トラックドライバー不足がサプライチェーン改革の突破口に3分の1ルールから2分の1ルールへ

2024年1月29日

流通トピックス

■業種・業態:スーパー  
■キーワード:共同仕入/働き方改革/納品期限/発注時間

トラックドライバーとトラックが並んでいる画像

少子高齢化に向かっている日本にあって、いち早く高齢化・人口減に見舞われている地方では、「商品が来ない」という物流問題がコロナ禍以前より起こっていて、ライバルスーパー同士が共同仕入をしようという動きが強まっています。
「商品が来ない」と言っても全く来ない訳でなく、その入荷頻度が減っているということで、トラックの積載効率が悪いためです。ある大手卸のトップは「急速に進む人口減の中では動かすモノ(商品)そのものが減るのは必然で、それに合うシステムにしていかなければならない」と話していましたが、多頻度小口配送、ジャストインタイムなどの従来の物流の仕組みは大きく見直す時期にきているようです。
また、それを要求していた小売側も一部で卸、メーカー段階を視野に入れた全体最適なサプライチェーン構築に乗り出し始めています。
トラックドライバーの不足が予想される物流の2024年問題、食品ロス・CO2削減などのSDGsへの対応など様々な社会的変化がその解決策を迫っているとも言えるでしょう。

働き方改革関連法制がむしろドライバー不足招く

トラックを運転する男性の画像

ではまず物流の2024年問題といわれるものを整理してみます。

トラックドライバーの労働環境と所得状況を日本スーパーマーケット協会が厚生労働省の統計データなどを元に作成した資料によると、トラックドライバーの数は2000年の97万人から2020年の66万人まで減り続けていて、2025年には57万人、2030年には51万人になると予測され、2000年からの30年間で半減することになると言います。

また、トラックドライバーの平均年齢は46歳(中小型)〜49歳(大型トラック)で、全産業平均の43歳に比べ高く、高齢化傾向にあります。平均年間所得も419万円(中小型)〜454万円(大型)で、全産業平均の487万円に比べ7~14%低い状況です。このため、自動車運転の有効求人倍率は2021年が2.15で、全産業の1.06を2倍強も上回り、大変な人手不足状況にあります。

一方、年間労働時間は2017年をピークに減少傾向にあるものの、2020年でみると、大型トラックが2,532時間、中小型が2,484時間で全産業平均の2,100時間を20%~18%上回っています。

こうした給料の低さと長時間労働が職場として敬遠される理由とみられます。そこで、給料を上げ、労働時間を短くし、ドライバーの労働環境・労働条件の改善を目的に「働き方改革関連法」が制定されています。しかし、その施行でむしろトラックドライバーの供給不足が起きるのではないかとの懸念もあります。

トラックドライバーに係る働き方改革関連法では、労働基準法で2023年度から月60時間超の時間外割増賃金を25%から50%への倍増が中小企業に適用され、2024年度からは、時間外労働の上限規制(年960時間)が適用されます。1日3.6時間以上の時間外労働が許されなくなることになるのです。

さらに勤務間インターバルが現状の8時間以上が9時間以上に拡大し、さらに11時間以上も視野に入れて見直されると、長時間運転業務がさらに難しくなります。

選ばれる荷主になることが求められる

トラックとトラックの前に立っている男性の画像

こうしたことから、トラック運送事業者は、法的にも人件費増加を抑制するためにも時間外労働を抑制する動きを強めるとみられることから、ドライバーの残業減少、収入減少、それによりドライバーの離職が加速する、という悪循環が起きると、予測されています。

さらに、運送事業者は、より効率よく売上を上げることができる貨物へシフトし、条件の悪い荷主の仕事を選ばなくなる、あるいは選ばれない企業・荷主・荷物が増加するなど、運送事業者が事業を縮小するケースも出てくるでしょう。

特に加工食品では卸、小売のセンターでの先着順による荷卸しで待ち時間が長くなる、バラ積み・バラ下ろしで荷役時間が長くなる、多岐にわたる納入期限ルールにより検品時間が長くなる(卸)、リードタイムが短く、夜間出荷が発生する(卸)、などがトラックドライバーの長時間労働を招く要因になっているのです。

納品期限がネックに

トラックとため息をついている男性のイラスト画像

以上が日本スーパーマーケット協会の分析ですが、製配販が連携してサプライチェーン全体の最適化への取り組みは、2011年に加工食品・日用品メーカー・卸売業・小売業界から50社が参加して発足した「製・配・販連携協議会」で先行して進めています。

同協議会の下、納品期限を賞味期限の3分の1とする、いわゆる3分の1ルールを2分の1に緩和する取り組みが加工食品を対象に2013年から一部大手総合スーパーで始まっていて、2021年にはスーパー100社,生協33社、コンビニ8社、ドラッグ13社に拡大しています。

ただ、実施企業は広がっているものの緩和していない企業もある上、品目ごとに対応差もあって、卸売り段階での大きな改善にはつながっていないようです。

例えば賞味期限180日の商品の場合、3分の1ルールでは60日までが卸から小売への納品期限。これが2分の1になれば90日に納品期限が延び、それだけ日付け管理がし易くなります。期限切れによるロスも少なくなるでしょう。

1企業のスーパー専業の卸センターなら、同じ商品で納品期限が異なるということもなく、日付管理もやり易いが、多くの取引先から受注する汎用センターでは取引先ごとに納品期限が異なり、数十種類もある納品期限に対応しなければならないという卸の声もあります。従って、ある程度、小売側が足並みを揃えないと卸段階での効率化は進まないと言えます。

1/3ルール等商慣習の見直しのイメージ画像
1/3ルール等商慣習の見直し

出典:農林水産省 「1/3ルール等の食品の商慣習の見直し」

SM大手4社が発注時間を見直し

男性が倉庫で一斗缶を数えている画像

こうした視点から大手スーパー4社はこの2023年3月、「持続可能な食品物流構築に向けた取り組み宣言」を行い、これまでの商慣行を見直して、製配販のサプライチェーン全体の最適化を図ろうと動き出しています。

具体的には1.加工食品における定番商品の発注時間の見直し、2.特売品・新商品における発注・納品リードタイムの確保、3.納品期限の緩和(2分の1ルールの採用)、4.流通BMS(流通ビジネスメッセージ標準:Business Message Standards)による業務効率化―の4点です。

定番商品の発注時間見直しは、トラックドライバー不足による車両手配が困難になることへの対応。従来通りの発注から納品までの工程を維持することが難しくなると判断、メーカー・卸間のリードタイムを1日延長し、小売業の定番発注時間を午後から午前中に前倒しすることで、卸で準備に必要な時間を確保し、夜間配送を減らして、積載効率を高めます。

特売品、新商品でも発注から納品までの従来の工程を見直しは、リードタイムを確保した発注をすることで積載効率の高い配送を実現します。具体的には6営業日前に計画発注するようにします。これは小売業団体、卸売業団体、製造業団体が参画して2022年4月に発足した「フ―ドサプライチェーン・サステナビリティプロジェクト(FSP)」の提案に沿ったもので、4社では各社の専用センターにおいて、6営業日以上の発注・納品リードタイムを確保することに合意しています。

2分の1ルールへの納品期限の緩和は、大手が足並みを揃えることで、他チェーンへの波及が期待されます。

(文)食品商業 編集部
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2023年6月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。