値上げによる購買行動の変化

2024年2月28日

流通トピックス

■業種・業態:スーパー  
■キーワード:価格上昇/円安進行/人手不足/人件費/実質賃金

メモをしている女性のイメージ画像

2021年後半から、原材料価格やエネルギー価格の上昇、急激な円安進行などにより、様々な商品・サービスの価格が上昇しており、食料は総務省「消費者物価指数(CPI)」によると112.2と総合の105.1を上回り物価を押し上げています。

食品値上げと食費支出の現状

特に、食用油やマヨネーズなどが含まれる油脂・調味料は116.1と、食料の中でも最も高くなっています。今後についても、人手不足による人件費の高騰や2023年6月以降に引き上げられる電気代などコストアップ要因が増えることで、さらなる値上げが懸念されるところです。

消費者物価指数(CPI)の推移
消費者物価指数(CPI)の推移のグラフ

一方、厚生労働省「毎月勤労統計調査」によると、名目賃金から消費者物価指数に基づく物価変動の影響を差し引いて算出した実質賃金は、2023年4月で▲3.2と14カ月連続でマイナスとなり、マイナス幅は徐々に拡大しています。

賃金の現金給与総額はずっとプラスで転じているものの、物価の上昇に対して賃金が追いついていない点が要因としてあげられています。

実質賃金増減率の推移
実質賃金増減率の推移グラフ

その結果、消費者の食費支出については、総務省「家計調査(実質収支編)」によると、値上げ前の駆け込み需要と値上げ後の反動減を繰り返しながらも、食品の物価上昇と比較すると勢いを欠いています。複数回にわたる値上げの他、価格は変えないものの商品の内容量を減らすことで実質値上げをするケースも増えており、消費意欲にマイナスの影響を与えていることがうかがえます。

食料支出増減率の推移(2人以上の世帯)
食料支出増減率の推移(2人以上の世帯)のグラフ

値上げにともなう消費者の購買行動の変化

日本政策金融公庫「消費者動向調査」によると、現在の食の3大志向(健康志向・経済性志向・簡便化志向)の中でも、前述の実質賃金の低下にともない2021年1月以降は経済性志向の伸長が著しくなっています。

食の志向の推移
食の志向の推移のグラフ

具体的には、消費者の節約意識が高まり、必要な時に必要な量を購入することで食費をおさえる傾向が顕著になっているようです。さらに、2023年に入って新型コロナウイルス感染の第8波も収束し、5月には感染症法上の位置付けが5類に移行するなど消費者の感染対策への意識が薄れてきたことで、コロナ禍で増加した感染防止のために買い回りを控えるワンストップ・ショッピングの傾向から、「A店は毎週金曜日ヨーグルトが安い」「B店は今日卵の特売をしている」「C店は毎月1日と15日にポイントが3倍になる」といったように、食品の価格が安い店舗や得になるタイミングに合わせた複数店舗の買い回りやまとめ買いの傾向へと急速に変化してきています。

その結果、店舗で買物をする前にチラシやアプリのクーポンなどを参考にして購入する商品を決めておく計画購買が増加し、店頭で目についたものを衝動的に購入する非計画購買の割合が減少しています。

購買行動の変化に対する小売側の対策

お弁当におかずを詰める職員のイメージ画像

小売側では、値上げにより一品単価は増加しているものの、買物客の買い控えや買い回りが増えたことで買上点数が減少し、さらに来店客数の減少にも苦慮しています。買上点数や来店客数の減少に歯止めをかけるために、小売側は「低価格訴求による競合からの買物客奪取」「付加価値訴求による買物客の囲い込み」といった対策をとっています。

前者については、低価格訴求をしても利益を確保できる仕組み作りが重要となっています。現在、多くの小売では、人件費や水道光熱費などの販売管理費の増加が利益を圧迫しているのはご存知の通りです。

AI(人工知能)を活用した需要予測発注システムや適正な値引き・人員配置システムの導入、その他にセルフレジや無人決済店舗の設置、ピッキングや品出し作業におけるロボットの使用など、デジタル技術の活用を通じて人件費や廃棄ロスを削減し、販売管理費の圧縮を達成することで低価格訴求をするための原資を捻出しようとしています。

後者については、小売側が主導で開発するプライベートブランド(PB)商品や総菜商品の育成が重要となります。PB商品については、従来の低価格帯だけではない幅広い品揃えと小売間の提携による展開先拡大を通じて付加価値とスケールメリットの両立を図るため、小売各社は取り組みを強化しています。

また、総菜商品については、即食簡便ニーズを背景にマーケットは拡大しており、競合にない独自商品の開発・展開は買物客の囲い込みにつながります。そのためにも、買物客のニーズ把握とスピーディな商品開発が必須となるでしょう。

さらに、今後はECサイト(オンライン)と実店舗(オフライン)を融合したOMO(Online Merges with Offline)の取り組みが重要になります。

例えば、買物客がある商品の売場で気に入った商品について、スマートフォンでそのバーコードをスキャンするとECサイトにアクセスしてそのまま購入できるといった具合に、買物客の体験価値向上につながるなど、小売側ではECサイトと実店舗の購買データを連携させて、個別の買物客への新たな提案につなげることもできます。

今後、節約志向がさらに高まると、これらの対策を講じてきた小売と講じてこなかった小売との業績格差が拡大し、M&Aや業務提携などの流通再編が加速するものと思われます。

(文)田中イノベーション経営研究所
中小企業診断士 田中勇司
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2023年9月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。