酒税改正における酒類メーカーの棚割戦略

2024年2月28日

流通トピックス

■業種・業態:スーパー  
■キーワード:販売免許制/酒税改正/棚割戦略/PEST分析

酒店の店内イメージ画像

酒類および米穀類における販売免許制による参入規制は小規模な酒販店や米穀店の保護につながっていましたが、1990年代後半から小売販売に関する規制緩和が進みました。酒類販売については、2001年1月の距離基準廃止、2003年9月の人口基準廃止、2006年8月末の緊急調整区域の撤廃を経て原則として全ての地域で自由化されました。
その結果、スーパーマーケットやコンビニエンスストアを初めとした量販チェーンでも、人的要件や経営基礎要件などの一定の要件を満たせば免許の取得が可能となったのです。

量販チェーンにおける酒類カテゴリーの位置づけ

近年、コロナ禍を経てテレワークの普及などライフスタイルの変化により大規模な宴会需要が減少していることに加え、相次ぐ飲食料品や日用品の値上げを背景とした節約志向のために外食を控える動きが顕在化しており、消費者の「家飲み」傾向が強まっています。

ショッパーインサイト社「real shopper SM」によると、全国のスーパー300店舗における非食品(日用雑貨など)を除く販売金額のうち、2022年酒類カテゴリー販売金額構成比は5.7%であり、本格的な取り扱い開始から20年弱で酒類が食品小売業における重要なカテゴリーのうちの一つとなっていることがわかります。

スーパー(全国)の商品カテゴリー別販売金額構成比(2022年)
スーパー(全国)の商品カテゴリー別販売金額構成比(2022年)のグラフ
出典:ショッパーインサイト社「real shopper SM」に基づき作成

酒税改正の全体像と影響

TAXのイメージ画像

酒税法は、酒類をアルコール分1度以上の飲料としています。また、酒税については、種類や品目、アルコール分などそれぞれの要素により税率が異なる分類差等課税制度が採用されています。特に、ビール類に関しては、高い税負担を回避するために各メーカーが酒税法のビールの定義外の「発泡酒」や「新ジャンル(第三のビール)」といった商品を開発し、その都度酒税法の改正が行われ、酒類そのものの定義や税率が変更されてきたという歴史があります。

類似する酒類間の税率格差は、各メーカーの商品開発や販売数量に大きな影響を与え、結果的に酒税減収につながるという指摘があり、政府は「平成29年度税制改正」の中で税率格差の縮小・解消に向けた酒税改正の実施を決定しました。具体的には、2020年10月・2023年10月・2026年10月の3段階で酒税が簡素化され、中でもビール類(ビール・発泡酒・新ジャンル)については2026年10月から酒税が一本化されることとなったのです。

酒税改正の流れ
酒税改正の流れのグラフ
出典:財務省 酒税に関する資料「酒税改正(平成29年度改正)について」に基づき作成

2020年10月の第1回見直しの際には、酒税が引き上げとなる新ジャンルとワインで直前期の駆け込み需要と引上げ後の反動減が発生しました。特に、価格に敏感な消費者に支持されている新ジャンルではその傾向が色濃く反映されました。現在は、2023年10月の第2回見直しのタイミングであり、第1回見直しと同様に新ジャンルとワインで駆け込み需要と反動減が見込まれます。

2023年10月以降の酒類メーカー棚割戦略

酒棚を確認するイメージ画像

2023年10月以降について、酒類メーカーに与える影響をPEST分析で整理してみます。PEST分析のPESTとは、「Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)」の4つの頭文字を取ったもので、これら4つの視点で外部環境を整理するものです。

Politics(政治)は、市場競争の前提となる「ルールそのもの」が変化する要因であり、これまでに述べてきた酒税改正が該当します。

Economy(経済)は、売上やコストなど利益に直結する「バリューチェーン(価格連鎖)」に影響を与える要因です。酒類カテゴリーでも他の食品カテゴリーと同様、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻に端を発するエネルギーや原材料、資材、物流価格などの高騰を受け、昨年から今年にかけてメーカーによる商品値上げが実施されています。今回の第2回見直しのタイミングでも、ビールや日本酒、発泡酒など酒税引下げや据え置きになる商品も含めて値上げとなりました。

Society(社会)は、売上のもととなる「消費者の需要」に影響を与える要因である。食の志向について、日本政策金融公庫「消費者動向調査」によると、近年は健康志向が高水準で推移しています。また、値上げによる実質賃金の低下の影響からか、経済性志向が増加傾向にあります。

食の志向の推移(単位:%)
食の志向の推移(単位:%)のグラフ
出典:日本政策金融公庫「消費者動向調査」
(n:1,000 ※複数回答・上位2つ)に基づき作成

Technology(技術)は、市場競争の「成功要因」を変えてしまう要因です。最近では、全国の小規模なビール醸造所でこだわりと技術を集約して造られている多様なクラフトビールに代表される、「クラフト」ブームがウイスキーやジンなど他の酒類にも波及しています。

これらを図示したものが下表となり、この分析を踏まえて酒類メーカーの棚割戦略を考えてみます。

2023年10月の酒類メーカーPEST分析
2023年10月の酒類メーカーPEST分析の表

戦略の方向性としては、大きく価格訴求と付加価値訴求に分けられます。

前者については、ビール類であれば、増税や値上げはあっても依然としてビールと比較して価格の安い発泡酒・新ジャンル、さらにビール類と比較して価格の安いチューハイなどの棚割スペース割付けを維持・拡大していくのが適当でしょう。

ただし、価格に敏感な消費者を引き付けるためには、その他のカテゴリーについてもプライスラインを意識して下げるとともに、チラシやインプロなどの販促を継続して安さを認知してもらう必要があります。

後者については、健康価値や品質価値の切り口でスペースの割り付けや品揃えを実施するのがよいででしょう。例えば、ビール類ではプリン体ゼロや糖質オフ、糖質ゼロなど機能性の高い商品の棚割スペースや品揃えを拡充する取り組みが挙げられます。その他に、健康を気遣う消費者向けに、ノンアルコール商品の展開スペースを確保したり、アルコール分の低い商品カテゴリーを横断して集めてコーナーを作成したりすることも効果があるでしょう。

また、品質価値の観点では、各カテゴリーに存在するクラフト商品の品揃えを強化することがポイントになりそうです。他チェーンにはあまりないクラフト商品を品揃えすることで、それを目当てに来店する優良顧客の育成につながります。ただし、少量多品種の品揃えは値引きロスや廃棄ロスを招きやすいので注意が必要です。POSデータを取得していれば、こまめに販売動向を確認した上で商品の改廃提案を行っていくことが重要となります。

酒類カテゴリーは、食品小売業において重要なカテゴリーですが、今後も酒税改正を初めとして様々な要因で販売動向が変化していく懸念があります。

酒類メーカーは、PEST分析で示した4つの視点でカテゴリーの状況を常に把握し、柔軟かつスピーディに提案していくことが今後の棚割戦略のカギとなってくるでしょう。

(文)田中イノベーション経営研究所
中小企業診断士 田中勇司
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2023年9月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。