コンビニが冷食を拡大する理由

2023年12月21日

流通トピックス

■業種・業態:コンビニエンスストア  
■キーワード:コンビニ/冷食/冷凍餃子/食品廃棄ロス

コンビニのイメージ

毎日のように利用するコンビニ。利用頻度が高いからこそ、10年、20年の大きな変化に気づくのは難しいものです。例えば、その一つが「冷凍食品」(以下、冷食)です。大手コンビニは、平台のアイスケースに、数十アイテムの冷食を拡充させています。
以前は売場の端の方のドア付きのタテ型の冷凍ケースで、ひっそりと扱う程度でした。それが今や、コンビニの新たな「四番バッター」(主力カテゴリー)として期待されています。なぜ今、コンビニで冷凍食品なのでしょうか。コンビニの役割に変化が生じているからに他なりません。

求められる新たな四番バッター

冷食のイメージ

1980~90年代のコンビニは「即食(飲)」「即使用」「緊急時」に役に立つ業態を鮮明にしていました。このうち即食の代表格は「おにぎり」「米飯弁当」(共に約20℃の米飯温度帯で管理)、即飲は売上が稼げるビールなどのアルコール類でした。

ところが、おにぎりと米飯弁当を合わせた「米飯類」の売上は、この20年で1店舗当たり数%は減っています。いわゆる「コンビニ弁当」で1食を済ます若年層がそもそも増えていないのです。即食できる、カウンターのおでんも、20年間に売上は半減しています。廃棄ロスを嫌っておでんの取り扱いをやめる店舗は、コロナ禍以前から出ていましたが、このところ増え続けています。

かつてのビールも「四番バッター」の1つでした。初期のコンビニは酒販店からの業態転換が多く、酒販免許を持っているので、「酒+コンビニ商品」で優位に立てたのです。冷えた缶ビールとつまみ類は、酒販免許を持つコンビニにとって、「おいしい商品」だったといえます。

しかし、2003年9月に酒の販売が自由化され、スーパーや免許を持たないコンビニが一斉に販売を始めました。さらにドラッグストアも安売りに参戦。その結果、酒販店出身のコンビニは主力商品の優位性を発揮できなくなったのです。

そこでコンビニは、新たな軸となる商品カテゴリーを模索し始めています。その一つが冷食です。
コンビニの強みは、前述の即食性、すぐに食べられる商品が数多くそろっていること。一方で冷食は、家庭の冷凍庫にストックしておく商品です。それをなぜ今、コンビニは強化しているのでしょうか。

低価格で使いやすい冷凍餃子のヒット

餃子のイメージ

コンビニの冷食は、アイスや氷を除いた炒飯やコロッケなどの主食や副菜を指します。外食の多い主に20~30代の独身男性であれば、利用機会は少なかった商品です。
冷食は一般的に即食とは逆のストック型の商材です。スーパーマーケットで安売りがあると、とりあえず購入しておき、冷凍庫に保管する扱いでした。その意味では、コンビニの業態コンセプトである即食には主軸となり得ない商材であったといえます。

それでも緊急対応に重宝されるときがあります。日中に外で働く母親が、帰りにスーパーマーケットへ立ち寄る時間もなく戻り、冷蔵庫にある食材で夫と子どもの夕食を作る。ところが、冷蔵庫をのぞくと、子どもに明朝持たせる弁当のおかずがないという場面は多くあります。

そこで、近所のコンビニへ弁当のおかずを買いに行くことになります。それが冷食であり、「間に合わせ」の弁当のおかずですから、コロッケや春巻き、鶏の唐揚げ程度でよかった。コンビニには冷食以外にもハムやソーセージがあり、それらも弁当のおかずになったのです。

冷食の利便性は、全てを使い切らなくても、残った分をラップして、再び長期保存できる点にあります。その意味でも、弁当のおかず用には最適でした。ただ、1980~90年代のコンビニの主要客層から見れば、冷食は傍流のカテゴリーに過ぎなかったのです。

