進む米国アパレルでのRFID活用

2024年2月28日

流通トピックス

■業種・業態:スーパー  
■キーワード:仮想配送センター/店舗在庫追跡システム/RFIDチップ

選ばれ続けるお店になるためにのイメージ画像

アパレルでの利用が増えているRFID(※)。日本では、世界展開している大手アパレルが全商品にRFIDタグを使用しています。セルフレジでは買い物かごを置くだけで商品の合計金額が表示され、素早く会計できるとお客さんに好評です。
すべての商品に、生産段階からRFIDタグをつけることで、どの商品がどのくらい、どこにあるのかを瞬時に判断することができるようになり、機会ロスだけではなく、棚卸作業などの大幅な時間短縮にもつながっています。

店舗が仮想配送センターを兼用

スマートフォンとQR画像

それでは、米国のアパレルでは、どのように利用されているのでしょうか。現在、コロナ禍でのECの増加に伴い、追跡の重要性が高まっていて、多くのメーカーでは、店舗を仮想配送センターとして利用しています。

購入はオンラインで行い、受け取りは店舗で行うというサービスを提供することで、配送業者分の経費削減をしているのです。

このような買い物行動の変化により、メーカーは在庫状況を可視化することが重要になっています。ネット通販で購入、受け取りは店舗と指定したお客さんが、約束した店舗に行ったときに欠品していたり、違っていたりしたらどうでしょうか。失望して、二度と利用しなくなるかもしれません。

商品の検索結果は3Dで表示

スーパー店内でカートを押す女性の画像

全米に500店舗持つカジュアルウエアのメーカーは、全店舗に新しいRFIDと店舗在庫追跡システムを導入すると2023年7月に発表しました。新しいシステムにより、従業員は店内の商品がどこにあるかがすぐ分かるようになり、簡単で効率的に顧客にサービスを提供可能になったと言います。

売り場の商品を補充したり、ネット通販で注文された商品を店内やバックルームに取りにいったりする作業の効率が上がったのです。

多くのメーカーもRFIDタグを使用して在庫管理や追跡をしていますが、特定のアイテムを店舗で正確に見つけるのが難しいという問題を抱えています。このメーカーが導入したRFIDとシステムは、アイテムを3Dで検索するため、正確に把握できます。

さらにこのシステムでは、タイムリーな補充や、店内での受注から発注、受け渡しからアフターサービスまでの「フルフィルメント」(受注から発送、代金回収、顧客フォローなど一連の業務プロセス)や、ブランドの責任者が適切な在庫があることを確認するための分析機能まで持っています。

店舗では、RFIDタグを使って個々の商品を追跡しています。天井にカメラを備えた平らな白い照明のようなデバイスを取り付け、衣服の値札に取り付けられた紙のように薄いRFIDタグから発せられる信号を読み取り、店内の買い物客の位置を追跡できるため、試着したけれど、購入まで至らなかった商品の分析などができるようになります。

このRFIDタグは、店舗のリーダー以外では追跡はされないということです。
ちなみに2007年のRFIDタグのコストは1枚当たり約15セントでしたが、現在は約4セントまで下がっています。

試着室のスクリーンに違う色やサイズを表示

ショッピングカートのイラスト画像

ランジェリーメーカーでは、RFIDタグを使ってお客さんがより多くのスタイルを選択できるようにしています。ある店舗では、試着室に入ると商品のRFIDタグを読み取り、試着室のスクリーンに色やサイズを表示します。

お客さんは、その中に興味があるものがあれば、スタッフにその商品を持ってきてもらい、試着することができます。試着室には、スタッフの呼び出しボタンがついているので面倒がありません。

衣類に縫い付けるRFIDチップを開発

ショッピングカートのイラスト画像
※画像はイメージです。

スペイン発の世界最大のアパレルメーカーは、RFIDタグではなく、RFIDチップを使っています。ロジスティックスセンターで、商品に付けられる盗難防止タグの中にRFIDチップが埋め込んでいるのです。

これは2016年から主力ブランドの世界2000店以上に導入されています。あらゆる店舗や倉庫の入荷・在庫状況が細かく把握できるシステムで、RFIDチップは世界発の100%リサイクル可能、100回も使用できるものです。

ただし、レジでの盗難防止タグの取り外しに時間がかかることから、行列ができることが問題になっていました。そのため、2023年の初めから盗難防止タグを廃止し、RFIDチップを衣服に縫い付けた新しいセキュリティ技術を導入しました。これにより、レジの時間が最大50%短縮されたと言います。

百貨店でも納入業者にRFIDタグ付けを義務化

ショッピングカートのイラスト画像

米国最大の百貨店チェーンでは、今年3月の決算発表で、RFID技術の利用を拡大していると社長兼最高ブランド責任者が述べました。ネットワーク全体で商品の仕入れから割り当て、追跡する能力が向上し、店舗ごとの収益性の可視化が向上し、効率が上がったそうです。

この百貨店では、店舗で販売する商品へのRFIDタグ付けを納入するメーカーなどに2022年から義務付けています。これは米国本社の世界最大のスーパーマーケットチェーンに続くものです。

ちなみに、この店舗では、2020年にアパレル部門でRFIDタグを導入して在庫管理が劇的に改善して、オンラインで購入して店内で受け取る機会が増えたということです。これが起爆剤となり、スポーツ用品やキッチン用品、インテリア雑貨、玩具など他の小売部門にも拡大しています。

ところで、この百貨店の長期的な目標は、すべての商品にRFIDタグをつけることですが、現時点では、テストして信頼性が確認された商品タイプとカテゴリにのみタグ付けをしているようです。
アパレル、アクセサリー、家庭用品、ギフト製品、ベビー用品、靴など大部分の商品が含まれますが、すべて対面販売である宝石や化粧品は、まだRFIDタグを必要としていないと言います。

RFIDタグの付け方には、2つの方法があります。納入メーカーなどのサプライヤーがRFIDチケットを社内で印刷してエンコード(データをコード化)するか、業者を介して注文する方法です。簡単なのは後者で、業者から事前に印刷され、エンコードされたRFIDチケットを取得することです。

百貨店は、アパレルのように生産から販売まで社内で完結するRFIDと異なり、いろいろな業者が入り複雑です。しかし、百貨店とサプライヤーともに、RFID技術を通じて在庫管理を改善することで、より正確な売上の増加を目指すことができると評価しています。

※RFID(Radio Frequency Identification:無線周波数識別)
電波を用いて情報が書き込まれたICタグを非接触で読み書きする自動認識技術のことです。RFICはICタグ、RFIDリーダライタ、処理システム(在庫管理やPOSシステムなど)の3つで構成されています。RFIDは、電子タグやRFタグと呼ばれることもありますが、すべて同じことを指しています。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2023年8月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。