−以前のインタビューで「運ばず、燃やさず、その場で処理」が御社のテーマと伺いました。これは、SDGsの目標の何番に該当しますか?
- 亮介氏
- 関連が深いのは、目標12「つくる責任、つかう責任」と、目標13「気候変動に具体的な対策を」でしょうか。食品工場や飲食店などでは、食品ロスや減量の努力をしても、どうしてもゼロにはならないケースがあります。また、焼却処理等の場合、生ごみを運ばなくてはなりません。生ごみをその場で処理することで、減量と運搬時のCO2削減が実現できます。また、食品廃棄物等の発生量が年間 100 トン以上の食品関連事業者は、食品リサイクル法処理が義務づけられています。当社製品の食品リサイクル法の項目は減量(脱水、乾燥、発酵、炭化の方法により 食品廃棄物等の量を減少させること)で、発酵させることで、投入した有機物残渣が生分解処理され100%カウント。人の作り出したエネルギーを使用するのではなく、自然界の微生物の働きにより生分解することで、カーボンニュートラルにもつながります。
- 清次氏
- 生ごみを運ばずその場で処理できることは、目標8「働きがいも経済成長も」にも貢献します。例えば、大きな病院などは生ごみが出る場所も多いですよね。調理場の近くにシンクピアを設置することで、毎日遠いごみ庫まで生ごみを捨てに行く作業がなくなり、働き方改革につながったという声も聞いています。
−シンクピアを導入することで、企業がSDGsを推進していけるんですね。
- 清次氏
- そうですね。シンクピアは、いままでも十分に環境や社会に貢献してきたと自負していますが、創業17年目を迎えたいま、さらに一歩踏み込んだ製品を作れないかと考えています。そのきっかけとなったのが、某大手CVS企業からいただいた「汚泥を回収し、メタン発酵の原料にしたい。それを実現できる製品を作ってほしい」というご相談。つまり、分解液からエネルギーを作り出そうといった試みですね。汚泥は堆肥になりますが、引き取り手が少なく結局は焼却処分してしまっている企業や自治体も少なくありません。また、分解液から汚泥を回収できれば、下水に流す排水の質が向上します。この製品が実現すれば、人と環境と社会、あらゆる方面に寄与できることは間違いありません。以前から協力していただいている東京農業大学の先生にお願いし、近いうちに、分解液からどれだけ汚泥を回収できるか実験をしていただく予定です。
−自治体や教育機関等ともタッグを組み、新しい試みをされていると伺っています。
- 清次氏
- 長野県・立科町の女神湖に蓼科生ごみ処理ステーションを作り、2022年4月から運用をスタートしました。家庭用の生ごみをそのごみセンターに集約し、運んだり燃やしたりしないことでCO2排出を減らそうとしています。立科町では、これを皮切りに「観光の町」から「環境の町」へシフトしていくそうです。このような話はいままでもありましたが、具体的に始まったのは今回が初めてですね。ごみを運んで燃やすといった“当たり前”から、生ごみの生分解を活用していくといった“新しいやり方”へ導いていくことも、当社の大きな仕事だと思っています。
- 亮介氏
- 教育機関に関する事例でいうと、沖縄の大地保育園の取り組みがユニークですね。開園から数十年、一度も生ごみを出したことがない保育園で、生ごみを堆肥にして畑に撒き植物を育てていましたが、シンクピアなら生ごみの発酵が効率的に進められるということで製品を導入いただき、いま、子どもたちが園内でさまざまな植物を育てているそうです。
分解液の活用については当社でも検討していましたが、コストや運用面など、なかなか実現が難しかったんです。大地保育園のように、個々で活用されている事例をピックアップし、発信していくことから始めたいと思っていますね。
−自分で作った農産物を食べて、それをシンクピアに入れ、新たな肥料を取り出してまた農産物を育てる。大地保育園の取り組みは、食育や循環型社会の実践にもつながりますね。他社の生ごみ処理機と異なる、シンクピアならではの強みは何でしょうか?
- 清次氏
- 企業と協業し、優秀な菌や菌床を作っていただいていることが何よりの強みかなと思います。温度が上がらなくても生ごみを分解できる菌は、当社専用の微生物です。25℃前後の低温でも分解が可能なため、生ごみ処理機特有の嫌なにおいも抑えています。
- 亮介氏
- さまざまな食材を分解できるよう、担体の開発にも力を入れています。例えば、野菜や果物など繊維の強いものは、処理機の中でゴロゴロ回ってしまうため、星形のようなギザギザの担体で繊維を傷つけて菌が入りこみやすいようにします。それぞれ異なる能力の菌床をブレンドすることで、微生物が生分解しやすい環境づくりを目指しています。
- 清次氏
- まさに「主役は微生物」。ここが、当社の命といっても過言ではないですね。
−SDGsの推進が叫ばれるいま、御社の製品は引く手数多だと思いますが、何か課題はありますか?
- 亮介氏
- 素材のクオリティーが高すぎる点でしょうか(笑)。今後はステンレスをガルバリウム鋼板に変えるなど、導入しやすい価格帯の機器を開発していきたいと考えています。また、扉をスライド型にする、製氷機のように手前に開けられるようにするなど、バリエーションを増やすことも課題ですね。扉の位置を変えるだけで、設置場所の可能性がぐんと広がると思っています。
- 清次氏
- 今後、狙っていきたいのは船舶市場ですね。これは、3年ほど前に、貨物船を所有する企業から相談を受けたことがきっかけです。貨物船には10人程度の船員が乗船するため、毎日それなりの量の生ごみが発生します。ところが、港に停泊してもそのごみを陸揚げできず、冷蔵庫には入れられず、1週間も経つと腐ってにおいを発してしまう……。この問題を解決するために、現在、製品の下にグリストラップを備えた二段式の20kg機を開発中です。加えて、顆粒状の微生物も開発。液体だと数ヵ月しか保ちませんが、菌を眠らせておけば1年経っても効果を発揮します。船舶への設置が可能になれば、ごみの海洋投棄を減らし、海の豊かさを守ることにもつながっていくでしょう。
−御社の皆さんは、SDGsに対してどのように取り組んでいますか?
- 亮介氏
- お客様の中には、生ごみ処理機とごみ箱の区別がついていらっしゃらない方がいらっしゃいます。メンテナンスに伺うと、処理機の中からビニール袋やプラスチック、食器などが出てくることも……。当社は、微生物の維持管理など定期的に訪問するので、異物混入を報告させていただき、お客様と一緒に改善していく取り組みをしています。
−お客様にも「運ばず、燃やさず、その場で処理」を啓蒙していくんですね。
- 亮介氏
- そうですね。まだまだ啓蒙は必要だと感じていますが、それでも5〜6年前に比べれば、ごみに対する意識はかなり変わってきたように思います。当時は「ごみの分類なんてやっていられない」と言っていた大手のホテルグループなども、いまではシンクピアを導入してくださっています。
- 清次氏
- ホテル日航プリンセス京都さんは「シンクピアを導入したことで従業員のごみに対する意識が変わった」「社員教育になった」とおっしゃっていました。数年前に100kg機を導入し、初年度からごみ処理コストを約110万円削減することに成功。その結果を目の当たりにして、部署ごとにごみを減らす競争が始まり、これが「京都環境賞」受賞という結果に結びつきました。生ごみ処理機1台で、企業の意識を変えることができる。当社は、これからも世の中に必要なものを作り、社会に貢献していきたいと思っています。