここ数年増加傾向が続いています。

PBの取り扱い状況
PBの取り扱い状況のグラフ
出典:(一社)全国スーパーマーケット協会「2023年スーパーマーケット年次統計調査」

また、総売上高に占めるPBの売上高比率について、2023年は全体で平均10.1%でした。回答構成比率をみると、「10%未満」の割合が23.7%と最も高く、次いで「5%未満」22.9%、「15%未満」と「20%以上」で17.9%と続いています。

時系列では、「20%未満」と「20%以上」で増加傾向にあり、今後も小売業者がPB開発を強化していくことが予想されます。

PBの売上高比率
PBの売上高比率のグラフ
出典:(一社)全国スーパーマーケット協会「2023年スーパーマーケット年次統計調査」

一方、オランダに本部を置くプライベートブランド製造者団体であるPLMA(Private Label Manufacturers Association)によると、ヨーロッパ17ヶ国の2022年食料品市場におけるPBの売上高比率は2021年対比で1.2%増加して37%に達しており、日本においても増加の余地があると言えます。

PBの台頭によるNBへの影響とメーカーの対策

買い物をする人と商品を準備する店員のイメージイラスト

PBの位置付けが、NBの低価格化だけではなく、小売業者にとって企業理念の具現化や競争他社との差別化など、価格以外の独自性を実現する手段にさらにシフトしてくることが予想されます。それにともない、低価格ラインの品揃え強化だけではなく、高品質や高機能など様々なラインを開発するなど、PB内で複数ライン化の動きが顕在化しています。このような状況の中、NBはどのような影響を受けるのかについて整理していきます。

まず想定されるのは、小売業者の棚スペースにPBを優先的に配置されることでNBに割り当てられる棚スペースが縮小し、その結果NBの取り扱いSKU数が減少することです。将来的には、PBの価格帯や品質、品揃えが充実していくことで、各カテゴリーでビッグブランド以外のNBが淘汰されていくでしょう。

仮に、2023年の業界推計値が約10%(図表のPB売上高比率が20%まで上昇すると、NBの売上高比率が約10%減ることになります。もし、あるカテゴリーにおいてNBが2023年現在90%の売上高比率で20ブランドの取り扱いがあるとすると、パレートの法則(2:8の法則)を当てはめると上位4ブランドで売上高比率72%を占めることになります。

さらに、PB売上高比率が20%に上昇することでNB売上高比率は80%に下がり、NBにおける上位4ブランドの占める割合(72%)が高まります。その結果、NBメーカーは新商品を上市しても、小売業者の売場内での競争激化により、従来のやり方を踏襲していてもブランド力の向上が困難になっていきます。

「NBの低価格化」「PBの供給」「価格に対するNBの品質水準向上」「新たな需要を創造するNBの開発」

ショッピングカートを押す女性のイラスト画像

今後、さらなる台頭が想定されるPBに対してのNBメーカーの主な対策としては、「NBの低価格化」、「PBの供給」、「価格に対するNBの品質水準向上」、「新たな需要を創造するNBの開発」が考えられます。

「NB商品の低価格化」については、PBだけでなく競合NBメーカーとの価格競争を引き起こす懸念があります。そのような状況下では、低価格化を推進しても売上高増を達成するために必要な売上数量増の効果は薄まり、最終的にカテゴリー全体の売上規模が縮小するとともに利益が著しく悪化する可能性も高くなります。その他に、低価格化へ向けたコスト削減のための業務効率化や生産性向上だけではなく、消費者が気づかないであろう機能や商品特性を省いてしまう恐れもあり、NBメーカーが長い時間をかけて構築してきたブランド力を破壊しかねません。

「PB商品の供給」については、前述のように大手NBメーカーも受託生産しているケースが増加しています。近年は、日本でも小売業界においては大手への寡占化が加速しており、販売チャネルとしての存在感が増しています。

これまで、ビッグブランドのない中小メーカーがPBを受託生産することで、大手小売業者の販売チャネル(棚スペース)確保や余剰生産設備の稼働率向上という経営課題の解決につなげてきました。

一方、大手NBメーカーのPB受託生産の背景には、カテゴリー内の価格競争からの自社NBの防衛の他、自社が弱いカテゴリーにおける売上高比率の拡大という狙いがあります。

ただし、PB の受託生産に際しては、製造原価の小売業者への開示が求められ、結果としてNBと比較して粗利率が低くなることが想定されます。さらに、大手NBメーカーの場合は、その情報をベースに小売業者から既存NBへの納価引下げの圧力が強まる可能性もあります。

「価格に対するNBの品質水準向上」は、市場が成長期にあるカテゴリーではPBとの差別化が販売数量の増加や市場規模の拡大につながりやすく有効な対策と言えます。しかし、市場が成熟期から衰退期にある場合は、過剰品質となる懸念があります。

「新たな需要を創造するNBの開発」は、NBメーカーの本質的な取り組みであり、カテゴリー全体の売上規模拡大につながる有効な手段です。一方、商品化に成功しても直ちに模倣版・低価格版のPBが横行することでNBの優位性が損なわれてしまうなど、収益化が困難です。

しかし、「新たな需要を創造するNBの開発」は、新商品の上市という意味合いだけではなくNBメーカーとしての企画力や開発力、技術力を消費者に印象付け、メーカーへのロイヤリティを向上させる有効な手段となります。

国内市場縮小に向けて

レジにいる男性のイメージ画像

一方、少子高齢化による国内市場の縮小が予想される中、NBメーカーが新たな需要を創造するには、これまでのように高品質な商品を上市して広告活動によりブランド力を高める「ブランドマーケティング」だけでは達成が厳しい状況となっています。

PBが台頭する中、小売業者や購買者を深く理解し、それに基づき小売業者や購買者に売れる仕組みを作る「トレードマーケティング」の重要性が高まっており、NBメーカーは「ブランドマーケティング」と「トレードマーケティング」を車の両輪として、小売業者とともに新たな市場を創造していくアプローチが必須となっていくものと思われます。

(文)田中イノベーション経営研究所
中小企業診断士 田中勇司
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2023年10月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。