モバイルオーダーが飲食店の必須ツールになる未来
2024年5月23日
流通トピックス
■業種・業態:飲食店
■キーワード:DX推進/予約管理システム/体験価値/グルメサイト
コロナ禍以降、外食業界のDXの動きが盛んです。実際、POSレジやキャッシュレス決済サービス、予約管理システムなど積極的に導入し、経営の効率化を進める飲食店は多くあります。しかし、それが本当の意味でのDXかというと心許ないところもあるように思えます。
DX推進を加速させるモバイルオーダー
そもそもDXは2018年に経済産業省が公表した内容が一つの指針になっており、そこには下記のように記されています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
つまり、DXとは「データとデジタル技術を活用」し、「ビジネスモデルを変革」した上で、「競争上の優位性を確立すること」です。その定義を踏まえると、外食業界で進んでいるDXはデジタル技術の活用ばかりがフォ―カスされ、データの活用まで進んでいないとの声が聞かれます。ただ、そうした流れに終止符を打ちそうなサービスがあります。それがお客様のスマートフォンで料理のオーダーができるモバイルオーダーです。
これから伸びるモバイルオーダーは
現在、人手不足や人件費の高騰といった背景を踏まえて、多くの飲食店で省人化のためにモバイルオーダーの導入が進んでいます。どのサービスにするかの決め手は、使いやすいさや価格などになることが多いようです。
しかし、今後、どのサービスを導入するかを飲食店側が決める状況が変わり、ユーザーの要望で導入サービスを決められる時代がくるように思います。その理由を理解するためには、まずモバイルオーダーのタイプを知る必要があります。
モバイルオーダーは、大きく三つのタイプに分けることができます。
ITベンダーが提供するサービスと包括的なサービス群を抱えるサービス、そしてグルメサイトをベースにしたサービスの三つです。各ベンダーが、それぞれのバックグランドだからこそ生み出せる発想で競い合いし、サービスの成長を実現しています。
その中でも、昨今、存在感を高めているのがグルメサイトをベースにしたサービスです。それはモバイルオーダーが抱えるデメリットと関係があるようです。
モバイルオーダーのデメリット
コロナ禍を契機に一気にモバイルオーダーの活用が盛んになったものの、飲食店からよく聞かれるのが、お客様の属性によって活用に差があることです。
モバイルオーダーを積極的に活用しているのがZ世代を中心とした若者です。この世代は小さな頃からデジタルデバイスに慣れ親しんでいることもあり、スタッフからオーダーを聞かれるよりも、モバイルオーダーの方が気を使わずにオーダーができるので便利だといった声が多く聞こえます。
しかし、一方で、デジタルツールに抵抗感を持つ世代があるのも事実です。そうしたお客様に対応するため、多くの飲食店でスタッフが直接オーダーを伺う方法も残しています。
そもそも現状のモバイルオーダーは、ユーザーである飲食店のお客様に対する負荷が大きいため、本来は店員がやるべきオーダーを、お客側が負担しているという感覚を持つ方も多いようです。
だからこそ、モバイルオーダーを導入することでクレームが起こる可能性もあるという話しを耳にすることがあります。省人化を狙ったモバイルオーダーの活用がうまくいかない理由も、まさにこの点にあるようです。
それではどうすれば、モバイルオーダーの活用がスムーズに進むのでしょうか。そのキーワードになるのは、新しい顧客体験価値の提供に他なりません。ただ、そこで人の力が必要になってしまっては本末転倒で、グルメサイトをベースにしたモバイルオーダーは、そのジレンマを突破する可能性を持っています。
飲食店の体験価値を上げるモバイルオーダー
昨今、モバイルオーダーの機能で注目されている一つが、レコメンド機能です。モバイルオーダーの誕生で、これまでテーブルでしか把握できなかった、どんな料理を、どのくらいオーダーしたかという情報を、個人と特定して掴めるようになりました。そのデータとグルメサイトの情報を連携させることができれば、お薦めの飲食店を食べ物軸で紹介できるようになるのです。
その機能は、飲食店側にとっても、ユーザー側にとってもメリットがあります。まず飲食店側にとっては検索軸が増えることで、よりお店のことを理解してくれるお客様と巡り会える可能性が高まること。価格ではなく、「この店の、この料理を食べたい」という理由で来店するお客が増えるので、自然と体験価値も高めることができます。
また、既存のグルメサイトでは料理で見つけてもらうことは難しいのですが、それが容易になることで料理に強みを持つ飲食店の存在感が高まり、それがブランディングにつながり、愚直に取り込む飲食店への評価が高まるなど、外食業界全体にとってもよい影響を期待できます。
お客様側にとってもメリットがあります。そもそも現在、インスタグラムをはじめとしたSNSに投稿できる「映えるメニュー」に人気が集まっており、料理を軸とした店探しに対するニーズは高まっています。しかし、インスタグラムやTikTokで探すと、誰もが行っている店になってしまいます。話題の店だからという理由で行ってみたものの、自分には合わなかったということもあるはずです。
それが自身のオーダーの履歴からレコンメンドされると、好みの飲食店である可能性が高くなります。そうした体験が積み重なると、グルメサイトと連携したモバイルオーダー評価が高まっていくかもしれません。
そして、料理軸での店選びが増えると、データを生かした商品開発も自然と進みます。それは、まさにDXの推進に他なりません。まだまだ途上にありますが、モバイルオーダーの進化への期待は大きいようです。
(文)飲食店経営 副編集長 三輪 大輔
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2024年1月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

