ずっと働きたくなるお店
10秒コミュニケーションが職場を変える

2023年12月21日

流通お店づくりトピックス

■業種・業態:スーパー/飲食店  
■キーワード:コミュニケーション/人手不足/人間関係/従業員満足度

ずっと働きたくなるお店のイメージ

人手不足が続く中、採用したスタッフに長期間働いてもらうことが重要になっています。従業員満足度を高めるには、楽しく仕事に取り組める職場であることが欠かせません。今回の特集では、スタッフが「この店でずっと働きたい!」と思えるような仕組みづくりを解説します。

応募したい、働きたいスタッフ充足サイクルをつくる

スタッフの人数が十分に確保できているお店では、スタッフの育成に豊富な時間を使えるため、サービスの質が向上し、売上や客数が伸びて、職場も明るい雰囲気が保たれるという好循環ができています(図表1)。一方、スタッフが慢性的に不足しているお店では、これとは逆の循環が起きており、悪い流れを断ち切る必要があります。

とくに、お店のイメージは重要です。小売店・飲食店は、求職者が事前に客としてお店を利用し、どのような職場なのかリサーチできることが大きな特徴です。もしもスタッフが暗い表情で働いていたり、店長がスタッフを叱責していたりしたら、応募するのをやめてしまうでしょう。

また、応募してもらえたとしても、応募の電話への対応がぞんざいだったり、面接をする部屋が乱雑だったり分煙ができていなかったりしたら、「ここで働きたい」という意欲をなくしてしまうかもしれません。応募者を増やし、採用したスタッフにずっと働いてもらうには、こうした職場の雰囲気や環境を改善することが必要です。

スタッフ充足サイクルによる好循環を表す画像
図表1:スタッフの充足による好循環

モチベーションの維持には「成長」の実感が不可欠

職場の雰囲気を明るくするためのキーワードは「成長」です。人は仕事をするうえで、自分を成長させ、やりがいや達成感を感じたいと思っています。小売業や飲食業での「成長」とは、新しい作業を覚えたり、より高いレベルで行えるようになったりすること、そして売上増や利益改善に貢献できるようになることです。この成長を日々実感できれば、仕事が楽しくなります。

パートやアルバイトの場合、入店直後はさまざまな作業を覚えていきますが、マニュアルや作業手順書に書かれた基本動作を一通り覚えてしまうと目標を見失い、モチベーションの低下につながりがちです。ランクアップや昇給の制度を設けている店も多いと思いますが、それで成長を実感できるのは年1~2回でしょう。

10秒コミュニケーションの実践方法とメリットが記載されている画像
図表2:「10秒コミュニケーション」の実践方法

「10秒コミュニケーション」で目標設定→達成→評価を反復

そこでおすすめしたいのが、毎日の「10秒コミュニケーション」(図表2)です。これは、各スタッフのシフトスタート時に店長と10秒間会話をし、各自の今日の目標やテーマを確認するものです。店長は「今日は何にチャレンジしようか?」などと問いかけ、スタッフは「今月の一押しメニューのおすすめをがんばります」というように宣言します。店長の不在時やスタッフ数の多い店舗では、チームリーダーなどが代行してもよいでしょう。

シフト終了時にも再度「10秒コミュニケーション」を実施。スタッフは目標を達成できたか申告し、店長は「おすすめする時の笑顔が効果的だったよ」「メニューを出すタイミングをこうすればよかったね」などと返します。店長は各スタッフの目標があらかじめ分かっているため、勤務中の様子を観察しておき、具体的な評価やアドバイスをすることができます。スタッフは、目標を立て、達成し、評価され、次の日はもっと高い目標に挑戦するという流れを繰り返すことで、成長を実感できるようになります。

目標は店長などが与えるのではなく、スタッフが自分で設定することが重要です。上から与えられれば「指示」「義務」になり、主体的に働く楽しさは損なわれてしまいます。新人は「今日も笑顔でがんばります」など抽象的な目標しか立てられないかもしれませんが、それでも構いません。経験を積むと「ドリンク追加のおすすめを最低10回成功させます」というように、具体的な目標を設定できるようになるはずです。

このやり取りは、他のスタッフも聞いている所で行うのがおすすめです。個々人の目標を全体で共有することで、先輩スタッフは後輩が目標を達成できるようにサポートやアドバイスができ、後輩は先輩の目標を聞いて参考にすることができます。

10秒コミュニケーションには、さまざまな副次的効果があります。言葉をかわす習慣をつくることで職場のコミュニケーションも深まり、連帯感が強くなります。また、毎日顔を合わせるので店長やリーダーはスタッフに異変があったときに気づきやすく、スタッフも体調不良や家庭の事情などを申告しやすくなります。

個人面談をタイミングよく行い業務・人間関係の不安を解消

仕事上の悩みの相談など込み入った話は「10秒コミュニケーション」ではできませんので、必要に応じて一対一の面談を別途行うとよいでしょう。

とくに、各スタッフの入店初日、3日目、1カ月目、3カ月目に面談(オリエンテーション)を行うことをおすすめします(図表3)。これらは「辞めたくなりやすいタイミング」です。日常的な教育はチームリーダーなどに任せている店でも、この時期の面談は店長が行うほうがよいでしょう。リーダーや先輩によって教え方が違うなどの原因でスタッフが混乱している場合もあり、店長が自ら話を聞くことで、そうした問題を発見できるためです。

初日のオリエンテーションでは、いきなり細かいことを教えるのではなく、あいさつや身だしなみ、時間厳守、仲間と協力すること、困ったら店長に相談することなど、基本的な事項を徹底して伝えます。また、歓迎の意を伝えることも大切です。

3日目の新人スタッフは、「仕事が難しくて自分にはできない」などの悩みを抱えている可能性があります。この日の面談では3日間で感じた不安を全部吐き出してもらい、それを一つひとつ解消します。

1カ月も経つと、業務上のことに加え、「人間関係の不安」も感じるようになります。打ち解けていない先輩スタッフがいるようであれば、そのスタッフに新人を指導させて交流のきっかけを作るといった配慮も必要です。

3カ月が経過するころには一通りの業務を覚え、マンネリに陥る可能性があります。このタイミングの面談では日ごろの「10秒コミュニケーション」で設定している目標より長期的な視点に立った目標を設定し、さらなる成長を促します。

タイミング 目的
入店初日
  • あいさつ、身だしなみ、時間厳守など基本事項の徹底
  • 歓迎の意を伝え
3日目
  • 初日に伝えた基本事項の確認
  • 3日間で感じた不安のヒアリングと解消
1カ月
  • 業務、人間関係の不安のヒアリングと解消
3カ月
  • 今後の長期的な目標の設定

図表3:個人面談のタイミングと目的

個人面談の様子を表した画像

主体性・自発性の有無が仕事の楽しさに直結

仕事の楽しさを感じるためには、個々のスタッフが「やらされている」と感じることなく主体性をもって業務にあたることが重要です。教育プロセスにおいても、「質問型教育」(コラム参照)を取り入れるなど、自分で考えて気づくように促すと、主体性・自発性が高まります。自分で立てた目標を達成する喜びを覚えれば、店舗の売上目標にも関心を持ち、どうすれば達成できるかを考えるようになるはずです。

「ここでずっと働きたい」と思える職場では、各スタッフが友人や学校の後輩を紹介するケースも多いため、採用コストが抑えられます。また、短期で辞めてしまうスタッフがいなくなれば、教育にかかる時間や手間も大幅に減ります。このような状態になれば、「スタッフ充足サイクル」の完成と言えるでしょう。

※当記事は2020年4月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。