生活防衛の時流に乗れるか?
低価格コンビニの実態と可能性

2024年1月29日

流通トピックス

■業種・業態:スーパー  
■キーワード:時短/低価格/生活応援

コンビニエンスストアのイラスト画像

2022年から2023年にかけての消費者を直撃した値上げラッシュ。実質賃金の低下が続く中、チェーンストアは対応を迫られてきました。コンビニ各社は、価格分類でいう「松竹梅」のうち「梅」商品を拡大。100円ショップ商品を扱うなどして、選択肢の幅を低価格帯に広げ「コンビニは高い」といったイメージを払拭するため、低価格の日用雑貨品も充実させています。
スーパーマーケットにおいても、低価格をうたうディスカウント勢力が伸長しています。生活防衛から低価格商品を求めるニーズが強くなっているのでしょう。利便性を軸に大成長を遂げたコンビニは、価格に対応しているとはいえ、もともと「安売り」とは相容れない業態として今日に至っているだけに、コンビニの低価格商品充実の動きは売上に影響する可能性もあります。
そうした状況で、首都圏を中心に展開するミニスーパーMが着実な成長を見せています。「都市型小型食品スーパー」と自らを定義していますが、「低価格のコンビニ」として利用しているお客も多いようです。
今回は、低価格を軸とするコンビニ業態の進化について考えてみます。

青果物で来店頻度を高め グループPBで荒利を稼ぐ

野菜が数多く映っている画像

近年のコンビニは夕夜間の品揃えを強化しています。自らの業態を食品スーパーに寄せて、その売上の一部を取り込んでいるのです。特にコロナ禍の3年間は、外出自粛の空気の中、「遠くのスーパーより近くのコンビニ」で買物を済ます傾向が強まりました。

実際、この期間、コンビニは青果物の売場を充実、現在も継続しています。

一方で、既に「都市型小型食品スーパー」として、地位を築いているチェーンは、およそ60坪から80坪。首都圏のコンビニが30~40坪程度ですから1.5倍から2倍の面積を確保しています。営業時間は7時~24時が最も多く、短いところで8時~23時もあり、店舗はFC(フランチャイズ)展開するコンビニと違い全て直営で運営されています。

品揃えは、青果(野菜と果物)の品揃えを充実させることでコンビニと差別化し、SKU(単品)数は90前後にのぼります。一般的な食品スーパーの青果物300~400SKUと比較して見劣りするものの、定番メニューの食材としては十分役割を果たしています。

商品は小サイズ(例えば、白菜であれば4分の1カット)で提供、都市部で生活する高齢者や、家で調理する単身世帯や共働き世帯に便利な店として機能しています。

お客が鮮度の高い青果物を求めれば来店頻度は自然と高まります。来店頻度を高めておいて、グループ企業が開発したPB(プライベートブランド)商品を主力とする日配品や加工食品を併売することで、荒利率の低い青果物を補っています。

また、コンビニが主力とする、おにぎりや弁当、調理麺も安さが際立っています。コンビニの米飯弁当は、かつてはワンコインが上限でしたが、今は税込み600円前後の商品もスペースを占めています。実質賃金が低下する中で、コンビニから脱落していく層も懸念される中で、こちらのミニスーパーが受け皿になる可能性もあります。

生活応援にコンセプトを改め 時短・簡単で低価格を訴求

陳列棚に牛乳パックが並ぶ画像

この都市型小型スーパーの創立に影響を与えたであろうチェーンが、2000年代の初頭に隆盛を誇ったスーパーとコンビニを誘導したような某S店です。弁当や惣菜を除いて基本的に99円均一(税抜き)で、生鮮三品や日配品を充実させていました。当時はコンビニの出店競争が激しく、同一商圏内で撤退する物件が多数出ていた頃です。その空き物件に有利な条件で出店、近隣のコンビニと差別化する品揃えで支持を得ていました。

2007年1月末に852店舗まで店数を増やしましたが、その後は出店立地の精査の不足、店舗管理者の育成軽視、商品調達力の不足などにより経営の悪化を招き、2009年5月にコンビニ大手に吸収合併されています。

その後、商品開発では個性と独自性を発揮して数々話題にとなりました。おかずが1種類だけの「だけ弁当」や、使い切りサイズの単品おせちをラインナップした「100円おせち」などです。通称「だけ弁当」シリーズは累計320万食以上の販売、「100円おせち」は、2022年度に約370万食を販売したこともあります。

特に「だけ弁当」シリーズは、21年6月に関東で「ウインナー弁当」発売、その2カ月後に全国発売した結果、ネットで話題で大きな反響を生みました。

既存のコンビニでは、1食で完結する商品が多く、主に男性客に購入されていますが、「だけ弁当」シリーズは、女性やシニア層の支持を得ています。通常の弁当を購入しない層が、カップ麺やサラダ、100円惣菜などと一緒に購入。その結果、弁当を購入する層が拡大しているようです。

コンビニエンスストアのお弁当画像

取扱い品目数は3800品目で、一般的なコンビニの3500品目より少し多め。特徴的なのは、弁当、サンドイッチなど、いわゆる中食の構成比が9.8%と低めです。逆に生鮮品を含む「日配食品」の構成比は29.4%と多く、加工食品は53.4%、非食品は7.4%と、低価格コンビニでは、標準的なコンビニと品揃えの構成比が異なります。

立地は、住宅立地を中心に出店、商圏は半径300mを基本としており、近隣住人が冷蔵庫代わりに、毎日通ってもらえる店として考えています。客層は単身世帯とシニア層が多いのが特徴です。実際、利用客の年代では50代以上が4割を占め、男女比は6対4と男性の比率が高くなっています。また、年金支給日にはシニア層の売上がグッと上がるといいます。

コンビニエンスストアに電動カーで買い物に行く老人のイラスト画像

客層に合わせて価格面では、値上げラッシュの中であっても、購買頻度の高い商品や、支持の高いシニア層向けの商品群の値上げを極力抑えています。他方、購入頻度がそれほど高くない商品については、値上がり分を価格転嫁させ、全体のバランスをとる戦略を取っているようです。

既存のコンビニが近年の消費者の変化対応に十分に追いついていない現状で、便利に絶対的な安さを乗せた「コンビニ」が影響力を増しています。既存のコンビニが大手3チェーンに寡占化されていますが、異なるコンセプトと価格帯を備えた、新たな競合や勢力が都市部を中心に拡大する可能性があります。

(文)販売革新 編集委員 梅澤聡
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2023年6月時点のものです。
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