偽造防止でのRFIDの活用

2024年5月23日

海外流通トピックス

■業種・業態:物販店・衣料品  
■キーワード:偽造品/EU輸入品/RFIDプラットフォーム

スーパーマーケットの看板イメージ画像

アパレルでの利用が増えているRFID。サプライチェーン全体と商品の管理のためにRFIDテクノロジーが使われています。このテクノロジーにより、企業は生産から物流、販売までで、すべての商品の動きをリアルタイムで把握できるようになりました。

偽造品の増加に悩まされていた

バーチャル空間でのショッピングのイラストイメージ画像

スイスのスポーツメーカーO社も、RFIDを使っていましたが、さらに偽造防止に力を入れるため、2023年12月にオランダのRFID専門会社N社のRFIDプラットフォームを導入することにしました。

O社は、世界で最も急成長しているスポーツウェアブランドの1つであり、偽造品の増加に悩まされていました。

O社は、RFIDタグが取り付けられた商品のすべてのデータを効率的に記録し、単一のソースからリアルタイムで監視できるようにするという目標を設定しました。これにより、自社の商品が無許可の市場で販売されることも防ぐことができます。

EU輸入品の5%が偽造品!?

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N社のRFIDプラットフォームについて説明する前に、偽造品が広がっていることについて考えてみましょう。偽造品は世界中で増加していて、世界経済で流通する偽造品および海賊版の総額は、2022年に1兆5,200億ドルになったという試算もあります。このうち9,910億ドルが国境を越えて取引されていて、ヨーロッパでは越境偽造と海賊行為が多発しています。

世界貿易の2.5%を占めるといわれている模倣品は、EU輸入品に限ると5%と2倍に上ります。ヨーロッパは模倣品業者やグレーマーケット(非公式のルートや不正に販売された本物と偽造品の両方で構成)の標的となっているのです。

グレーマーケットは15%成長しているため、ハイブランドや高級ブランドにとって大きな問題となっています。あるアナリストの推計によると、グレーマーケットは高級時計の約20%を占めていて、業界の利益に大きな打撃を与えていると警鐘を鳴らしています。

多くの場合、商品が偽造されたブランドは評判や市場価値を落とし、食品や医薬品の偽造品などでは生命が危険にさらされることがあります。

米国で最も偽物が出回っているカテゴリーの1位はアパレル、2位は電化製品、3位はスニーカーを含む靴、4位は腕時計、宝飾品、5位はバッグなどの革製品、6位は医薬品、化粧品、7位はDVDなどのメディア、8位はコンピュータと周辺機器、9位はラベル、タグ、10位は自動車部品となっているようです。

生命が危険にさらされているのは、食品や医薬品の偽造品だけではありません。ある調査では、偽造のアパレル、靴、アクセサリーが、米国の消費者の健康と安全を脅かしていることが判明しています。このテストされた偽造品の3分の1以上に、危険なレベルのヒ素、カドミウム、フタル酸エステル、鉛などが含まれていることが判明しました。これらの化学物質はたとえ少量であっても、重大な健康リスクを引き起こす可能性があります。

このような発見は、本物の商品を購入することの重要性を強調しています。商品の信頼性を迅速に検証するツールを消費者に提供することで、ブランドは顧客の信頼と忠誠心を高めることができます。

アパレルでのRFIDの利用が増えているのは、需要の予測、生産の調整、流通の最適化だけではなく、偽造品や盗難の防止の目的もあります。さらに、RFIDの技術がより正確で低コストになり、タグの価格が約4セントに下がるにつれて、RFIDチップを大量に購入できるようになりました。

RFIDを使用して偽造品と戦う

メタバース空間にてショッピングしている女性のイラスト画像

O社の洗練されたデザインで機能的なスニーカーは人気があります。スニーカーやアパレルは、前述したように偽造品が多い商品です。O社は、製造プロセスから消費者が商品を購入するまで、あらゆるアイテムを世界中でシームレスに追跡できるようにしたいと考えています。返品もより迅速に処理できるようにする必要があります。

RFIDタグに保存された固有の製品番号とシリアル番号により、偽造防止が大幅に強化され、個々の製品レベルで出所と真正性を迅速に特定できるようになります。これにより、盗作を認識し、偽造品を流通から排除することが容易になります。

例えば、生産終了時に登録されたものの目的地に到着しなかった商品を特定することができます。サプライチェーンと輸送ネットワーク内のどこで紛失したのかが分かったり、直営店や正規取扱店がない国での販売を困難にしたりすることが可能になります。

RFIDプラットフォームの特徴

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N社のRFIDプラットフォームを導入しているのは、O社だけではありません。スポーツメーカーのドイツのA社やアメリカのU社、アパレルでは日本のU社、スウェーデンのH社も使用しています。ここでは、RFIDプラットフォームについて詳しく見てみましょう。

RFIDプラットフォームは、サプライチェーン全体の在庫を一元的に把握することで、在庫のサイロ化を解消することができます。店舗、配送センター、ECでの在庫の精度が向上して機会損失をすることなくなり、売上の増加につながります。

在庫精度が低いと、店舗に在庫を過剰に抱えるようになります。在庫管理にRFIDを採用するだけで、全体の在庫保有量が大幅に減少します。

研究によると、2%から13%もの大幅な削減ができたというデータがあります。このような在庫削減により、不良在庫が蓄積されるリスクが最小限に抑えられます。

RFIDプラットフォームは、RFID技術のために構築されたSaaSソリューションの統合スイートです。この基盤となるのは、業界標準に基づくEPCISリポジトリ*であり、ERP、POS、WMS、OMS、RFIDテクノロジーなどの既存のITシステム間の統合レイヤーになります。既存のITインフラストラクチャを置き換えたり変更したり、新しいインフラストラクチャを追加したり、現在のシステムを変更したりする必要はありません。

サプライチェーンのネットワーク全体で在庫を表示し、1つの商品も見失うことなく、店舗、配送センター、EC間で商品を移動させます。いつでもどこでも需要と供給を完全に一致させることができます。

この他、RFIDプラットフォームには、次のような特徴もあります。店舗の従業員は商品を受け取って補充するなど忙しく、買い物客は商品を試着したあと、さまざまな場所に置いたり、お金を払わずに物を持っていったりすることもあります。

RFIDプラットフォームはレジや試着室など、店舗の重要なエリアにある全商品を追跡できます。大量の商品を店舗に並べたり、時間外に店舗に出したりする不審な動きを自動的に検出し、盗難の可能性が高いことを警告することができるのです。

さらに、支払いをしないで店舗から出ていく商品を識別すると、アラーム通知アプリを介して店舗の従業員に通知を送信したりすることも可能です。このアプリでは商品、場所、時刻の通知を受け取ることができるのです。

このようにRFIDは、様々なところで着実に活用が進んでいます。

  • EPCISリポジトリ:可視化データの格納場所。企業組織で生成したすべてのEPSCイベントのほか、取り妃から受け取ったEPCISイベント(何をしたかの行動データ)を全て収める。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2024年1月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。