「ソーシャルコマース」「ソーシャルショッピング」は
ECサイトを超えるのか

2024年4月24日

流通トピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:SNS/Eコマース/自社サイト/動画ショッピング/アーカイブ

男女がそれぞれパソコンとスマホを使用しているイラスト画像

TikTokやFacebook、InstagramといったSNSを通じて、購入した商品の使用感などを友人や家族、そして世界中の見知らぬ人たちと共有して、流行をつくりだすことが簡単で手早くできるようになりました。

TikTokハッシュタグの「#TikTokMadeMeBuyIt」は、2023年6月に585億回も再生されSNSの力を表しています。

話題になった商品では、「iced coffee slushy cups」と「hair gem stampers」が挙げられます。前者は、コーヒーを注いで、2分間カップを押しつづけるとアイスコーヒーがつくれるカップ、後者はラインストーン付きヘアアクセサリーで、これらの商品を自分で購入して、それを使っている動画をアップする人が相次ぎました。

SNS+Eコマースが浸透

スマホを利用しているライフスタイルを表しているイラスト画像

米国の情報提供会社P社とクラウドサービスが、2023年5月5~15日に米国のユーザー約3,000人のアンケートを実施。SNSショッピングについて調査し、7月に発表しました。

P社によると、米国のユーザーの43%(推定1億1,000万人)が商品やサービスを探すために、SNSをチェックしているといいます。購入する確率が最も高いのはFacebookで、商品やレビューを見た7,700万人のうち24%が購入しました。

次に高かったのがInstagramで、商品やレビューを見た5,700万人のうち21%が購入。三番目はTikTokで、3,900万人のうち17%が購入。この後、YouTube、X(旧Twitter)、Snapchat、Pinterestと続きます。

日本では、SNSは集客や販促をするプラットフォームというイメージがありますが、米国ではこのようにSNSショッピングが広まってきています。外部のECサイトに誘導するのではなく、SNS自体にショップ機能やチェックアウト機能を備えていて、米国ではSNS+Eコマースの「ソーシャルコマース」または「ソーシャルショッピング」といわれています。本稿では分かりやすいように、この2つを合わせて「SNSショッピング」ということにします。

Facebookでは2020年から企業が無料でオンラインストアを作成できるモバイルプラットフォームのFacebook Shopsを立ち上げています。Facebook Shopsは日本でも提供していますが、以下は米国での提供になります。

Instagramは、2019年にプラットフォームで直接購入できるようにするInstagram Checkoutを開始。2020年には、「カートに入れる」のアイコンを配置することができるようになりました。これにより、フォローしているブランドやインフルエンサー、または有名人が宣伝する商品を即座に表示して購入できるようになりました。

TikTokもTikTok Shopが2022年からスタート。Instagram Checkoutと同じように、ユーザーが買い物かごのアイコンをクリックすると、メーカーのページに移動し、他の商品を見たり、カートへ追加したり、決済をアプリ内でシームレスに行うことができます。

YouTubeでも、ユーチューバーが動画に商品をタグ付けすることができます。ユーザーがその商品をタップすると、その商品の詳細を確認して購入できます。

ユーチューバーは、個人ストアの「チャンネルストア」を開設することもできます。さらにYouTubeでは、動画に出てきた商品の一覧を自動生成して、ユーザーが商品のリンクをタップすると、その商品を購入できるページに移動するなど、いろいろな仕組みを提供しています。

SNSによって売れる商品が違っていた

女性がデジタルデバイスを持っているイラスト画像

SNSショッピングで購入率が高いFacebook、Instagram、TikTok、YouTubeの4つを商品別に見ていきましょう。よく購入する商品のベスト3は、アパレル、化粧品・美容アイテム、食品・飲料ということが分かりました。ユーザーの46%がSNSでアパレルを購入し、次いで化粧品・美容アイテムが33%、食品・飲料が32%でした。

