小さくても強い!
「引き算」で個性を打ち出す店づくり

2024年1月15日

流通お店づくりトピックス

■業種・業態:飲食店/物販店/衣料店  
■キーワード:シンプル/中小企業/強み/満足度

小さくても強い!「引き算」で個性を打ち出す店づくりのイメージ

人気商品や人気ブランドは「引き算」で成功したケースが数多くあります。取り扱う商品やサービスを増やすのではなく、減らすという「引き算」の発想を売場やメニューに取り入れることで、お客様に選ばれる「シンプル・イズ・パワフル」な店づくりをご紹介します。

消費者はシンプルを求める「引力」を生む引き算の発想

「よい商品がたくさんあるのに選ばれない」という話をよく聞きます。もしかすると、いろいろあるから選ばれないのではないでしょうか。「いろいろ」という色がないように、その店や商品のイメージが浮かばないから選ばれないということがよくあります。

「よい商品がたくさんあるのに選ばれない」という話をよく聞きます。もしかすると、いろいろあるから選ばれないのではないでしょうか。「いろいろ」という色がないように、その店や商品のイメージが浮かばないから選ばれないということがよくあります。

例えば、北海道や京都が観光地として人気があるのは、北海道なら自然、京都なら歴史と文化というように、具体的なイメージが浮かびやすいからです。イメージが浮かぶからこそ心動かされ、行ってみたいという気になります。
「アップル」「ディズニー」など、人々を魅了する〝強いブランド〟には、「買いたい」「行きたい」という気持ちを喚起する「引力」があります。その引力を生み出しているのが「引き算」の発想です。扱う商品やサービスを絞ることで明快なイメージを打ち出し、顧客を引きつけているのです。

商品の機能にしても、シンプルな方がよいと考える消費者が増えています。全国1000人の消費者に聞いた調査では、品質が同じであれば「多機能な商品よりシンプルな商品を選ぶ」と答える人が半数を超え、商品のデザインもシンプルなものが好まれました(次ページ図1参照)。その理由の一つに考えられるのが情報の洪水です。ネットでもリアルな店舗でも、選択肢が多すぎて何を選んでいいかわからず、それがストレスや心理的な負担になっています。

高度成長期のように人口が増え、消費支出が右肩上がりに増えていった時代は、品揃えを増やすことでお客様を引きつけることができました。現在のように消費者のニーズが多様化してくると、大きいニーズ、つまり大衆というものは存在しなくなり、マスマーケットを相手にする企業ほど厳しくなります。多くの消費者がラーメンもあれば、うどんもあるというお店より、ラーメン専門店、うどん専門店の方に魅力を感じるように、総合から専門へ、足し算より引き算が価値を持つ時代になっています。

図1

隣の芝生は青く見える中小企業ほど引き算が重要

とはいえ、大企業をはじめ、足し算企業が圧倒的に多いのが現状です。なぜ足し算に陥ってしまうのか。〝足し算の罠〟と呼んでいますが、お客様が減ってくると、まずやりがちなのが、何か売れるものはないかと、品揃えを足し算してしまいます。私たちは〝隣の芝生が青く見えてしまう〟傾向があり、他社がやっているから自分たちもやろうという発想になります。しかし実際は、それほど青くないのが現実です。

引き算に踏み切れない理由は、増やすのは簡単だけど、やめるのは大変という心理的メカニズムも働いています。ある商品を扱うのをやめれば、それだけ売上は減ります。引き算は消極的でマイナス志向であるという考え方など、足し算が進む理由は山ほどあります(図2参照)。

図2・なぜ足し算は進むのかということを紹介した画像

扱う商品は多いほどよい、あらゆるお客様のニーズに応えたいなどと考えると、個性がどんどん薄まります。現代は個性がお客様を魅了する時代です。ラーメン店がうどんを扱うようになったら、何の店かよくわからなくなってしまうように、足し算すればするほど個性がなくなり、お客様が離れていってしまう恐れがあります。

実際に調べた結果でも、商品や顧客ターゲットを絞り込んだ引き算企業の方が、足し算企業より業績がよいケースが多いのです(図3参照)。特に中小企業は経営資源が限られています。限られた資源を有効活用するためにも、引き算の発想が求められています。

図3・引き算が重要ということを棒グラフのデータを使って紹介した画像

「弱み」を克服するより自社独自の「強み」を伸ばす

引き算で成功するには、どんな発想が必要でしょうか。まず、「弱み」ではなく「強み」に目を向けることが大切です。企業経営ではよく「改善」という言葉が使われますが、「強みを改善する」とは言いません。改善とはまさに弱みに目を向けています。弱みを改善しても、無難か平凡になるだけです。弱みを克服するより、強みを伸ばす方がはるかに有益です。

ただし、強みには条件があります。第一に顧客にとって価値があるかどうか。自分が強みと思っていても、お客様にとって価値がなければ、単なる独りよがりです。次に独自性があること。その強みが競合他社にとっても強みなら、お客様は競合する店や商品を選ぶかもしれません。そして3つ目が、その強みが自社の専門性や独自の技術を背景にしており、他社に容易に真似されにくいことです。

核となる商品、いわゆるシンボルをつくることも欠かせません。何でも平均的においしいケーキ屋さんより、フルーツタルトが有名、チーズケーキが最高においしいというお店の方が「行ってみたい」という気になります。小さい企業ほど「うちはこれが強い」というシンボルが必要です。

商品やサービスを絞ると魅力や満足度が高まる

小売店や飲食店が引き算で成功するための具体的な手法として考えられるのが、品揃えの引き算です。扱う商品を増やせば、お客様が増えるというわけではありません。たくさんの商品を揃えるより、品揃えを絞ることによってお店の特徴が際立ち、選ばれやすくなります。品揃えした商品に一貫性があるかどうかも重要です。

次にターゲットの引き算です。もっとも売りたいのは誰なのか。想定するターゲットを絞れば絞るほど、明快で鮮明な個性が生まれます。個性が魅力になり、個性的であればあるほど多くのお客様に支持され、顧客満足度も上がります(図4参照)。逆に八方美人は危険です。誰に対しても中途半端になる可能性があるからです。

引き算はサービス業でも威力を発揮します。予防医療に特化した「治療しないクリニック」や、シャンプーやシェービングを提供しないヘアカット専門店など、サービスを引き算して成功した例はたくさんあります。

売りたい商品、提供したいサービスが絞り込まれていると、スタッフがどこに力を入れてよいかが明確になり、サービスの質が向上するだけでなく、スタッフの満足度も高まります。

引き算で成功するには、こうありたいという理想像を明確にし、それに合うことは実施するが、合わないことはやめるという勇気が必要です。そして最も大切なのが、知恵を絞ることです。伸びている企業や商品はよく考え抜かれています。足し算の勝負だと大企業が有利ですが、引き算なら規模が小さくても1番になれます。ぜひ勇気と知恵を絞り、引き算に挑戦してほしいと思います。

図4

※参考文献)岩崎邦彦「引き算する勇気:会社を強くする逆転発想」日本経済新聞出版社

※当記事は2023年12月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。