東芝ブレイブルーパス東京×東芝テック 特別対談
「スポーツ」と「経営変革」データを生かすDX戦略
東芝ブレイブルーパス東京株式会社
代表取締役社長
荒岡 義和 氏
東芝テック株式会社
取締役常務執行役員
武井 純一
今年で創部75周年を迎えたラグビーチーム「東芝ブレイブルーパス東京(※)」。「猛勇狼士(もうゆうろうし)、我ら接点無双、猛攻猛守の紳士なり。」というチームスピリットを掲げながら、実は最新テクノロジーを駆使してチーム強化を図っています。東芝テック株式会社はJAPAN RUGBY LEAGUE ONE開幕時からオフィシャルパートナーとして同クラブをサポートしています。DX (デジタル・トランスフォーメーション)を軸に経営変革を進める東芝テックとの共通項を、東芝ブレイブルーパス東京株式会社の代表取締役社長・荒岡義和氏(以下:荒岡(敬称略))をお招きし、当社取締役常務執行役員の武井純一(以下:武井)と語り合っていただきました。
※ チーム名の「ルーパス(LUPUS)」はギリシャ語で「狼座」を意味し、狼のように群れをなしながら緻密かつ野性味あふれる追い込みと、勇猛果敢(BRAVE=ブレイブ)なプレーを身上とする意味が込められています。
日本ラグビー「新時代」の到来。今こそ目指す姿とは?
────2022年のJAPAN RUGBY LEAGUE ONE(以下:リーグワン)の開幕に合わせた東芝ブレイブルーパス東京(以下、チーム略称としてBL東京)の設立と、東芝テックがオフィシャルスポンサーとしていち早く名乗りを上げた経緯などについて教えてください。
荒岡:ラグビーの競技会を主催していた日本ラグビーフットボール協会から一般社団法人として独立し、野球やサッカーと同じようにプロ化を目指したのがリーグワンです。それに伴い、私たちも対応を迫られました。リーグワンに参戦するには事業化が条件で、選択肢はいくつかありましたが、私たちは分社化して株式会社となる道を選びました。そうなると、親会社の東芝以外からもスポンサーを集めないと事業として成り立ちません。法人化の準備と並行してスポンサー探しに奔走しました。東芝テックさんからは最初から前向きなお返事をいただき、たいへんありがたかったです。
武井:お話をいただいた2019年は、日本で開催されたラグビーワールドカップで日本代表チームがベスト8に入る活躍をしたことで日本中が一体となり、たいへん盛り上がっていたときです。その余韻が残っているタイミングでしたし、同じ東芝グループですので、みんなで応援して盛り上げていきたいという想いもあり、喜んでお引き受けしました。BL東京には知名度の高い選手も多く、当社従業員のエンゲージメント向上にも寄与できると考えました。
社会の一員として日本ラグビーの盛り上がりの波に乗りたい、というのも理由の一つですが、当社では紙で受け取っていたレシートを電子化しデータとして管理、提供する「スマートレシート®」という一般消費者向けの電子レシートサービスの認知度を上げたいと考えていた時期でした。急増するラグビーファンをターゲットに広告媒体としての魅力を大きく感じたことも、もちろん理由としてあります。
東芝ブレイブルーパス東京株式会社
代表取締役社長 荒岡 義和 氏
荒岡:東芝テックさんは「スマートレシート®」のサービスを拡大したいということでしたが、私たちもラグビーファンや競技者人口をもっと増やしたいという点で共通しておりました。「スマートレシート®」のような一般消費者向けの製品やサービスをアピールすることで注目を浴び、両社の目標により近づけるのではないかと考えました。
武井:そのとおりで、私たちの事業はリテール・ソリューションとワークプレイス・ソリューションの2つが柱です。なかでもお客様の買い物をサポートするリテール・ソリューション事業は消費者との接点が多く、かつ「スマートレシート®」はお客様ご自身に使っていただくサービスですので、ジャージーの袖に入れていただいたロゴを通じて、少しでも多くの方々に知ってもらえたらうれしいです。
荒岡:私も普段から買い物をしていて東芝テックさんの製品によく触れていますが、「スマートレシート®」はそのなかでも非常に先駆的でユニークなサービスですよね。私たちも「世界有数のユニークなラグビークラブになる」という目標を持って活動していることもあり、通じるものがあります。ラグビー界における唯一無二の存在として「BL東京のラグビーは面白い!」と思っていただけるようなクラブを目指していきます。
東芝テック株式会社
取締役常務執行役員 武井 純一
