ダイバーシティー発想が生む活力ある店づくり
多様な人材を採用・育成

2023年12月21日

流通お店づくりトピックス

■業種・業態:スーパー/飲食店  
■キーワード:ダイバーシティ/コミュニケーション/採用

ダイバーシティー発想が生む活力ある店づくりのイメージ

有効求人倍率が1.6倍※に達し、人材難が続くいま、シニア、外国人、主婦(夫)など潜在的な働き手を積極的に雇用する「ダイバーシティー(多様性)」採用を促す動きが活発化しています。本特集では、多様な人材を活用し、より魅力のある店舗にするためのポイントを解説します。

※ 2018年5月/ 1.60倍、同6月/ 1.62倍、同7月/ 1.63倍:厚生労働省発表の季節調整値(含パート)

シニア・外国人・主婦(夫)の増加専業主婦は600万人以上

少子高齢化が進んだことで、日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年の8716万人から2015年には7628万人へと1割以上減りました。今後も減少傾向は続くと予測されており、シニア(高齢者)、外国人、主婦(夫)など、これまでは主要な働き手と考えられていなかった人たちの雇用促進が、人手不足を補う重要な鍵を握っています。

定年後も働き続けたいと考えるシニアは多く、経済的に余裕があっても、生きがいや人との交流を求めて就労を希望する人もいます。留学生や、在留外国人・日本人の配偶者など、日本に住む外国人の数は2018年に最多の249万人にのぼりました。主婦(夫)はすでに多くの店でパートタイマーとして活躍していますが、2016年時点で専業主婦世帯が664万世帯あり、まだまだ雇用の余地は残されています。

〝多様化〟するお客様にスタッフも〝多様化〟で対応

企業にとって、ダイバーシティー採用を進める意義は人手不足の解消にとどまりません。

食品小売、アパレル、化粧品など来店客の大半を女性が占める業種では、女性従業員の視点を店づくりや接客に生かしている企業があります。現在は高齢者比率の上昇や外国人観光客の増加により、シニアや外国人についても同様の取り組みが必要になっています。

たとえば機器の操作が苦手なシニアが家電店や携帯電話ショップを訪れたとき、シニアのスタッフがいれば同じ目線でアドバイスができます。外国人観光客が来店した際は、同じ言語が話せるスタッフがいればスムーズな接客が可能です。お客様の多様化に応じて、スタッフも多様化することで一人ひとりのお客様に対応することが重要になっています。

ダイバーシティー採用のポイント(求職者の属性別)

  シニア 外国人 主婦(夫)
求職者の傾向 ・給与などの条件よりも「働きがい」を重視する傾向がある。経済的な余裕があっても、社会貢献や顧客・仕事仲間との交流を目的に就労を希望する人もいる ・留学生や在留外国人・日本人の配偶者が中心
・日本語能力はさまざま。「話す」「聞く」はできるが、「読む」「書く」は苦手な人も多い
・家事・育児、介護などとの両立のため、勤務できる日数・時間帯に制限がある
・働くことを家族に反対されている人もいる
採用・雇用のポイント ・体力が必要な作業よりも、接客など人生経験が生かせる仕事を任せる
・物を運ぶ台車を用意するなど、負担軽減のための環境整備をする
・多言語対応の求人サイトを設ける ・日本のルールやマナーをていねいに教える
・就労ビザの有無によって働ける時間が限られるので確認、して採用する
・受け入れ従業員の教育
・中長期的なライフステージの・変化を見据えて採用する
・従業員特典・自社のCSR活動など、家族を説得できる材料を提供する
・面接で希望を聞き取り、柔軟な勤務形態で働いてもらう
・既存スタッフが積極的にコミュニケーションをとり、溶け込みやすい環境をつくる

※政府は2008年から「留学生30年計画」を実施しており、2020年度までに30万人に増やす方針です。留学生が働くには「資格外活動許可」を取得する必要があり、就労は28週時間までと定められています。

「長時間労働のマルチプレイヤー」から「短時間労働のスペシャリスト」へ

これまでの日本の労働市場では、フルタイム勤務で、どんな仕事でも任せられる人材が重宝され、パート・アルバイトでも週の最低出勤日数や勤務時間帯を雇用主側が指定することが一般的でした。

