Web3.0は小売業に変化をもたらすのか
「仮想通貨」「NFT」「メタバース」の可能性

2024年4月24日

流通トピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:Web2.0/バーチャル/CRM/仮想世界

スーパーマーケットの看板イメージ画像

今、Webは、我々の生活に欠かせない存在になりました。このWebが一般に知られるようになったのは1994年です。この頃のWebはWeb1.0といわれています。当時はChameleonといったWebブラウザを使ってネット上を検索し、Webベージを読むだけに留まっていました。

Web2.0へと移行した2005年以降

2005年以降はここにTwitterやFacebookといったSNSやコミュニティサイトが加わり、調べて読むだけでなく、ユーザーが自由に書き込み発信することができるようになりました。

Web2.0は、プラットフォーマーに個人データが握られていて、投稿内容の許諾はプラットフォーム側に権限があるなど、中央集権型の仕組みです。対して2021年から注目されはじめたWeb3.0は、情報が分散管理されていることが最大の特徴です。

ブロックチェーン技術(※1)により、情報の信ぴょう性や取引データ、個人データを自動管理しようという時代になったのです。
Web3.0はブロックチェーン、スマートコントラクト(※2)の上に「仮想通貨」「NTF」「メタバース」の各種技術で構成されています。

「仮想通貨」(暗号資産)は、特定の仮想コミュニティで使用できるデジタル通貨の一種で、銀行などの第三者を介さず財産的価値のやりとりが可能な金融資産と見ることができます。

「NFT」は非代替性トークンと呼ばれ、ブロックチェーン上で発行された唯一無二のデータのことを指します。アバター(※3)に着せる服や靴、アクセサリーなどのバーチャル商品やデジタルアートなどが挙げられます。

「メタバース」とは、インターネット内に構築された3次元の仮想空間やそのサービスのことです。
では、「仮想通貨」「NFT」「メタバース」について簡単に紹介しながら、その可能性について考えてみたいと思います。

バーチャル商品の販売が収益につながる時代に

バーチャル空間でのショッピングのイラストイメージ画像

バーチャルアイテムを手掛けるデザイナーグループRは、アバターが着用する一点物のスニーカーや、デジタル工芸品を制作しており、7分間で310万ドルのバーチャルスニーカーの売上を達成したことで有名な新進気鋭のブランドです。

Rの商品は自社サイトでラインアップを陳列しますが、実際の購買は「OpenSea」という世界最大のNFTマーケットプレイスで行われます。

世界的なブランドのG社は、アバター開発のスタートアップ企業との提携を強化し、ブランドのアプリ内で使えるオリジナル3Dアバターを作成しました。まだG社の商品を買えない若年層とのつながりを作ることを主眼にしていますが、いずれは有償販売による収益化を狙っているようです。

同じく世界的なブランドのD社は、NFTを用いて4つのデジタルコレクションを発表し570万ドルで落札されました。

さらにスポーツメーカーのA社は自社サイトでバーチャル商品を作成、販売しており、購入したバーチャル商品を一定期間保有した顧客へ、リアルの新商品をプレゼントするなどしてファン化して個客の囲い込みの手段としています。

そして、バーチャル商品が2次流通(転売)される際、A社側はスマートコントラクトで収益を確保しています。このスマートコントラクトによって、顧客が商品をどのくらい保有したか、所有者が誰に移管したかが分かるため、所有者のA社へのロイヤルティを図ることができる上、転売時にはA社側にも手数料が入ってくる仕組みになっています。

また、日本のコンビニLでは、自社でチケットを購入したアイドルのライブや演劇などのイベント参加者に対して、Lでのチケット購入者しか手に入れることのできない、参加記念のNFTを無料配布して、競合他社との圧倒的な差別化を図るといった活用を始めました。
このようにバーチャル商品は、自社のファン化の促進につなげる手段として今後期待されますが、ロイヤルティプログラムとの連動した施策などにつなげられていないのが現状です。

今後、例えばNFT保有者だけが得られる限定商品の販売やイベント参加などの特典提供で、会員のレベルアップにもつなげるといった取り組みが始まる可能性があるでしょう。

メタバース上のバーチャル店舗の可能性

メタバースとは、インターネット内に構築された3次元の仮想空間や、そのサービスのことを指します。製造業では、工場を複製した仮想空間を構築し、教育トレーニングや各所の安全点検、機器や部品の経年劣化を確認するなどのデジタルツイン(※4)として活用されています。

一方で小売業におけるメタバースは、バーチャル店舗が主流です。
例えばアパレルブランドのB社は、商品を棚に陳列したバーチャル店舗を構築。ユーザーは店内を歩き回り、気になる商品を手に取ることができますがが、商品の詳細や実際の購入はECサイトへ誘導します。まだメタバース上で商品を選び決済まで終えられるところまではきていません。

海外の大手スーパーマーケットチェーンのC社は、厳密にはメタバースとはいえませんが、自社のオンラインゲーム内にポップアップ店舗を設置し、ゲームキャラクターが食べ物を食べることで、キャラクターの健康レベルを上げるといった遊びを提供しています。
これは、売上を上げることが目的ではなく、これから消費の主役となるZ世代からの認知・親近感を高めることを狙ってのものです。

こうした事例から、小売業にとってのメタバースは、今はブランド認知が主であり、そこで収益を上げる段階にはなく、あるいみチャレンジであり実験的な意味合いが強いようです。

課題は投資の高さとユーザー数の少なさ

メタバース空間にてショッピングしている女性のイラスト画像

さて、将来的にメタバース活用はどう変わっていくのでしょうか。
結論からいうと、メタバース空間内でのアバター人格に対するCRMが拡大すると考えられる。

そもそも現実世界と、メタバース空間の人格を変えているユーザーは非常に多く、アバターは実際の人物とは別人格であるといえます。あるアンケート調査によれば、ソーシャルVRユーザーの約8割が、女性アバターを利用しているという結果が出ています。

そこで、メタバースに出店している企業は、物理世界の人格に対するCRMとは別に、仮想世界側のアバター人格に関しても、CRMを行うケースが増えると考えられます。具体的には、物理世界の30代男性にはバーチャルアートを提案し、仮想世界では女性用のアバター商品を提案するといった具合に、同一人物ではあるもののそれぞれの人格に対してデジタルマーケティングを行うようになるのではないでしょうか。

以上、メタバースはビジネスとしての可能性はあるものの、現段階ではコミュニティの場としての活用に留まっています。今後はVRゴーグルなどがより安価になり、メタバースが一般化しユーザー数が増えない限り、小売業での活用もまだ先が見えにくいといえそうです。

  1. 1 ブロックチェーン:情報通信ネットワーク上にある端末同士を直接接続し,暗号技術を用いて取引記録を分散的に処理・記録するデータベースの一種。仮想通貨に用いられている基盤技術
  2. 2 スマートコントラクト:ブロックチェーン上で交わされた契約を自動的に実行する仕組み。これにより、第三者を介さずに信用が担保されたトランザクションを処理できる
  3. 3 アバター:インターネットやゲームといった、仮想空間上に登場するキャラクター
  4. 4 デジタルツイン:仮想空間上に現実世界の情報を複製した双子を構築し、シミュレーションを行う技術

(文)販売革新 編集部
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2023年12月時点のものです。
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