アパレルのAI活用

2024年4月24日

流通トピックス

■業種・業態:衣料店  
■キーワード:商品開発/在庫管理/サプライチェーン管理/データサイエンティスト

カラーバリエーションが多数あるTシャツのイメージ画像

SNSやコレクションは、ファッショントレンドを読む上で重要な要素です。しかし、膨大な写真などのデータから人が読み取るには限界があります。そこで、今注目を集めるのがAIの活用です。トレンドを分析し、商品開発から管理までさまざまな活用が広がっています。

新しい取り組みへの背景

ダンボールに衣類が入っているイメージ画像

従来のアパレルのデザイナーは、シーズンごとのサイクルで、マーチャンダイザーやパタンナーなどと打ち合わせをしながらニーズやトレンドを調査して、ブランドのコンセプトなどを考慮し、デザイン画を作成します。パタンナーにパターン(型紙)を依頼し、工場へ送る仕様書を作成していたのです。

このようなデータの裏付けがない主観的な商品開発が、過去には大量の在庫を生み出し、それが破棄問題にもつながっているといった指摘があります。

さらに環境問題に対する消費者の意識が高まっていることもあり、消費者のニーズを見極め、きちんと市場の動向を判断することが求められています。商品の在庫を減らしたり、ヒット商品を生み出したりして、破棄問題を解消できるからです。

加えて、現在、ファッションのトレンド形成や売上に影響を与えるのは、ファッション誌のモデルやセレブリティから、SNSで発信する消費者へと移っています。

世界のアパレルでは、このような新しい声をAIを活用してリアルタイムでつかみ、商品開発に活かしている企業が出てきています。

越境ECの躍進と商品開発と在庫管理、サプライチェーン管理を支えるAI

AIと人がつながっていることを表しているイラスト画像

アメリカの大手情報サービス会社の分析によると、アメリカのファストファッションの売上高の50%以上を占めたのが中国発の企業で、現在は本社をシンガポールに移転したネット通販会社S社でした。

次がスウェーデン発のアパレルH社が16%、3位がスペイン発のアパレルI社が13%、4位が日本未入荷のアメリカ発のアパレルFN社が11%、5位が日本進出後に撤退したアメリカ発のアパレルF社で6%でした(2022年11月現在)。

では、この1~3位のS社、H社、I社のAIを使った商品開発についてみていきましょう。

まずはS社です。レディースからメンズ、キッズといったアパレルを中心にして、バッグや帽子など小物、雑貨、ペット用品、スポーツ用品まで、食品や家具、大型家電以外はほとんどカバーしています。

S社のサイトには毎日3,000点以上の新商品がアップされますが、服については50~100着程度のミニマムロットの生産で、人気に応じて生産を増加するという「オンデマンド製造」を実現しています。売れ行きが悪い商品は、どんどん値段を下げて売り切ります。

商品の開発スピードが早いので有名なのがI社は、企画・製造から店舗に並ぶまで2週間といわれています。ただし、売り切れたとしても、その後、補充されることはありません。

S社はどうでしょうか。企画・製造から販売まで最速3日でといわれています。それを支えているのが、アパレル業界向けにAIサービスを提供するZ社のビッグデータとAIアルゴリズムを組み合わせたSaaS型データインテリジェンスサービスCなのです。

サービスCは、ECサイトやSNSなどから服などの膨大のデータを収集。そしてAIアルゴリズムが数十種類のデザインパターンを識別し、「モデルの性別や国籍」「素材」「柄」など1,000程のタグ付けします。それを基に数百人いるデザイナーは、提供されるスタイル画を修正したり、素材や色、柄を決めたりして、新商品を開発するのです。

また、このようなソフトウエアだけではなく、開発した新商品をすぐに注文できるSCM(サプライチェーンマネジメント)も提供しています。

Z社のCは2,000以上のブランドが利用しています。日本のアパレル大手傘下のブランドにも提供。2023年2月下旬には、大手生活雑貨店M社とあらゆる品目を対象とした協業が確定しています。

S社は中国の数千の小規模製造業者と契約し、独自のサプライチェーンを構築しています。新しいデザインが決まるとSCMを通じて自動的に製造業者に送られ、50~100着製造。そして、在庫数やアプリ内のユーザーのお気に入り数など照らし合わし、人気のある商品であれば、SCMを通じて自動的に増産されるというわけです。

これにより、在庫のムダを1ケタ台前半に削減しています。業界平均の30%を大幅に下回っています。S社は中国以外でもサプライチェーンを構築し、生産コストや物流コストを節約しようとしています。

データサイエンティストを使ってトレンド予想を行う

衣料品店にて服を見ている人たちのイメージ画像

スウェーデン発のアパレルH社では、200人以上のデータサイエンティストを雇用して、トレンドの予想と分析を行っています。AIアルゴリズムはブログ投稿や検索エンジンを調べて、ファッショントレンドデータを収集します。

また、ユーザーの需要を調査するために、実店舗での購入・返品傾向、ポイントカードのデータを分析するアルゴリズムを新商品の開発に活かしています。

AIは新しいトレンドを予想するだけではなく、特定の商品をより多く、または少なく生産することも通知します。H社は自社工場を持たないで、世界中の700以上の製造業者と契約しています。この適切な需要計画が契約している業者に伝えることができるようになってから、リードタイムと廃棄物の削減につながっています。

さらに、H社はローカライズされたアプローチも行っています。ストックホルムの店舗では、AIアルゴリズムを使用して買い物客の好みを研究しました。その結果、買い物客は花柄のスカートなどのフェミニンな服を好み、廉価な商品には魅力を感じていないことが分かりました。これに基づいて在庫を調整し、コーヒーショップも追加すると、売り上げは大幅にアップしたとのことです。

EC比率を2024年には3割にする

女性がパソコンを見ながら衣類をダンボールに梱包しようとしているイメージ画像

スペイン発のアパレルI社は、2社と異なり、ほとんどアウトソーシングしていません。デザインから出荷まですべてを管理することで、企画から店舗に並ぶまで2週間を実現できているのです。毎週2回、新商品が店舗に並ぶことで、ユーザーの来店頻度を高めてきました。このように自社で提供することでデータを収集し、正確な予測を作成しています。

これを強化するために、全商品にRFIDを取り付け、各国の店舗とECにおける在庫一元化を実現し、販売可能な在庫を完全に把握できるようになりました。

さらにユーザーがオンラインで購入したときに商品を店舗での受け取る(BOPIS)にするのか、宅配ボックスにするのかなどクリック&コレクトに対応するために、AIロボットも採用するなどして、2024年までにEC比率を30%以上にする目標に取り組んでいます。

AIを活用した消費者行動予測プラットフォームであるJとも提携、ECでのAIスタイリスト機能のベータ版をリリースしたということです。

例えば、あらかじめサイズ、色、フィット感、スタイルの好みなどを登録しておくと、最新のファッショントレンドと体型、居住地や気候などに基づいて、ユーザーに似合う服やスタイルを提案してくれます。

このように海外アパレルでのAI活用はかなり進化を遂げています。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2023年10月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。