東芝テックの電子レシートサービス
「スマートレシート®」
ゲーム戦術や選手管理に「最新テクノロジー」を活用
────BL東京ではチームを強くするために、最新テクノロジーを活用しているとお聞きしています。具体的にどのような取り組みなのでしょうか。
荒岡:ラグビーはワールドワイドでどんどん進化しており、世界のトップチームの戦術や考え方をリアルタイムで手に入れています。強くなるには、それらを自分たちに合わせてカスタマイズし、絶え間なく実践していかなければなりません。
私が着任する以前から一部の選手にGPSを付け、動きや運動量をデータ化するという取り組みを行っていましたが、現在は練習の段階からすべての選手にGPSを付け、得られたデータを試合や練習に活かしています。
試合ではボールを持ってどれだけ進んだか、誰がトライしたかなど、選手ごとに数十項目のスタッツ(成績)をつけて点数化し、評価に結びつけています。また、チーム全体の動きも、相手に攻め入っているときはどんな動きをしているかなど、すべてデータに落として〝見える化〟しています。選手にとってはオーバーワークを抑制し、練習のし過ぎによるケガや体調不良を防ぐというメリットもあります。
また、試合や練習では上空からドローンでグラウンド全体を撮影し、それを戦術に役立てるという取り組みも行っています。
東芝ブレイブルーパスが実用するデータ活用の一例
画像提供:東芝ブレイブルーパス東京
DX推進により、お客様へ「新たな価値」を提供
────BL東京のデータ活用による戦術強化は、東芝テックの事業戦略と繋がるものがあるのではないでしょうか。
武井:今まさに、当社でもこれまで以上にデータを活用した事業戦略に力を入れています。当社はPOSのシェアが世界トップ(注1)で、国内では50%ぐらいあります。またワークプレイス・ソリューションの分野では、全世界に約140万台のオフィス向け複合機を設置しています。
こうしたグローバル規模での顧客基盤と、買い物やビジネスでのサポートを通じてお客様と直に触れ合える「タッチポイント(顧客接点)」が当社の大きな財産です。この強みをベースに、お客様が直面するさまざまな社会課題を、データを活用し解決する「グローバルトップのソリューションパートナー」になることを目指しています。
そのカギとなるのがDXで、サイバー空間上のさまざまなデータと実際の購買データを組み合わせてお客様に新しい価値を提供する「ELERA(エレラ)」というプラットフォームの展開も進めています。
荒岡:東芝テックさんもかなり変わろうとされているのですね。
武井:分析する中身は異なっていても、データを活用して戦略を練るという点では企業経営もスポーツも同じだと感じます。
2022年4月から社内DXを本格的に推進するための新組織を立ち上げ、その第一ステップとして営業変革に取り組んでいます。
具体的には、お客様情報や現場営業・SE・サービスの情報を体系化して経営情報として可視化していく取り組みを行っています。今までは現場を起点に、各エリア単位、各組織単位できめ細かな営業戦略を進めてきましたが、全国レベル、本部主体での営業戦略も重視していくことが必要と判断し、営業情報の共通基盤の構築と営業マネジメントのプロセス改革を行っています。あわせて、営業業務プロセスも全社レベルで標準化と集約化を進めています。
────お客様との接点という面では、どのような取り組みを行っているのでしょうか。
荒岡:私たちが今後強化していきたいのは、ファンサービスにかかわるデータ活用です。たとえば、試合会場で売れた商品のPOSデータを解析し、ファン層の拡大やサービス向上に活かすといったことを始めたいと思っています。もちろん実際にリアルでの触れ合いがあってのことです。先シーズン、私たちはファンの皆さまをブレイバーと呼びました。試合開始前やハーフタイム後に選手がグラウンドに出ていくとき、抽選で選ばれたファンの方たちが選手を送り出す「ブレイバー花道」、試合が終わった後は出場した選手だけでなく控えの選手も総出でファンをお見送りする「ブレイバーファミリーロード」を設けたりしました。
また、シーズンが始まる前の11月には、練習グラウンドでプレシーズンマッチ、いわゆるオープン戦を3試合行い、ファンの方々を1試合で800人ぐらい招待しました。試合が終わったあとは選手と一緒に写真を撮るなどの交流イベントを実施しました。
武井:昨シーズンに何度か試合を観戦させていただきましたが、試合会場でさまざまなイベントを開催されていましたよね。子どもから大人まで楽しめる催しが多く、本当にお客様との接点を大切にされているのだなと、感心した覚えがあります。
