ラーメン業界から外食業界のDXの未来が見える?
2024年5月23日
国内流通トピックス
■業種・業態:飲食店
■キーワード:1000円の壁/人手不足/テクノロジー/DX推進/配膳ロボット
ラーメン店はテクノロジーとは縁遠く、体力勝負できつい仕事だというイメージを持っている方も多いでしょう。しかし、現在、そうしたイメージが過去のものになろうとしています。確かに体力が必要な仕事ではありますが、その一方で急速にテクノロジーの活用が進み、大きな発展を遂げようとしているのです。
ラーメン各社の取り組みを見ていると、もはやラーメン業界は外食業界の中でもテクノロジーの活用が盛んだといっても過言ではない状況となっています。そこで今回は、ラーメン業界のテクノロジーの活用を通して、その最前線をレポートしていきます。
ラーメン業界に立ちはだかる壁
そもそもラーメン業界では、なぜテクノロジーの活用が盛んなのでしょうか。そこには「1000円の壁」と「人手不足」の二つの問題があります。
ラーメン業界の1000円の壁は、ここ最近、大きく取り上げられることの多いトピックスです。その背景には原材料費の高騰があります。原材料費の高騰を受けて、多くの飲食店で値上げが行われました。ラーメン業界でももちろん値上げは行われています。しかし、1000円の壁を超えるわけにはいかず、そこまで価格への転嫁は進んでいません。
実際、その影響を受けて、ラーメン業界の倒産件数は増加しています。とある大手リサーチ会社の調査でもラーメン店の倒産、休廃業・解散は15年間で最多を記録しました。特に窮地に立たされているのが、事業規模の小さなラーメン店です。もともとラーメン業界は、脱サラで始める方も多く、零細規模の個人店が多くの割合を占めています。しかし、原材料費の高騰と、1000円の壁は、そうした規模の小さな事業者ほど大きなダメージを与えています。
それを裏付けているのが、大手ラーメンチェーンの好調さです。面白いことにラーメン業界は、倒産件数の増加とは反対に、上場を果たしている大手ラーメンチェーンの多くが、過去最高の売り上げを叩き出しています。そういった企業が大幅な値上げを行ったかというと、そうではありません。1000円の壁を超えない範囲の中で値上げを行い、価格転嫁できない分については、コストの見直しとともに生産性の向上で吸収しようとしています。
そこで役立つのがテクノロジーの活用です。現に、とある大手ラーメンチェーンの決算説明会でも、売上は好調な理由はDX推進の成果だと言及されています。
今後、ラーメン業界で導入が当たり前になりそうなのがAIによる自動発注システムです。AIによる自動発注システムでは、過去の発注実績や在庫データなどをAIが学習し、最適な発注数を計算した上で、自動で発注を行ってくれます。これにより人的なミスによる品切れや廃棄ロスが減らせるのと同時に、発注業務に関する時間を削減することが可能です。
つまり原価コントロールがしやくなるということです。まさに数円単位のコストの見直しに迫られているラーメン業界に必須のシステムだといえるでしょう。
AIによる自動発注には、副次的な効果もあります。これまで多くのラーメン店では店長をはじめとした社員が発注業務を行っていました。それがアルバイトでもできるようになるため、社員たちはマネジメントに集中でき、結果として顧客体験価値の向上につながる取り組みに注力できるようになります。
まだコロナ禍前の市場規模に戻り切らない中、いかにお店を存続させるかを考えたとき、常連やリピータの存在は重要です。顧客体験価値を上げることで、そうしたお店を支えてくれる存在もつくりやすくなるでしょう。
不人気業界であるが故の進化
ラーメン業界は、外食業界の中でも人手不足が深刻です。売り手市場の中、わざわざきつい仕事を選ぶ必要はありません。また、安定思考が強くなり、独立をしたいからラーメン店で修行する人も以前に比べて少なくなるなど、人手の確保に苦戦が続いています。成長の余力があるのにもかかわらず、人材がいないためスピード感をもった展開ができずにいるラーメン店もあるほどです。
そこで人手不足をカバーするため、ロードサイド店を中心に、配膳ロボットを導入しているラーメン店が増えています。ロードサイド店は、駅前や繁華街立地と違って、座席数が多く、客層もファミリーが中心です。そのためオーダーの数が多く、ラインアップも豊富なため、人がいないとすぐにオペレーションが回らなくなってしまいます。
そうした背景もあり、広い通路を活用して配膳ロボットを積極的に活用しています。ただ、ラーメンのスープが溢れてしまうため、活用シーンはバッシングがほとんどです。最近になって、ラーメン店とメーカーがタッグを組んで、スープが溢れないように調整をしたロボットも登場しているので、今後、活躍の場はさらに広がっていくでしょう。
しかし、人手不足の文脈で、配膳ロボットと共にインパクトが大きいのが、動画の教育システムです。ラーメン店では、人手不足に対応するため、昔から外国人材の活用が積極的に行ってきました。しかし、国籍が多様で、意思疎通が難しくなっていたのも事実です。
日本語があまり得意ではない外国人も多く、微妙なニュアンスを伝えられないが故に、商品やサービスの品質に問題が生じるケースもあるほどでした。
そういった課題を解決するために活躍しているのが、動画の教育システムです。動画だと視覚的に理解をしてもらえて、何度も見返すことができます。それによって、言葉では伝えきれないニュアンスも伝えられるようになり、外国人材のスムーズな戦力化を実現しています。 また、動画の教育システムは日本人にとってもメリットが大きいのです。特にZ世代を中心とした若者は、幼い頃からデジタルデバイスに親しんできており、活字よりも動画で情報を収集する傾向があります。そこで動画の教育システムを導入する際、マニュアルの整備も行い、オペレーションの標準化を果たすラーメン店も出てきています。
結果として、それがナレッジマネジメントの実現につながり、社内で成功ノウハウの共有がスムーズになった例もあります。つまり、人材の力を最大限に引き出せているということです。
今後、労働力人口の減少が続き、人手不足はさらに深刻化します。その中で、外国人の活用や、既存のメンバーの底上げが必須になっていくでしょう。その意味で、ラーメン業界は一歩も二歩もリードしているともいえるでしょう。
そもそもラーメン業界は、世界で勝負できる業界です。厳しい競争環境を勝ち抜いた企業の中から、日本を代表するラーメンチェーンが新たに出てきても不思議ではありません。
ラーメン業界の取り組みから、学べる点は非常に多いと思います。
(文)飲食店経営 副編集長 三輪 大輔
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2024年2月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

