トレードマーケティングの重要性

2024年4月24日

流通トピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:消費財メーカー/小売視点/購買者視点/人手不足

スーパーマーケットの看板イメージ画像

『トレードマーケティング』とは、売場に商品が並ぶことが重要という考え方から、小売業の売場起点で行うマーケティング手法で、消費財メーカーでよく使われます。

これまでの消費財メーカーのマーケティング手法と言えば、消費者に対して「どのような商品を売るのか」や「どれくらいの価格設定にするのか」、「どこで売るのか」、「広告や広報、全国キャンペーンなどの様々なプロモーションの中からどのような手段で商品の魅力を伝えるか」といった取り組みを通じてブランドの価値を最大化することで売れる仕組みを作る『ブランドマーケティング』が主流でしたが、変化が見られるようになりました。

消費財メーカーが「小売視点」「購買者視点」へ

スーパーマーケットで男性店員が商品を整えているイメージ画像

戦後の高度成長期が終わり経済成長の鈍化し始めた1980年代以降からメーカー間の販売競争が激しくなり、「ブランドと消費者の関係を構築・維持するためには、そもそも小売店の店頭に商品が並んでいることが重要である」という考え方が広がるようになりました。

そのため、消費財メーカーは、小売業を単に「どこで売るのか」を考える上での流通経路の一つとしてではなく「顧客」と捉え、小売業や「小売業の顧客」である購買者(ショッパー)に売れる仕組みを作る『トレードマーケティング』を行うようになってきました。

「小売視点」「購買者視点」を持ち、POSや消費者パネルなどの各種データや売場情報、購買行動など多面的な切り口で小売業における自社商品の位置づけを明確にすること。その上で小売業が抱える課題解決のサポートを通じて小売・メーカー・購買者の「三方よし」を実現する「カテゴリーマネジメント」の取り組みは、『トレードマーケティング』の代表的な手法の一つです。

しかし、近年は様々な業態の小売業でM&Aによる上位集中が進んでおり、大手企業の存在感が高まってきています。また、消費者についても、SNSなど様々な手段で情報収集することで嗜好が多様化しており、単品の大量販売によるブランドの育成が困難になってきています。

その結果、自社商品を店頭に並べてもらい、消費者に購買してもらうことでブランドを構築・維持していく難易度が上昇しています。

小売業・メーカーにおけるトレードマーケティングの必要性

食材とトラックの模型のイメージ画像

最近の小売業においては、業態の垣根を超えた異業種間の競争激化に加え、慢性的な人手不足にともなう人件費や物流費の高騰など、業界を取り巻く環境変化が加速する中で各企業は生き残りへ向けた方向性を模索しています。

具体的には、新店オープンや改装・業態転換といった「売る場所を広げる・変える」取り組み、アプリ導入・チラシ削減といった「購買者接点を増やす・変える」取り組み、ネット販売への参入といった「売る場所を広げる・変える」「購買者接点を増やす・変える」の両方にまたがる取り組み、さらには取り扱いカテゴリーの拡大・絞り込みやPB(プライベ―トブランド)商品の拡大といった「売るものを増やす・変える」取り組みなど多面的な対策に着手しています。

これらの対策に対して、ITの進展により取得できるデータが多様化しているだけでなく、コロナ禍を通じてテレワークが定着することでネットでの購入が増加するなど商圏内の消費者の購買行動も複雑化しており、様々な切り口のデータがビッグデータ化しています。

各企業のバイヤーは、小売業を取り巻く環境変化のスピードが速いため、これらのデータを活用して高速でPDCAサイクルを回していくことが求められます。それにともない、バイヤーの業務は劇的に増加しており、カテゴリーの売上・利益を一緒に考えてくれるメーカーへの期待が高まっています。

小売業の生き残りに向けた対策とトレードマーケティングのニーズ上昇
トレードマーケティングのニーズ上昇のイメージ画像"

一方、メーカー側においても、将来的に少子高齢化が進むことで国内市場が縮小する懸念だけでなく、直近でも円安にともない原材料費が高騰するなど、市場を取り巻く環境は厳しさを増しています。

そして、各小売業の売場で優先的に展開されるPB商品について、メーカーの販売する商品を売場で展開するスペースが狭くなっていきます。そうなると、同じカテゴリー内でのメーカー間の競争がさらに激しくなり、各企業にとって従来の『ブランドマーケティング』だけではなく、「顧客」として小売業に向き合う『トレードマーケティング』の必要性がこれまで以上に増していくことが予想されます。

トレードマーケティングの今後

男性が空に向かってこぶしをかがげているイメージ画像

小売業・メーカーともに、「市場の縮小による販売数量の減少」「嗜好の多様化による販売種類の増加」により、市場の拡大を前提として単品を低価格で大量販売することでスケールメリットを追求するビジネスモデルは、今後さらに通じなくなっていくでしょう。

短期的には、競合から売上を奪取する従来の取り組みの延長線上で収益を上げることが出来るかもしれません。しかし、競合からの売上奪取にも限界があり、中長期的には小売業とメーカーが協働して顧客に新しい価値を提供する市場創造型の取り組みへのシフトを迫られます。

その際に、メーカーにとって必要となるのは、商品開発から店頭を経て消費者に商品が届くまでの「価値の一貫性」であり、『トレードマーケティング』を『ブランドマーケティング』と融合させることが大切となってきます。

メーカー側では、『ブランドマーケティング』をマーケティング部や広告宣伝部などが担当し、『トレードマーケティング』を営業部や営業企画部が担当するなど、組織上分断されているケースが多く、十分な連携がとられていないケースが多く見受けられます。

今後は各小売業が持つPOSやID-POSなど購買者についての情報に加え、カテゴリーのスペシャリストとして業界動向や消費トレンド、市場POS、消費者パネルなど様々な情報を持つメーカーの知見を組み合わせ、小売業とともに購買者が求める新たな価値を導き出すことが重要となってきます。

そして、その価値を具現化する商品を開発して広告や全国キャンペーンなどで価値を伝える『ブランドマーケティング』と、小売業とともにその価値を店頭で伝えて購入してもらう『トレードマーケティング』を連動させることで、メーカーだけでなく小売業、購買者にとっての「新たな価値」の創出につながることになるでしょう。

(文)田中イノベーション経営研究所
中小企業診断士 田中勇司
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2023年11月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。