しかし、ダイバーシティー採用の主役となる人たちは、体力的な制約や家庭との両立などから、働ける時間が限られるケースがほとんどです。外国人の場合は、就労ビザがなければ週28時間までしか働けません。

また仕事内容も、シニアには力仕事より接客など人生経験が生かせる仕事というように、適材適所を考えた業務を割り振る必要があります。

そこで、従来の「長時間労働のマルチプレイヤー」を求める採用から、「短時間労働のスペシャリスト」に活躍してもらう採用へと、発想を転換することが重要です。「短時間のスタッフが増えると、勤務管理やシフト作成が煩雑になる」と思うかもしれませんが、逆に勤務条件を厳しく設定しすぎると、人が集まりにくくなり、採用活動にかかる時間やコストが増加します。また、出産や育児、家族の介護などを理由に離職者が出れば欠員補充を行い、教育も一からやり直す必要があります。

長期的にみると、柔軟な働き方を認めることで多くの人に長く働いてもらったほうが、採用・教育のコストは軽減できます。

採用は長期的な視点で柔軟な勤務形態を提示

採用面接の際は、応募者がどのような働き方を望んでいるかを聞き取り、お互いが納得できる勤務形態を探ることが重要になります。

なかでも主婦(夫)については、ライフステージの進展に伴って勤務可能な日数や時間が変化することも考慮しておく必要があります。たとえば「小学生の子どもがいるので、出勤は週2日、15時までしか働けない」という応募者の場合、子どもが成長すれば勤務できる日数・時間が拡大する可能性があります。短期的には出勤日数・時間の少なさがネックになっても、中長期的に大きな戦力となることを期待して採用するという判断もできます。

なお、主婦の場合は、家族、とりわけ同居する義理の両親の理解が得られず、働くことをためらっている人もいます。そうしたケースでは、家族を説得する材料を提供することも必要です。家庭に影響が出ないように柔軟な勤務を認めることや、店の商品を割引で買えるといった従業員特典のほか、自社で行っている社会貢献や環境保護などのCSR活動もアピール材料になります。

高度な業務にチャレンジさせ潜在能力を引き出す

仕事の割り当てには適材適所が必要ですが、職務内容を「限定」することが必ずしもよいとは限りません。

飲食店の場合、日本語能力が十分でない外国人はキッチンに配属することが妥当なように思えますが、あえてフロアで接客に挑戦してもらうことで日本語やマナーを覚えていくケースもあります。日本に来ている外国人のなかには、現在増加している留学生(図表1)に代表されるように、学習能力や向上心が高く、大きな潜在力を秘めている人も数多くいます。

日本では従来、パート・アルバイト従業員は正社員の補助的な存在と考えられがちでしたが、意欲のある人には高度な業務へのチャレンジを促すことで、貴重な戦力になる可能性もあります。

外国人留学生が増加していることを表しているグラフの画像
出典:独立行政法人日本学生支援機構「平成29年度外国人留学生在籍状況調査結果」
図表1:増加する外国人留学生

コミュニケーション強化で既存スタッフにも好影響

ダイバーシティー採用において定着率を高めるには、従業員間のコミュニケーションを強化し、職場に溶け込みやすい環境を整えることが求められます。既存のスタッフは、新規採用者に積極的に話しかけることが大切です。

既存スタッフにとっても、前述のとおり現在はお客様も多様化していますので、ふだんから多様な仲間と接していれば、どんなお客様が来店してもスムーズに接客できるようになるというプラス効果があります。とくに学生アルバイトは、さまざまな人と働いた経験が社会に出た際に生きてきます。

また、従業員の数が増えると、連絡事項の伝達もれが起こりがちになるため、情報共有の仕組みを整える必要があります。

採用コスト軽減や店舗イメージ向上に効果

柔軟な働き方ができることで従業員の満足度が高まれば、定着率が向上するだけでなく、すすんで友人・知人を紹介してもらえるようになり、採用コストの軽減が期待できます。

また、多くのお店では従業員の居住エリアと商圏が重なっているため、「あの店ではいろんな人が生き生きと働いている」という評判が広まれば、お客様のイメージアップにもつながります。

人口減少は今後も続き、働き手の不足はさらに進んでいきます。これまでの雇用のあり方にとらわれず、従業員と経営者の双方にメリットをもたらす「ダイバーシティー採用」に積極的に取り組むことが、今後の店舗経営において、ますます重要になっていきます。

※当記事は2018年10月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。