小売各社は消費者の「生活防衛」にどう対処するのか?
需要が高まるPBの取り組みと価格政策

2024年2月19日

流通トピックス

■業種・業態:スーパー、コンビニエンスストア  
■キーワード:差別化/固定客づくり/利益体質

日常品の値上がりに頭を悩ませる女性のイラスト画像

街中でマスクを着用する人が少数派となり、2020年以前の日常を取り戻しつつあります。活発な人の移動により売上を稼ぐコンビニも、2023年の盛夏は客数、客単価とも好調を維持しているようです。
しかし、その一方で昨年から顕著になった値上げラッシュ、その上げ幅に賃金が追いつかず、人々の生活防衛意識が高まっています。

差別化と固定客づくり
利益体質強化を図る

スーパーで頭を抱える女性の画像

実質賃金が目減りすれば、自ずと買物に使える金額は減少します。具体的には、買上点数を抑えるか、1品単価を抑えるかです。買上点数の抑制は、野菜も肉も魚も必要ですが、人によって、果物は贅沢品として受け止めて、買い控えするかもしれません。

1品単価の抑制は、人によっては国産の鶏肉を止めて、安価な海外産に切り替えるかもしれません。加工食品や雑貨の分野では、トップブランド商品の購入を見直し、それより安価なPB(プライベートブランド=自主開発商品)の使用を検討する人も出てくるでしょう。

マヨネーズであれば、トップブランドとほぼ同じような味のPB、衣料洗剤であれば洗浄力の差があるかもしれないPB、パックご飯であれば、新潟産コシヒカリではなく、北海道産の米を使った格安のPB、といった具合です。

開発の多くは、2番手、3番手のブランドが担うケースが多かったのですが、近年は大手チェーンストアの販売量が大きくなりすぎて、トップブランドが担うケースも出てきています。
例えば、ある大手チェーンのマヨネーズは、全店分を生産できるメーカーが他になく、トップブランドが開発を担当しています。

果たして消費者の生活防衛意識に対して、チェーンストアは、どのようにPBを展開しているのでしょうか。

「生活防衛」のサポートに対して
加盟企業が一致団結で臨む

スーツを着ている人たちが一致団結している様子を表している画像

消費者にとってPBに対する認識は、NB(ナショナルブランド)と同等の品質で、明らかに安価を実現している商品です。

ただ、いくらNBより安くても、値入れがNBより悪ければ、店舗の利益に責任を持つ店長は販売に注力しません。NBよりも安く、しかも値入れの高さが条件になるでしょう。

スーパーマーケット各社は、コロナ禍、そして値上げラッシュが続く中で、PB供給の拡充を図ってきました。低価格なPBは、お客様への訴求がしやすく、生活防衛をキーワードに展開に注力しています。
ところが、PBを製造委託しているメーカーから、原材料の高騰を理由に値上げの要請を受けることになり、PBも安泰とは言えなくなりました。

こうした状況に対して、あるスーパーマーケットの任意団体では、2通りの意見が出ていました。
一つは、原材料の高騰を理由に、値上げを容認することです。NBが相次いで値上げしている状況下で、PBについても事情は同じでやむを得ないとして消費者の理解を得ようという意見です。

もう一つは、価格を据え置き、容量を削減して原価を調整することで、消費者に告知するものの、容量を変更して買いやすい価格を維持し、少しでも負担を軽減する措置として理解を促すというものです。
どちらか一方にという結論は出せない問題ですが、原材料の高騰により、実質値上げをせざるを得ない状況ではあるのは確かであり、少しでも「お値打ち感」を出すことでは考えは一致しています。

この業界団体では、製造委託しているメーカーと交渉を重ねる一方、加盟企業のトップマネジメントに対して、「売り込むと決めたPB商品」を積極的に発注するように要請しています。作り手も売手も協力しなくてはならないということです。

同団体では、現在、会員企業の理解を得て売り込むと決めた商品は70~80品あり、中でも実績が好調に推移している商品は、マヨネーズとご飯のパックなど購買頻度が高く、比較購買がしやすい商品であり、カテゴリーの中心商品を低価格で実現しています。