当社もお客様との接点をより深化させていくことが重要と考えています。インターネットの普及で情報の取得手段が変化したり、リモートワークが増えたりと、お客様のニーズも多様化しています。今までのように営業担当者がお客様のご要望を直接聞きに伺うだけでなく、デジタル接点を強化していくことが、顧客価値向上につながると考えています。今後の注力商品やサービスを、現場営業と連携して顧客接点をさらに創出していくためのデジタルマーケティングを強化しています。
荒岡:そういう意味では、BL東京は東京都、府中市、調布市、三鷹市をホストエリア、昨シーズンからはフレンドリーエリアという形で神奈川県川崎市とも協定を結び、学校を通じて優待券を配布するなど、地域に密着したファンづくりのための活動を行っています。「ブレイバー花道」のようなファンサービスはファンクラブ会員の特典ですので、デジタルマーケティングを活用しながら魅力的なサービスを増やすことでファンクラブの増員にも努めていきたいと思っています。
リーグワンがスタートした時点で2,000人弱だったファンクラブ会員も、現在は7,400人ぐらいまで増えました。無料会員のカテゴリーもあり、登録していただけるとメルマガなどでクラブの情報を発信できるので、そこにさまざまな情報を流して集客に繋げています。
ファンクラブ会員特典の「ブレイバー花道」
社会や暮らしに「感動」を与える企業でありたい
────両社とも地域交流や社会貢献活動を積極的に進められていると伺っています。
荒岡:ホストエリアとフレンドリーエリアを中心に、行政の皆さんとタイアップし、ハンディキャップのある方々に対するラグビー体験や小学校でのラグビー教室、選手や指導者の講演会などを年間で数十回開催しています。
また、未就学児や小学生を対象にスポーツ教室を運営している株式会社バディ企画研究所と提携し、複数のラグビー教室にコーチを派遣しています。私たちもラグビー経験のある小学生と中学生を対象に「ルーパス塾」というアカデミーを主宰していますが、自分たちのインフラを利用するだけでは限界があるので、他の企業や団体とともに、子どもたちの健全な成長に貢献できるような活動を行っていきたいと考えています。
小学生を対象としたラグビー教室
武井:当社も製品やサービスを通じて社会や暮らしに「感動」を与える企業でありたいという目標を掲げており、社会貢献活動を重視しています。
最近高い評価を受けたのが、2023年4月に発行された小学館の子ども向け雑誌「幼稚園」とタイアップした付録です。読者の子どもたちが自分で組み立てるペーパークラフトのセルフレジカートで、カートの形状や実際のスキャン音が鳴るセンサーなど、実物の再現性にこだわりました。これは各方面から注目され、特定非営利活動法人キッズデザイン協議会が主催する『第17回キッズデザイン賞』を受賞しました。
また以前より、地域に根差した活動にも力を入れています。当社は静岡県伊豆の国市と三島市に事業所がありますが、今年5月にその最寄駅である伊豆箱根鉄道の大仁駅と三島広小路駅の副駅名に、当社の経営理念である「ともにつくる、つぎをつくる。」という言葉を入れるネーミングライツ(命名権)契約を結びました。伊豆地域の発展に貢献していきたいと思い、実施させていただきました。
小学館の幼児誌『幼稚園』付録企画
「カート型セルフレジペーパークラフト」
伊豆箱根鉄道「大仁駅」の駅名標
荒岡:最後になりますが、今年はワールドカップイヤーで、今まさにラグビーワールドカップが開催中です。BL東京からはリーチマイケル、ワーナー・ディアンズ、ジョネ・ナイカブラの3名が日本の主力選手として参加しています。来シーズンからBL東京に加わるリッチー・モウンガとシャノン・フリゼルも、強豪ニュージーランドチームの一員としてプレーしますので、ぜひご注目ください。(注2)
リーグワンもワールドカップ後の12月に開幕します。東芝テックの皆さんをはじめ、大勢の方々に応援に来ていただけたらうれしいです。
武井:もちろんです。積極的に社内へ情報発信し、全社で盛り上げていけるようにしたいと思います。リーグワンでのチーム初優勝に期待しています!
(注1)RBR Global EPOS and Self-Checkout 2022「TOSHIBA」及び「東芝テック」のPOSターミナルとセルフチェックアウトのインストールベースシェア
(注2)2023年9月8日時点