どのSNSを使っているかは、それぞれの強みに関係しています。写真や動画を投稿したり、他人が投稿した写真や動画を見たりするInstagramは、ファッション関係の広告として理想的なプラットフォームで、視覚的なアイテムを表示するのに適しているといえます。直近1カ月間で半数近くの47%がアパレルを購入していました。

Instagramに続いてアパレルの購入が多かったのはTikTokです。Instagramとはわずかの差で42%でした。

TikTokは最長10分間までの短い動画を作成し、投稿できます。誰でもBGM付きのショートムービーを簡単に作成して公開できますし、それを見ている人も短い時間なので飽きることがありません。そのため、インフルエンサーマーケティングに最適です。

インフルエンサーによるデモンストレーションやレビューは、化粧品・美容アイテムを購入するための好ましいプラットフォームとなっていて、ユーザーの33%が購入していました。

食品・飲料ではYouTubeが最も高く、1カ月間でユーザーの40%が購入しています。YouTubeは長いビデオ形式のため、商品自体や使い方などを丁寧に解説できます。

食品では、事前に健康・栄養バランス、食の安全性などを確認してから購入するユーザーが増えているため「添加物の少なさ」「オーガニック」「産地などの食の安全性」などをうまく訴求できると、購入につなげられます。

YouTubeでの購入は、電化製品、オフィス用品も他のSNSと比べて高く、YouTubeは、ユーザーが購入する前に、そのパフォーマンスを確認する必要がある商品の広告に最適だといえます。

ペット用品、おもちゃは、TikTokとYouTubeでの購入が高くなっています。
なお、最も購入率が高かったFacebookは、突出した特徴はありませんでした。

Facebook Shopsの優れた機能としてカスタマイズが挙げられます。ユーザーの好みのブランドや商品が出るため、それが購入率の高さにつながっているのでしょう。

自社サイトでの動画ショッピングも登場

値引きを思わせるイラストイラスト画像

SNSショッピングは、基本的に衝動買いがほとんどだと言われます。ユーザーが魅力的な商品やブランドを見つけたら、すぐに購入できるのが大きな魅力です。そのため、SNSプラットフォームは、閲覧から支払いまで迅速で、簡単な方法を提供する必要があります。

さらにSNSは「いいね!」やコメント、シェアなど行動履歴をもとに、ユーザーのおすすめのコンテンツを紹介するAIのレコメンド機能があるため、馴染み深いと感じているユーザーもたくさんいます。特にZ世代はSNSを「つい開いてしまう・見てしまう」と感じているようです。そして、彼らが好むプラットフォームはTikTokです。

TikTokでバズったことをきっかけとして生まれた企業コラボもあります。2022年末から2023年にかけて、TikTokで100億回以上再生された「ポテトチップスにキャビアを乗せて食べるとおいしい」という動画です。これに触発され、動画に出てきたポテトチップスのメーカーがキャビアの大手メーカーとコラボして、2社の商品をセットにした豪華なセットを2023年9月から専用サイトで、販売を開始したのです。

SNSではレシピや料理のコンテンツは大変人気があるため、食品ブランドは従来のECサイト以上にユーザーと対話する機会が生まれています。

日本にも上陸しているドーナッツメーカーKは、インフルエンサーと提携することで、若いユーザーへの浸透を促進しています。インフルエンサーで20代の人気女性モデルHBが手掛ける美容ブランドとコラボしたストロベリー味のドーナツ。これが毎日すぐに完売するほど人気になりました。

このことが大きく貢献して、2023年11月にはユーザーの40%を18~34歳が占め、1年前の33%から増加しました。

この他、SNSではなく、FireworkというWebサイトにショート動画を埋め込めるアプリを使った企業も登場しています。これだとインフルエンサーの知名度やフォロワー数に依存することがなく、有名人を使った動画を自社の好みで作ることができます。

2023年2月から、スーパーマーケットチェーンFは、2人の人気料理研究家と組んで料理のライブ配信を自社サイトで開始しました。そのレシピで使っている商品をすぐに購入できるようにしています。過去の動画も自社サイトにアーカイブされているので、いつでも動画を見ることも、商品を購入することもできます。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2023年12月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。