実際に売り込むと決めた商品は好調な数字を示し、PBの加盟企業の平均の取り扱い率が40%台半ばであるのに対して、商品の取り扱い率は75%を超えています。また、品目数は1割にも満たないが、PBの売上比率は全体の35%に達しています。

「もともとは会員企業からの支持が高い商品ではあるのですが、皆さまの強い意思のもとで取り組んでいただいた結果、全体を押し上げています」と団体の担当者はコメントしています。

消費の変化と行動の変容により
外食から内食への移行を掴む

男性が麺類を食べているイラスト画像

今、生活防衛に関して、スーパーマーケットは何を考えているのか、大手のA社のトップに話を聞いてみました。

「例えば景気が悪化して失業者が増えていくと、一部で行動変容が起こります。それまで給料を得て生活していた人が失業手当で暮らすようになると、収入が半分近くになります。半分になったからといって、それまで好きだった1杯1,000円のラーメンを諦めて500円のラーメンを食べるのかといえば、そうとも限りません。食品スーパーで麺とタレを150円で購入、自分で調理するといった行動変容を起こす人も出てきます。すなわち、ラーメンに対する価値が変容しているのです。似たような事例はたくさんあります」といいます。

すなわち、節約してNBからPBに切り替える消費者がいる一方で、今まで外食していた人がスーパーマーケットで該当の商品を購入する可能性もあり、そうしたチャンスを、しっかり取り入れていこうとしているのです。

「消費の方向がガラリと変わり、行動の変化に伴い、価値そのものが変わっていくのです。昔は景気が悪くなると、少しでも安い商品を買う動きが顕著に見られました。そうした行動変容により消費行動は捉えられていましたが、最近は生活そのものが変わっていく、すなわち価値変容が起きているのです」とも語っています。

原材料のコストアップ、さらに人手不足も加わって、「ヨソが高くなってもウチだけは我慢する」という価格維持が構造的に続かない状況になっています。

A社によると、今後はメーカーや産地による値上げ、人手不足の問題、物流の2024年問題、働き方改革などにより、基本的なことの見直しを図る時期に来ているといいます。

こうした厳しい中でも、消費者視点に立てば、良い商品や良いサービスを安くするに越したことはありません。一方で、広範にわたるインフレが進めば、理屈に合わない値上げに対して、スーパーマーケット各社は許容しない方針ですが、単品ごとに、メーカーや産地の生産者と、なぜ値上げなのかを突き詰めて、新しい価格体系の構築に取り組んでいるといいます。

コンビニは「松竹梅」戦略
低価格商品の訴求を容認

コンビニの大手も、消費者の変化に対応し、「生活防衛」を意識した売場づくりを進めています。日本のコンビニ業態は半世紀前に、スーパーマーケットの「安売り」攻勢に疲弊した中小食品小売業が、「価格」から「利便性」に軸を移して成長を遂げてきました。

30坪程度の狭い売場を活用した業態であるため、3,000品目にわたる広範な品揃えが求められました。安売りで集客するのではなく、単品ごとに適正な荒利を確保する必要もありました。結果として、付加価値の高い商品構成で臨んでいるのです。

ハンバーグや高級な食パン、スイーツなど専門店に匹敵する完成度の高さを誇り、高付加価値商品の拡大に励むなど、いわば松竹梅の「梅」を外した「松竹」を中心にした品揃えです。

その基本方針に変わりはありませんが、低価格商品である「梅」を、もっと意識した方がよいのではないか、といった議論が社内で生まれて、現在は「松竹梅」戦略を基本に品揃えを組んでいます。

スーパーマーケットと価格比較されやすい、食パンや食用油、梅干しなどの日配食品などを対象に「コンビニは高くない」ことの浸透を図っているのです。

小売各社はインフレと実質賃金の低下に対して、消費者の生活防衛に対応するとともに、健全な利益の確保を求めて、商品と売場の変革に挑んでいる状況です。

(文)販売革新 編集委員 梅澤聡
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2023年7月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。