ABMとは?
他マーケティング戦略との違いや進め方をわかりやすく説明
ABMとは、特定のアカウント(顧客)を対象に戦略的にアプローチをかける、マーケティングの手法のひとつです。絞り込まれた条件に該当する企業を中心にアプローチをかけ、大きな売上を効率的に獲得していけることから、主にBtoBのマーケティング領域において注目されています。
しかし、ABMはあらゆる企業において機能する、万能な手法ではありません。本記事では、ABMの概要や進め方、メリット・デメリットを考察していきます。
ABMとは
ABM(Account Based Marketing)とは、簡単に説明すると、自社に高い利益をもたらすと見込まれるアカウント(顧客)をターゲットとして絞り込み、営業リソースを重点的に投下しマーケティング施策を展開する、主にBtoBマーケティングで活用される手法です。
BtoBにおけるリード獲得の手法には、展示会やWebマーケティング施策などが代表例として挙げられます。しかし、展示会はブースに顧客が訪れないことには、顧客情報を知る由もありません。Webマーケティングには大量のリードを獲得するポテンシャルがありますが、顧客側の確度を図りかねぬ側面もあります。
こうした課題に対し、ABMは優良なリードを効率よく獲得し、かつターゲット企業(アカウント)の売上の最大化を目的に実施されるものです。ターゲットが限定されている企業や、高単価商材を取り扱っている企業にメリットの大きい手法となります。
他マーケティング戦略との違い
なお、ABMと混同されがちなマーケティング手法に、デマンドジェネレーションとリードベースドマーケティングがあります。
- デマンドジェネレーション:見込み顧客の「獲得」「育成」「絞り込み」の3段階を経て、確度の高いリードを創出する取り組み
- リードベースドマーケティング:個人を対象として広く見込み顧客を抽出し、顧客インサイトに沿って適切なコンテンツの発信を続け、自社への興味・関心を高めて購入へと促すマーケティング手法
各手法とABMとの違いをまとめると、下記のようになります。
ABM | デマンドジェネレーション | リードベースドマーケティング | |
---|---|---|---|
役割 | 営業とマーケティング部門が連携して推進 | マーケティング部門が主体 | 営業とマーケティング部門が連携して推進 |
目的 | ターゲット企業からの売上の最大化 | ホットリード(確度の高い見込み顧客)の抽出 | 個人を中心に「売れる顧客」を探し、アプローチする |
これらのマーケティング手法は個別に語られることもありますが、目的に向けて顧客の絞り込みを実施する点は共通します。実際に、デマンドジェネレーションにおける顧客獲得・育成・絞り込みは、ABMでも重視されるステップです。
ABMの流れ・進め方
ABMは、次の手順で実行します。
- ターゲット顧客の設定
- 営業戦略・営業戦術を立てる
- アプローチする
- 効果検証し改善する
売り上げの最大化を果たすには、ターゲット顧客の課題とニーズ、そして自社の商品やサービスとの相性が重要です。ターゲット設定の前段階として、ターゲット候補を入念にリサーチし、自社の商品やサービスが解決の糸口として機能する課題やニーズを抽出しましょう。
①ターゲット顧客の設定
まずはターゲット企業となるアカウントの絞り込みを実施します。ターゲット企業は自社に高い利益をもたらす可能性があるのか、下記などの情報から判断します。
- 業種・業態
- 企業規模
- 所在地
- 自社との親和性・利益性
- 競合企業との関係性
この際には法人リストの活用なども有効です。これらの情報から見込める取引額やリピートの可能性を割り出します。また、営業をかける対象アカウントにおけるキーパーソンも特定しておきます。
ABMは、広く網を張って営業をかけるのではなく、自社に大きな売上をもたらすと見込まれるアカウントに対し、集中的にリソースを投下してアプローチする手法です。そのため、ターゲットの絞り込みでは大きな売上規模が見込める条件が不可欠です。
「受注までのリードタイムが短く、中規模程度の売上が見込みやすいアカウント」ではなく「受注までのリードタイムは長いが、受注できれば売上構成比率の多くを占めるほどの売上が期待できるアカウント」を、ターゲット顧客に設定します。
②営業戦略・営業戦術を立てる
続いて、ターゲット顧客にどのようにアプローチしていくのか、営業戦略と、それを実行するための営業戦術を立案します。
- 営業戦略:営業目標を達成するために設定する大枠の行動計画
