物流2024年問題における小売業とメーカーの対応

2024年5月23日

流通トピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:運転手不足/時間外労働/販管費/長距離輸送

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「物流2024年問題」とは、働き方改革関連法の施行により2024年4月1日から自動車運転業務の時間外労働の上限規制等が適用されることで発生する問題の総称のことを指します。
働き方改革関連法は、「年次有給休暇の時季指定」「時間外労働の上限制限」「同一労働同一賃」の3つをポイントとして、大企業では2019年4月1日から、中小企業では2020年4月1日から施行されました。

「物流2024年問題」の概要

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「時間外労働の上限」については、原則として月45時間、年360時間に制限され、労使間で特別条項付き36協定を締結した場合でも、時間外労働は年720時間に制限されました。ただし、自動車運転業務や建設業、医師などの業務については、働き方改革関連法が目指す時間外労働の上限規制に対してあまりに実情がかけ離れているため、時間外労働の上限規制適用が5年間、つまり2024年3月31日まで猶予されました。

これまでも、トラック運転者の労働時間については、厚生労働省告示として「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」を定めていました。改善基準告示は法律ではないため違反した場合の罰則はありませんが、改善基準告示に違反した場合、国土交通省により行政処分が下される可能性が生じます。行政処分の内容は、一定期間の車両の使用の制限の他、重いものでは、一定期間の事業停止などがあります。

この改善基準告示についても、時間外労働の上限規制の適用とともに見直され、2024年4月1日から新たなルールが適用されることになります(図表1)。

<図表1>トラック運転者の改善基準告示(概要を抜粋)

出展: 厚生労働省「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」より作成
  改正前 改正後
1年の拘束時間
(年換算)
3,516時間 原則: 3,300時間
最大: 3,400時間
1ヶ月の拘束時間
(月換算)
原則:293時間
最大:320時間
原則: 284時間
最大: 310時間
(1年の拘束時間が3,400時間を超えない範囲で年6回まで)
1日の休息時間 継続8時間 継続11時間を基本とし、9時間が下限

運転手不足に拍車も?

物流事業は典型的な労働集約型産業のため、時間外労働の上限等の適用によりトラック運転者の労働時間を減らすのと比例して、売上や利益も減少します。また、トラック運転者については、時間外手当の減少に加えて会社の売上減少により基本給も減少する恐れがあるため、他の業界に転職する可能性が高まります。

さらに、トラック運転手の高齢化が、運転手不足に拍車をかける懸念があります。ある調査によれば、「不足する輸送能力」について、輸送条件や運転者の労働条件が現状と変わらないとすると2024年度▲14.2%、2030年度には▲34.1%と試算しています。荷主である小売業とメーカーにとって、商品であれば「運べなくなる」、包装資材や原材料であれば「作れなくなる」という状況に陥るということになります。

小売業への影響

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「物流2024年問題」は、小売業とメーカーにとって「運賃の値上げによる販管費の増加」、「長距離輸送の困難化」、という2つの影響を及ぼします。

「販管費の増加」
輸送能力が不足することで、物流会社と荷主である小売業・メーカーのパワーバランスが変化し、物流会社の立場がこれまでよりも強くなることが想定されます。

特に、日用品と異なり日を追うごとに品質が劣化し、中には破損しやすいものも多い食料品の配送は、「荷主や物流施設の都合によって運転者側が待機している荷待ち時間が長い」、「荷物の積み込みや積み下ろしを手作業で行う手荷役が多い」、「小ロット多頻度輸送が多い」、「受注から納入までのリードタイムが短い」などの理由から、手間や時間がかかります。

そのため、食料品を扱う小売業とメーカーは、運賃を値上げしないと物流会社から敬遠されることになりかねず、物流費の上昇により販管費が増加し、利益を圧迫することとなります。

「長距離輸送の困難化」
改善基準告示には、連続運転時間について「4時間を超えないこと。30分以上の休憩を確保(1回概ね10分以上で分轄可)」と記載されていますが、この規定を厳守すると輸送日数が長くかかることになります。特に、賞味期限の短い野菜や果物、水産品などの生鮮品は配送元が全国に点在しており、長距離輸送で配送される割合が比較的高くなっています。

時間外労働の上限規制や改善基準告示を物流会社やトラック運転者が遵守することで、生鮮品を販売する小売業と生鮮品を原材料として商品を生産するメーカーにとって、店頭での品揃えや商品の価格に大きな影響を与えることが予想されます。

動き出した小売業界

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小売業では、「物流2024年問題」への対応のため、首都圏のスーパーマーケット4社が2023年3月に「首都圏SM物流研究会」を発足させ、同年10月には10社に拡大しました。

この研究会では、「持続可能な食品物流構築に向けた取組み」として、

  • 「加工食品定番商品の発注時間見直し(=メーカー・卸売業間のリードタイムを1日延長)」
  • 「特売品・新商品の発注・納品リードタイムの確保(=各社の専用センターにおいて6営業日以上の発注・納品リードタイムを確保)」
  • 「賞味期間の3分の1以内で小売店舗に納品する慣例である3分の1ルールの緩和(=2分の1ルールの採用)」
  • 「流通業界におけるEDI標準仕様となる流通BMSによる業務効率化」

の4項目について取り組んでいます。

九州や北海道など各地でも同様の研究会が立ち上がっており、物流について今後さらに企業間の連携が増えていくものと思われます。

メーカーの対応

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メーカーの物流改革はすでに始まっています。2023年12月に大手畜産加工品(ハム・ソーセージ類)メーカー4社が、納品先指定場所への棚入れ、商品への値付け、店頭での商品陳列といった付帯業務の削減や納品リードタイムの見直しを盛り込んだ共同宣言を発表しました。

さらに、「納品リードタイム1日」や「特売品の当日受発注」、「365日納品」、「ピース単位納品」なども常態化していますが、365日納品、ピース納品の見直し、納品リードタイムの2日以上への延長、特売品などの計画発注化といった改善を進めるため、小売側と協議を進めていきます。

今後は、さらに小売業界、物流業界そしてメーカーが協力して、「食品企業物流プラットフォームの構築」し、トラック運転者不足や物流費の上昇、CO2排出量削減をはじめとする環境保全への対応など物流問題の解決を目指した動きが加速することは間違いありません。

(文)田中イノベーション経営研究所
中小企業診断士 田中勇司
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2024年1月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。