衝動買いを促進する「デジタルスクリーン」

2024年2月28日

流通トピックス

■業種・業態:スーパー  
■キーワード:デジタルスクリーン/液晶ディスプレイ/メディアネットワーク

スーパーの冷凍食品ウィンドウのイメージ画像

食料品のネット通販が年々増加している米国。一方のスーパーマーケットは、お客さんに店舗に足を運んでもらうため、革新的な方法を常に探しています。それは大規模なスーパーマーケットだけではなく、小さな店舗でも同じです。

「デジタルスクリーン」は店内の新しいメディア

スーパーの定員のイメージ画像

現在、重要視されているのが店内の什器です。陳列棚や平台、冷凍・冷蔵ケース、レジ台などに、テクノロジーを加えることが注目されています。

什器は従来のようなデザイン性よりも、お客さんとの双方向性や利便性のほうが重要になっています。

その代表的なのが、冷凍・冷蔵ケースからエンド陳列まで「デジタルスクリーン」を使用することです。冷凍・冷蔵ケースといえば、ガラス張りで中の商品が見えるようになっていますが、そのガラス張りの棚ドアを液晶ディスプレイに変えて、広告や商品情報を表示できると同時に在庫管理などもできるようにするものです。

日本ではデジタルスクリーンはまだ馴染みがありませんが、大型ショッピングセンターや駅などに置かれている「スマート自販機」は、多くの人が目にしているはずです。これをイメージすると、理解しやすいでしょう。

スマート自販機とは、従来の飲料サンプルが並んでいたところがなくなり、代わりに液晶ディスプレイ上で商品画像や情報を確認して、商品をタッチパネルで選択します。キャッシュレス決済にも対応しています。

ディスプレイは、デジタルサイネージの機能も持ち、AIカメラを搭載した自販機は、カメラから得たデータ(利用者の性別や年齢など)をもとに表示コンテンツを最適化することもできます。

「デジタルスクリーン」は、スマート自販機のディスプレイよりも数倍大きく、自由にサイズを選べ、動画も使えるため、ダイナミックな広告展開ができます。新しい店内メディアネットワークととらえるのがいいでしょう。

業界をリードしているスタートアップ

業界をリードしているスタートアップのイメージイラスト画像

デジタルスクリーンをリードしているのは、2017年創業のシカゴに拠点を置くスタートアップです。ドラックストアチェーンやコンビニエンスチェーンなどで使われています。

2023年5月には、最大手の食品スーパーが3年間の試験運用を経て、米国全土の500店舗に同社のデジタルスクリーンを導入することを発表しました。

広告主としては、世界最大の食品飲料会社をはじめ、180以上の世界的な消費者製品ブランドが名を連ねています。

2023年1月現在で、1万のスクリーンがあり、月に1億人近い買い物客にアピールしていると発表しています。そして、2024年初頭には、2億人を超えるだろうと予想しています。

個人を特定しないPbD

センサーのイメージイラスト

この会社のデジタルスクリーンの最大の特徴といえるのが、顔認識などのカメラを使用していないこと。お客さんに「見られている」という不快さを感じさせたくないので、カメラではなく、センサーで動きを検出しています。

前述したスマート自販機では、個人データを取得してお客さんの購入に結びつけてきました。同社ではそれを前世代のデジタル小売業者が行っていることだととらえ、お客さんのプライバシー保護を考慮する「プライバシー・バイ・デザイン(PbD)」を全面的に採用し、認定を受けています。テクノロジーのあらゆる要素と段階に、プライバシー保護手段が積極的に組み込まれるようになっています。

同社では、PbDを行う最初の小売テクノロジー プラットフォームだといっています。IoTセンサーがお客さんとの距離、動作、行動などを素早くキャッチし、AIソフトウエアにより、適格な画面を表示します。

具体的には、スクリーンの前での人の存在を感知し、スクリーン前にいる滞在時間、そしてドアの開閉の記録を収集し、商品やキャンペーンの情報を提供します。これにより、小売業者や商品ブランドがその都度、お客さんの意思決定に影響を与えることができます。

スクリーンで衝動買いを促進する

スクリーンで衝動買いしている女性のイメージ画像

このデジタルスクリーンは、お客さん、小売業者、商品ブランドの4つが連携することによって、大きな収益の構造をつくることができます。

それでは、わかりやすく説明しましょう。お客さんは店内に入ってきたとき、8割の人は何かを買おうとしていますが、そのうちの8割超の人は何を買いたいのかをわかっていません。そして6割超の人は衝動買いをします。

このようなお客さんは、ブランドにこだわりがあるわけではありません。例えば、アイスクリームのドアの前に立ち止まって、何を買おうか迷っているお客さんに、おすすめの商品を表示すれば購入を促すことができます。店内でのお客さんの意思決定する重要な3~5秒を活用できるというわけです。

商品ブランドは、年間1000億ドル以上を広告に費やしていますが、ほとんどの場合、店舗外で掲載されるため、衝動買いの意思決定に直接影響を与えることができません。

デジタルスクリーンでは、店内でお客さんとデジタルで直接かかわることができるため、認知度、好感度、購入意向などが上がり、5~8%の段階的な売上増加を促進することがわかっています。

実際に、有名なアイスクリームブランドは、このデジタルスクリーンを使って、地域ターゲッティングとブランディングの夏のキャンペーンを行いました。

ブランドの認知度と売上の増加を促進すると、ターゲットの地域で8.4%増になったということです。

ケースから離れているときには大きなサイズの広告を表示

カートをおして買い物をしている女性のイメージ画像

この会社のデジタルスクリーンが、冷凍ケースの棚ドアでどのように機能するのかを具体的に見ていきましょう。お客さんが棚ドアから1.8~3.7メートル(6~12フィート)くらい離れていると、センサーがドアの前の人の形を検出して、フルドア広告を表示します。離れていてもお客さんの注意を引くように、ドア一面を使って、4K解像度の約1.8メートルの動画を映します。

そのブランド動画に興味を持ち、1.8メートル以内に進むと、突然、ドアのスクリーンが棚割りに切り替わります。これにより、お客さんがドアを開くと、その商品があることを認識するようになります。棚割りの上部や目線の位置に、10秒程度の動画のバナー広告を出すと目にとまります。それがおすすめ商品になるというわけです。

棚割りの前面に重ねて、天気などに合わせたおすすめ商品を表示することもできます。
それぞれの商品には、オーガニックで砂糖が含まれていない紅茶というような情報も追加できます。

現在では、この会社は冷凍・冷蔵ケースだけではなく、チーズや洗剤、フェイスクリームなどの売り場にも広がっています。エンド陳列や壁、チェックアウトレーンクーラーなどに広がっています。

同社では2万人以上のお客さんを対象にデジタルスクリーンの研究を実施しています。定量的検査によると、9割以上のお客さんが従来のガラスドアを好まなくなり、スクリーンが強く支持されています。棚割りの商品は、鮮明で正確に表示され、栄養成分などの役立つ情報も見ることができます。

そして、最後の商品が棚から取り除かれると、「もうすぐ入荷します」というメッセージが出て、小売業者にすぐに知らせることができます。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2023年9月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。