AIを活用した画期的な食品宅配

2024年4月24日

流通トピックス

■業種・業態:スーパー/小売業  
■キーワード:レシピ検索/ネット通販/フォローアップ/アンケート

スーパーマーケットの看板イメージ画像

日本の食品のネット通販といえば、注文して数時間後に届くネットスーパーと、指定した頻度で定期的に商品が届く定期宅配がある食材宅配に大きくわかれます。この2つの中には、食材とレシピがセットになった「ミールキット」を扱っているところがあります。ミールキットは、毎日メニューを考えたくない人には便利ですが、メニュー数が少なかったり、自分の好みではないものがあったり、グルテンフリーの人は使えないなどの課題も少なくありません。
こうしたミールキットにAIが使われ始めています。

食品の買い物からレシピ検索まで代行

料理レシピのイラスト画像

米国には、AIを活用してミールキットの課題をクリアし、さらに卵や貝類などの食物アレルギーやベジタリアン向けの豊富なオプションが選べる食品宅配のサブスクリプションサービスが誕生しています。パーソナライズされた食品とその食材を活用するためのレシピが毎週届くのです。

それはニューヨークを拠点とするH社のサービスで、米国全土(アラスカ州とハワイ州を除く)で提供しています。600以上の食品を扱い、6000以上の栄養価の高いレシピを保有しています。提供する食事は朝食、昼食、夕食、軽食、頻度は毎日、平日だけなど選べ、料金は65ドルから。

H社の創業は2015年。体に良い食品ブランドとして立ち上がりました。2019年にはAIを活用したパーソナライズ食品サービスをスタート。2022年に黒字となり、2023年上半期には収益が67%増加して、1億8200万ドルになっています。

H社の最高デジタル責任者は、次のように言っています。

「小売業者はセルフレジやスマートカート、電子タグなどデジタル技術を導入しているにもかかわらず、核となる買い物はあまり進化していません。食事のメニューを自分で考え、実際の店舗内でもネットでも、その料理に使う食材を見つけるために通路を歩き回らなければならないのです。消費者からは、1週間の食事を計画するのが面倒。誰かがカートに商品を入れてくれる簡単な方法があればいいのに……という声を何度も聞きました」と。

顧客は毎週の食事のスケジュールを立てたり、より健康的な食品を購入したりするのに本当に助けを必要としています。Hではシェフ、栄養士によって、ニーズに合わせて1週間分の食品とレシピを作成することで、ユーザーの時間を節約し、精神的負担を軽減することに貢献しています。

日本にもHが上陸したら、首都圏を主にかなり支持されそうです。食物アレルギーがある子どもがいる家庭や、料理が苦手だったり、ダイエットしていたりする一人暮らしの人にも便利なサービスです。

ネット通販とは逆に満杯のカートから始まる

買い物カートのイラスト画像

Hでは、食材を探したりカートに商品を入れたりする手間はありません。1週間分の食品と顧客の好みや目標、評価する摂取量調査に基づくレシピを顧客に提示します。ユーザーは、リスト内の食品やレシピを置き換えることができますし、スキップすることも可能です。

つまりは、空のカートではなく、満杯のカートから始めることができるのです。このように従来の食品のネット通販とプロセスを逆転できているのは、後述するサービスを利用する前のクイズに基づいているからだといいます。

そこから、HはAIを利用して、ユーザーが購入したものとフォローアップアンケートに基づいて、より良いリストを作成します。アルゴリズムは、700万件以上の注文と1億件以上の食品の販売データを使用しているとのことです。

顧客は、AIが選んだ食品の3分の2を選択しているといいます。つまりは半分以上の注文が、AIが選んだ食品で、ユーザーが置き換えた食品は3分の1にとどまるということです。最終的には9割まで受け入れるようにしたいということです。

なお、届けられる食材は調理済みのものはほとんどなく、新鮮な肉や野菜などです。ユーザーが調理したり、刻んだりする必要があります。これがHの柔軟性になっていて、レシピとは異なる食材を混ぜたり、違う料理をつくったりして楽しむこともできます。レシピとともにカット済みの食材が入っているミールキットだと、このような融通が利きません。

カギになる最初のクイズ

G & Aのイメージ画像

それでは、Hを利用する前に応えるクイズについて、見ていくことにしましょう。この最初のクイズの回答をベースに、AIが600以上の食品と、6000以上のレシピの中から、1週間分の商品とレシピを提供するので、非常に重要です。

Q1:一人暮らしなのか、二人なのか、それ以上なのかの3つの中から選び、大人の数と、4歳以下と、17歳までの子どもの数についても回答します。

Q2:Hを使う目標を「健康を改善する」「食品のムダを減らす」「体重を減らす」「時間を節約する」など7つの質問から3つ選択します。ダイエットが目的であれば、摂取カロリーが低いレシピが提供されることになります。

Q3:雑食(肉と魚介類を食べる)、ペスカタリアン(肉は食べない)、ベジタリアン(肉と魚介類は食べない)、ビーガン(肉と魚介類、乳製品、卵を食べない)の4つの中から選びます。

Q4:乳製品、大豆などの食物アレルギーやグルテンフリーなのかの質問です。

Q5:ほとんどのレシピは20分以内で調理できますが、調理時間は「できるだけ少なく」「調理時間が多少長くても構わない」のどちらか、食事の準備は「できるだけ手間がかからないもの」「下ごしらえは気にしない」のどちらかを選びます。

Q6:オーブンや電子レンジ、ブレンダー、エアーフライヤーなど使っている家電についての質問です。

Q7:どんな料理が好みか、日本料理、イタリア料理、タイ料理、中華料理など。

Q8:どんな味が好みか、クリーミー+リット、フレッシュ+ハーブ風味など。

このほか、肉の好み(牛、豚、鳥、子羊)や魚介類の好み(生魚、燻製、貝)。嫌いな野菜(コリアンダーやニンニクなど)。朝食の好み(スムージーやオートミール、ヨーグルト、卵など)。ディナーで食べたいもの(サラダやハンバーガー、メイン+サイド、炒め物など)などについて答えます。

日本人からすると、かなり細かいという印象ですが、すべて選択肢があるので、迷うことはありません。料理や肉などの好みは、好きなものと嫌いなものにはチェックを入れることができ、嫌いな食品が届かないようにすることもできるのです。

良いリストをつくるためのフォローアップアンケート

ロボットがリストを作成しているイラスト画像

最初のクイズでのデータ収集に加えて、最新の配信について毎週いくつか質問します。料理が辛すぎないか、特定のサラダが気に入ったのか、まあまあだと感じたなどのフィードバックをしてもらいます。このように収集したデータが精度を向上させ、顧客の時間を節約するために調査を繰り返し行っています。

こうして回数を重ねるごとに、ユーザーへの提案精度が上がり、欲しい食品が自宅に配達される仕組みとなっています。提案が良ければ、配達頻度を平日だけから毎日にしたり、夕食だけから朝食を頼むようになったりすることもあるでしょう。そうすると、スーパーで買い物することがなくなります。

つまり、Hで買い物をすればするほど、ユーザーは買い物にかける時間・手間を減らせるようになるのです。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2023年11月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。