ところが、2000年代に入ると「コンビニは若者や中年男性には支持されているものの、高齢者の来店が少ない。お年寄りが買いたい商品がないのではないか」といった課題が持ち上がります。
当時、コンビニ店舗の退店物件に好んで入居した、均一価格をうたうミニスーパーが、店数を増やしていました。高齢者にも便利な、小分けした青果物や、その他、生鮮・日配食品、小容量の加工食品などを低単価で扱っていたからです。

その影響もあってか、2000年代後半にコンビニ大手が、焼き餃子や五目炒飯、エビピラフといった1人用の冷食を100円で販売した。特に焼き餃子は、5個入りの分量と100円という価格設定が単身者に丁度よく、ミニスーパーを利用するような高齢者にも訴求、大きなヒット商品となりました。コンビニの本格的な冷食は、この2000年代後半にスタートしたといってよいでしょう。

新たな冷食マーケットの創造に期待

イメージ

この時代の平均販売額の指数を100とした場合、コンビニの冷食市場は2010年代後半、10年で5倍以上に拡大しました。ただし、5倍と言っても、もともとの母数は多くありません。売上を底上げする起爆剤が求められたのです。そこでコンビニ各社は客層の拡大に努めました。

コンビニは一般的に女性客よりも男性客が多い一方、冷食の主な販売チャネルはスーパーマーケットであり、スーパーの利用客は、女性比率が圧倒的に高く、そのため、コンビニでも冷食売場に近づくのは女性客であり、男性客は関心を示さないようです。

そこで、男性客を冷食売場に引き付けるため、ある大手コンビニは有名ラーメン店の屋号を冠した冷食を発売しました。男性客にも、“弁当のおかず”が並んでいる冷食売場に、躊躇なく立ち寄ってもらう作戦を立てたのです。

客層を男性に広げた後は「利用動機」を増やすことが大切です。コンビニ各社は、ご飯のおかずにも酒のつまみにもなる、焼きとりや手羽先、牛カルビ、メンチカツなどをラインナップしていきました。商品の完成度は高く、しかも単身や多くても2人世帯に適量な商品設計としたことで、スーパーマーケットで販売している冷食と完全な差別化を図ることができました。

また、コンビニの冷食拡充には、冷食市場全体の伸びも影響しています。国民1人当たりの冷食消費量は年々増加傾向にあります。2022年の国内消費量は約298万トンで、25万トンだった50年前の約17倍、160万トンだった30年前の約1.9倍、270万トンだった10年前と比較して10%増えています(一般社団法人 日本冷凍食品協会「冷凍食品国内消費量の推移」より)。

冷食マーケット全体は、伸長しているとはいえ、その勢いは鈍化しています。しかしながら、コンビニの冷食にかける期待値は大きく、この先の数年で売場面積2倍、売上5倍の目標を立てたチェーンもあるほどです。商品カテゴリーも、近年は冷凍スイーツや鮮魚の刺し身などバラエティも富んできています。コンビニは、新商品の売り込みに上手な業態といわれていますが、新たな冷食マーケットの創造も、コンビニが突破口になるのかもしれません。

食品廃棄ロス削減にも貢献 

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もうひとつ言及したいのは、冷食が食品廃棄ロス削減に大きく貢献できることです。お客様の立場に立てば、ロス削減は売り手側の都合であり、関係のない話です。しかし、近年は消費者の側も、環境負荷の軽減に尽力する企業を応援する姿勢を示し始めています。

お客様の立場に立てば、チルド温度帯の棚にたくさんの惣菜がボリューム陳列されていれば、エキサイティングな売場に映るでしょう。しかし、それらが大量に廃棄される実態を知れば、途端にお客様の評価は下落します。環境に優しくない企業としてSNSで発信され、非難される世の中です。

もちろん、食品廃棄ロスをゼロに近づけることは困難です。おにぎりは冷食には向きませんし、売上が減ったとはいえ、この先もコンビニの即食を支える大事なアイテムです。ある程度の廃棄ロスを容認しつつ、冷食に置き換えても売上が目立って減らないのであれば、冷食にシフトさせていくでしょう。

ただし、冷食だからこそ実現できるおいしさと、リーズナブルな価格設定を追求する姿勢は持ち続けなくてはならないでしょう。

(文)販売革新 編集委員 梅澤聡
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2023年12月時点のものです。
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