元気のいい商店街に学ぶ
店づくり・販売促進のヒント

2024年1月15日

流通お店づくりトピックス

■業種・業態:物販店/衣料店  
■キーワード:再生/ワークショップ/イベント/子育て支援

元気のいい商店街に学ぶ 店づくり・販売促進のヒントのイメージ

和田商店街(東京都杉並区)は、地域の人々との様々な交流を通して、子育て世代が集う商店街へと再生しました。具体的にどのような取り組みが奏功したのでしょうか。同商店街の成功事例をもとに、これからの店づくりや販売促進に役立つヒントを紹介します。

再生のきっかけとなった「親子で商店街デビュー‼︎」

杉並区の住宅街にある和田商店街は約70年の歴史をもち、隆盛期には120軒のお店が並ぶ賑わいを見せていました。しかし時代とともにお店の数も減り、活気を失っていました。

再生のきっかけとなったのは、「親子で商店街デビュー‼@和田商店街ワークショップ」というプロジェクトでした。周辺地域は共働きの子育て世代が多いことから、育児中の女性を中心に、親子で商店街デビューしてもらうというものです。ワークショップには毎回10~20組の親子が参加し、商店街の店をめぐり店主と言葉を交わします。

日頃セルフサービスのお店の利用が多い母親たちにとって、個人店の接客は新鮮に映り、お店にとっても、若い母親層と接するよいきっかけとなりました。このプロジェクトに参加した親子は、商店街の顧客になり、その後強力な応援団となって、和田商店街が活気を取り戻す力になりました。商店街を構成する各個店は何を学び、どんな糧を得たのでしょうか。

思い込みを排除して商圏内の今のニーズを知る

長年お店を経営していると、経験によるノウハウが蓄積されます。来客数予測や仕入れ量、客層分析などを「長年の勘」でこなし、「うちはこういう層のお客様が多いから店づくりは今のままでよい」と思っているお店は少なくありません。しかし、商圏は時々刻々変化しています。その変化を捉えそこなうと、お店の考えとお客様のニーズがミスマッチを起こすことになります。

和田商店街のケースでは、周辺地域に多くのマンションが建ち、年齢別人口では30~40代が最も多く、子どもたちも増えている環境変化がありました。しかも周辺のマンションの売り文句は「商店街があって子育てがしやすい街」となっていたにもかかわらず、店主たちは「この地域は高齢化して若い人がいない」と思い込んでいたのです。

こうしたミスマッチを防ぐには、購買履歴などのデータを分析して商圏内のニーズを客観的にアップデートすることが理想ですが、和田商店街では「親子で商店街デビュー‼」というイベントを通して、地域の若い世代のニーズを把握していきました。

図1・お店の思い込みとお客様の実表を紹介した画像と図2・親しみのあるコミュニケーションについて紹介した画像

イベントを通じて来店のきっかけづくり

個人経営のお店の場合、大切なことは「来店してもらう」ことです。いたずらに大きなイベントを開催するのでなく、店を知り訪れるきっかけをつくるイベントであることが重要です。

たとえば、業種を超えた複数店で協力し合う「クイズラリー」のように、新しいお客様が知らない店を訪れるきっかけづくりを行います。専門店であれば、店主や店員が専門性や目利きを生かした講座を開き、店のこだわりや専門性を伝えます。

イベントはあくまでも新しいお客様と出会うコミュニケーションのきっかけです。お客様にお店を知ってもらい、お店がお客様のニーズを把握することが目的です。お客様との会話を通して、販売データでは見えてこない商圏内の真のニーズをつかみます。

とりわけ、若い世代は、「これからの顧客」です。「つながりをどう深めていくか」を描きながら、若い世代の現在と未来のニーズを探っていきます。

接客の強みを一人ひとりのお客様に

個人経営のお店は従来、御用聞きなどの、接客力を生かした商売で地域に愛されてきました。しかし時代の流れで生活者の買物行動は、ワンストップショッピングニーズに対応した品揃えや長時間営業が得意なセルフサービスの店へとシフトしていきました。

個人経営のお店の強みは、一人ひとりのお客様を深く知ったうえでの接客にあるといえます。その第一歩は、お客様の顔と名前を覚えて、名前で呼んだり、好みを覚えたりすることです。お店の前を歩いていて名前で呼ばれたり、「●●さんの好きな〇〇、今日入っていますよ」と声をかけられたりすると、お客様は「覚えてもらえている」「大切にされている」という気持ちになります。

飲食店でも同様です。お客様の顔や好みを覚えて、食べられないものを除くことや、「お客様のお好きな〇〇を多めにしてあります」など、さりげない心づかいができれば、お客様に喜んでもらえるはずです。こうした「一人ひとりのお客様に向けたサービス」を提供できることが、お店の価値になります。

子育て支援や見守りで地域の課題解決に貢献

お客様を知ることは、地域を知ることにもつながります。深く知れば地域の課題がわかり、その課題の解決に貢献することで地域からの信頼を得ることができます。たとえば子育て世帯が多いエリアでは、「子育てをサポートする」アプローチが地域貢献につながります。

和田商店街のケースでは、共働き世帯が多いことから、登下校中の子どもたちが事故や犯罪に遭わないように、各お店の店主や店員が見守りや声掛けを行っています。商店街があることで、親は自分たちの目が届かないなかでも、安心して子どもたちを学校に通わせることができます。こうした貢献によって地域の中での存在価値は高まります。また、子どもがお店を身近に感じ、地域を「ふるさと」と認識してもらえれば、未来の顧客を育てることにもつながります。独居老人が多い地域であれば、御用聞きを兼ねて定期的に声掛けを行い、見守りの機能を果たすという貢献が考えられます。

元気のいい商店街に学ぶ“元気のいい店づくり”のポイント

  • 思い込みを解消する (お客様を客観的に理解する)
  • イベントを行う (新しいお客様と出会うきっかけをつくる)
  • 自らの価値を知る (自店のこだわりを発信する)
  • 地域の課題解決に貢献する (地域からの信頼を得る)
  • 目利き力を生かす (他店と差別化する)
元気のいい商店街のイメージ画像

「目利き力」を生かして差別化する

魅力あるお店づくりのポイントは、「目利き力」です。和田商店街にある文房具店は、展示会などで、常に最新の文房具の動向をリサーチして、流行の先端を行く商品を品揃えしています。店主の商品知識を生かして「文房具講座」を開催し、広域から文具ファンが集まるお店になっています。

魚屋、肉屋、酒屋などかつて「◯◯屋」と呼ばれてきたお店は、いわばその道の専門店です。よりよい商品を目利きをもって仕入れ、販売する専門性は、お客様の信頼を得ることはもちろん、他店との差別化にもつながります。

目利きを生かした店づくりができたところで、その魅力を広く知ってもらうため、また新しいお客様を呼び込むためにはウェブサイトやSNSでの発信も欠かせません。和田商店街も積極的に発信することによって、地域外からも多くのお客様が訪れるようになりました。

お店の規模の大小にかかわらず、ウェブやSNSで自店の強みを発信し、ファンから情報が拡散されてたちまち評判になる可能性もあります。

地域になくてはならない、選ばれる存在として、自らの強みを発揮し続けられるお店でありたいものです。

※当記事は2022年12月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。