- 営業戦術:どのような方法で営業戦略を遂行していくかの詳細を決め、実行するための具体策
たとえば「年間1,000万円以上の予算の顧客からの売上拡大を目指す」という営業戦略を立てたら、それを達成するために「ターゲットの課題・ニーズを把握するヒアリングを行う」「メールマーケティングで顧客を育成する」といった営業戦術を立案します。
効果的な営業戦略・営業戦術を立てるためには、ペルソナの設定やカスタマージャーニーの活用が有効です。カスタマージャーニーでターゲット顧客の行動を可視化できれば、各フェーズにおいて出てくる課題に対して、最適なチャネル・タイミングで解決策を提示できるようになります。
③アプローチする
営業戦略に沿った営業戦術を実行していきます。その際には、提示する資料やトーク内容に一貫性を持たせることがポイントです。
また、適切なタイミング・チャネルでアプローチするために、キーパーソンの行動の把握も重要です。たとえばキーパーソンが移動手段にタクシーを使う人であれば、タクシー広告を出すのも有効なアプローチでしょう。
BtoBは、成約までのリードタイムは長期化する傾向です。そのため、顧客の状態をフェーズにて分類し、フェーズごとに発生し得る失注の原因を洗い出し、歩留まりを起こさないための購買プロセスを実行できるかどうかが重要になります。
また、受注に至ったケースはもちろん、失注となった案件がどのフェーズで検討から外れたのか、何がボトルネックとなったのかなど、営業戦術を実行するなかで細かに集計できる仕組みも求められます。
④効果検証し改善する
施策を実行したら、効果検証は欠かせません。特に思うような効果が出ていない場合は改善を図り、再度施策を練り直し、あらためて実行して効果検証を繰り返します。
ABMに限った話ではありませんが、顧客データを起点とするマーケティング施策はPDCAを回しやすいことが特徴です。ABMにおいては、高いロイヤルティを想定したターゲットが、想定とは異なる属性だったという可能性もあります。これは悪いことではなく、むしろターゲットの解像度をより高めていける機会として活用しなければいけません。
施策の精度を高めていくには、営業部門が保有するデータとマーケティング部門が持つデータを統合し、より顧客理解を深めていく必要があります。そのため、ABMの実施にはSFAやCRM、MAなどのツールとの連携が不可欠です。
ABMのメリット
ABMは、次のようなメリットが見込める施策です。
- 大きな売上が見込める
- 営業とマーケティング部門が連携できる
大きな売上が見込める
ABMでは、ステークホルダーやキーパーソンに焦点を絞って関係構築を図るため、営業活動は自ずと効率化します。自社に高い利益をもたらすと見込まれるアカウントのみにアプローチを限定するため、大幅な売上向上が見込める施策です。
営業とマーケティング部門が連携できる
たとえばリードベースドマーケティングでは、リードの抽出までをマーケティング部門が担い、その後の営業から受注までの工程をセールス部門が担当する、といった分担が多く見られます。各部門の役割が明確であるがゆえに、部門間でのシナジーが思うように働かず、方向性にズレが生じることも少なくありません。
一方、ABMは顧客のニーズや課題を明確化したうえでのアプローチが前提となるため、顧客に提供すべき価値や認識を組織全体で統一できます。部門ごとに役割分担を設けることで発生しがちな分断を招くこともありません。
結果として、営業やマーケティングをはじめとする関連部門の連携強化につながります。
ABMのデメリット
メリットの一方で、ABMには次のようなデメリットも指摘されています。
- 蓄積された顧客情報が必要
- 蓄複数商材が必要
蓄積された顧客情報が必要
ABMは、ターゲットがどのような商品やサービスに価値を感じるのか、熟知していなければ始まりません。これを把握するためには、顧客データの蓄積は不可欠です。
しかし、表面的な情報をいくら集めても、ターゲットの潜在的なニーズにはリーチできません。アカウントとの関係性が乏しい場合、ABMの実施は最適解とならない可能性は否定できないでしょう。
蓄複数商材が必要
ABMは自社にとって高い価値を有すると見込めるアカウントをターゲットに定めます。そのため、ターゲット顧客の母数はそれほど多くはなりません。必然的に、同じアカウントに営業をかける回数が増えていくでしょう。
アップセルやクロスセルによる売上の向上がポイントになるため、複数の商材がない企業の場合は、ABMによるメリットの恩恵は近く天井に達すると考えられます。
ABMの効率・効果を高めるツール
