パートの賃金上昇し、経営の効率化一層求められる
人手不足に拍車かかり、セルフレジなどのDX化進む

2024年2月28日

流通トピックス

■業種・業態:スーパー  
■キーワード:最低賃金/セルフレジ/年収の壁/労働時間短縮

段階的に上昇しているイメージ画像

このところ、モノの値上がりが凄く、スーパーマーケットの売上も好調です。その要因の多くはグロサリーを中心とした値上げ分です。一品単価が上昇し、買上点数、客数の減をカバーしています。一方でパートの時給も1,100円台を目にすることも増え、賃金も上がっているようですが実態はどうでしょうか。
2023年度の都道府県別最低賃金額が8月18日、厚生労働省から発表され、この10月から新年度の最低賃金が発効されました。近年、その上げ幅が大きくなっているだけに、スーパーマーケット経営にどのような影響を与えるのか注目されるところです。

東京都の最低賃金1,113円にアップ

最低賃金の全国加重平均がUPしたイメージ画像

今回発表された最低賃金の全国加重平均は1,004円で初めて1,000円台を突破し、前年比43円、引き上げ換算率では4.5%のアップとなりました。

中央最低賃金審議会が示していた全国平均の目安41円を2円上回りました。

都道府県のランク別目安ではAランク41円、Bランク40円、Cランク39円だったが、Cランクで目安を上回るところが多く、島根、山形、鳥取が共に7円、目安を上回るなど地方でのアップが顕著になっています。(Aは東京、埼玉、千葉、神奈川、大阪、愛知などの大都市圏。Cは青森、岩手、秋田、山形、鳥取、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄などの地方圏。都道府県別最低賃金額の2022年度実態と今年10月発効する改定後の最低賃金額は別表の通り)

全国で最も高い水準の東京都の場合、最低賃金は2022年度、1,072円なので1,113円に上がります。2020年度が1,013円だったので、3年間で100円アップします。

首都圏のスーパーマーケットでは既にパートの時給が平日で1,100円台、祝祭日で1,200円台に乗っているのを見かけます。このようにスーパーマーケットでも1,100~1,200円が当たり前になってきており、2~3年後には1,200円~1,300円台になりそうです。

賃金上がっても「年収の壁」で労働時間短縮に

パート女性が年収の壁に悩むイメージイラスト画像

一方で、パートの時給が上がると所得税や社会保険料の負担が生じるため年収が103万円、106万円を超えないように、労働時間を調整する「年収の壁」問題が生じやすくなります。

以前から年末商戦で忙しい12月に時間調整に入るパートが多く人手不足を招くと言われていましたが、現在では時期に関係なく発生する構造的な問題になってきています。今回の最低賃金アップでさらに労働時間の短縮の動きが強まり人手不足に拍車をかけるのではと危惧されています。 

社会保険の加入条件を改めてみると①所定労働時間が週20時間以上 ②1か月の賃金が8.8万円、年収106万円以上 ③勤務時間が2か月を超える見込みがある ④勤務先の従業員が101人以上 ⑤学生は対象外、などです。

すでに、短時間契約のパートが週5日勤務を週4日に減らして収入が月間8.8万円を越えないようにする例が増えていると話すスーパーマーケット店長がいます。そこで、パートを増やして人時不足を補うことになりますが、採用も難しいといいます。

一方、社会保険料負担をしても、働く時間を増やして長時間パートの契約をしたいと望んでも、会社側も同額の社会保険料を負担しなければならず、その負担を避けるため、長時間パートの採用を控えるケースもあり、そのため複数の職場を掛け持ちして社会保険の適用を受けてでも所得を増やそうとするパートもいるといいます。

こうしたケースを避け、パートが社会保険の適用を受け、長時間働いて手取りを増やしたいというニーズに応えるのと、企業側も労働力を確保し易くするため、政府はパート1人当たり50万円の助成金を企業側に支払う検討を始めました。

日本の最低賃金はオーストラリアの半分、主要先進国では最低と言われており、賃金は上げざるを得ない状況にあります。いずれにしても、賃金問題は労働者にとっても企業にとっても喫緊の課題となっています。

都道府県別最低賃金額-2022年度と2023年度改定額(2023年10月発効)
都道府県別最低賃金額-2022年度と2023年度と改定額(2023年10月発行)の表
※厚生労働省資料より作成

セルフレジも多様化

セルフレジのイメージ画像

これを解決するために、生産性の向上が不可欠ですが、スーパーマーケット業界では労働集約型業務をいかに効率化するかの視点から業務・サービスのデジタル化を急速に進めつつあります。

その際たるものがレジのDXです。

以前より、競争激化と人手不足から人件費のウエイトの高いレジのセルフ化は注目され、徐々に普及してきましたが、コロナ禍で従業員のやり繰りが大変になったことや、お客の非接触対応が求められたことなどから、コロナ禍を経てセルフ化が急速に進んでいます。

セルフレジの流れを振り返ると、レジのセルフ化はお客が商品登録から精算まですべて行う、フルセルフで始まり、その後、商品登録は店員が行い、精算はお客が行うセミセルフが登場しました。

さらには、キャッシュレス化を受け、キャッシュレス専用レジや、買い物カートにスキャナー付きタブレットを設置して買い物状況を確認しながらお客が自ら商品をスキャニングし精算するカートレジや、アプリをインストールしたスマホでスキャニングし、バーコード決済するスマホレジなど多様なデジタルレジ方式も登場しています。

当然、店員がレジカウンターに立って、商品登録から精算、袋詰めまでフルサービスを行う有人レジもありますが、デジタルに慣れたZ世代や、スピードレジを求める顧客ニーズに応えるため、有人レジをサービスの基本としている企業でも一部のレジをセミセルフないしフルセルフに切り替える動きもでています。

ある24時間営業のスーパーマーケットでは通常レジ6台の他、フルセルフレジ5台を設置。夜10時から翌朝6時までをナイトタイムとして業務を区分。午後10時から納品された商品の品だし・陳列、清掃などを行います。そのため、レジは夜10時から0時まではフルセルフのみにして作業に集中。

0時以降は逆にフルセルフは閉鎖して通常レジを1台だけあけ、フロアの作業をしながらお客が来たらレジに入るようにしています。来店客数と1時間あたりのレジ通過客数のデータからこうしたレジの使い方を割り出したといいますが、通常レジだけだとできない効率的な使い方です。

スマホレジのスマホのイメージ画像

これは地方スーパーマーケットの例ですが、首都圏立地のあるスーパーマーケットではフルセルフ11台、セミセルフ3台、カートレジ5台に加え、スマホレジを設置、多様な決済ニーズに応える態勢を敷いています。

ある中堅スーパーマーケットのトップは「セルフレジ化はコンビニ、ファストフードなどのチェーンからスーパーマーケットチェーンに広がっており、お客様にも抵抗感がなくなってきている。

社会全体の動きになっており、チェーンストアとして大きな流れに乗らないと乗り遅れてしまう」と、自動発注、生成AIなどを含めデジタル化への対応が経営上も大きな課題になっていると指摘しています。

発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2023年8月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。