ABMは、顧客理解を深め、ターゲット顧客が真に価値を感じるコンテンツの提供をもって実現します。そのため、顧客データを効果的に収集・分析できるツールの存在は欠かせません。
ABMの効率・効果を高めるためのツールには次のようなものがあります。
MA(マーケティングオートメーション) | SFA | CRM | |
---|---|---|---|
意味 | マーケティング活動を自動化するツール | 商談の進捗など、営業活動に関する情報を一元管理するツール | 顧客情報を一元管理するツール |
ABMでの役割 | 顧客行動のスコアリングにより、ターゲットとのエンゲージメントを図る | 過去の営業活動のデータを参照することで、キーパーソンや意志決定者の特定や営業戦略の立案に役立つ | 優良顧客の抽出に役立つ |
MA(マーケティングオートメーション)
MA(マーケティングオートメーション)は、マーケティング活動の自動化を助けるツールです。マーケティングに関係する情報を一元管理し、一部の作業を自動化することで、マーケティング活動の効率化を図ります。
機能 | できること |
---|---|
リード管理機能 | 名刺や過去の取引履歴、資料請求など、リードに関する情報の一元管理ができる |
スコアリング機能 | 条件によって決めた点数を付けることで、受注確度の高いリードを算出する |
シナリオ作成機能 | 「広告をクリックした人には10%オフクーポンを表示する」など、特定の行動に対して、特定のアクションを自動で返す |
メール作成・配信機能 | リード管理機能やシナリオ作成機能と組み合わせて、条件によって配信するメールの内容・タイミングを変えられる |
MAはリードの獲得から育成の段階で特に有用なツールです。MAによりマーケティングにおける単純作業を自動化すれば、より個に注目したマーケティング活動を実施できるため、確度の高いリードの育成がなされます。
SFA
SFA(Sales Force Automation)は、商談の進捗状況や履歴など、営業活動に関する情報を一元管理するツールです。「営業支援システム」と訳されます。
SFAには下記のような機能があり、過去の営業活動を可視化し、ターゲット顧客のキーパーソンや意志決定者の割り出しにも役立ちます。また、過去に話した内容や断り文句などを参考にすることで、効果的な営業戦略・営業戦術の策定を支援します。
機能 | できること |
---|---|
顧客管理 | 顧客情報の一元管理が可能。顧客に紐付いた案件の表示もできる |
案件管理 | 案件ごとの詳細や進捗をまとめ、チーム内で共有。優先順位を付ける機能もある |
商談管理 | 商談ごとの進捗をまとめて管理する機能。商談発生日や発展があった日、受注・契約日が一目でわかる |
営業報告 | 営業日報や営業報告書の作成をサポートする機能。複数社の報告をまとめて作成できる |
SFAで管理するのは、主に商談時の情報です。そのため、SFAは商談フェーズでその有用性が発揮されます。
CRM
CRM(Customer Relationship Management)は、顧客情報を一元管理するツールです。日本語では「顧客関係管理」と訳されます。
CRMでは、顧客の購入頻度や購入単価、購入した商材などを確認・分析できます。これらの情報から優良顧客を見出し、長期的な関係性構築に活かしていきます。
機能 | できること |
---|---|
顧客管理機能 | 購入履歴がある顧客の氏名、住所、メールアドレス、電話番号をはじめ、問い合わせ情報など顧客に関する情報を一元管理できる |
分析・レポート機能 | 顧客の購買行動を分析してレポートしてくれる |
営業進捗管理機能 | 商談開始から受注・成約までのプロセスを可視化。スムーズな営業活動のサポートをしてくれる |
メール配信管理機能 | セールスやイベント、キャンペーンなどの情報を該当顧客に自動で配信してくれる |
CRMは受注後の顧客関係を維持するために有用なツールです。各部署に点在している顧客情報を一元管理し、データに基づいた施策を経て顧客満足度を高めます。これにより、売上の最大化をサポートします。
まとめ
ABMの実施には、どのような顧客(アカウント)が自社に大きな利益をもたらすのか、その属性を把握すべく、顧客データの分析が欠かせません。MAなど、ツールの有効活用が施策の成否を分けるカギとなるでしょう。
また、営業リソースなどを集中的に投下する手法であるため、確度の高い取り組みが求められます。SFAなどを用いたロジカルな営業戦略・戦術を立案し、PDCAを細やかに回していく姿勢が、利益最大化に向けて強く求められます。