ネットスーパーの現状と今後の展望

2024年5月23日

国内流通トピックス

■業種・業態:スーパー  
■キーワード:変動費ビジネス/VR/AR/商品体験/購買支援

商品の配送のイメージ画像

成長続くネットスーパー。しかし課題もあるようです。配送費など変動費は売れるほど大きくなり、固定費型の店舗とは大きな違いがあります。また、時短ニーズの高い30歳代、40歳台の女性の利用率は高いものの、人口の多い60歳代、70歳代の利用率はさほど上がっていません。今後はコスト面、マーケティング面でのさらなる進化が求められそうです。

ネットスーパーの現状

小さいショッピングカートがPCの載っているのイメージ画像

食品・日用品などをインターネットで注文して自宅に配送してもらうネットスーパーの需要が高まっています。日本では、S社が2000年に始めたネットスーパーが先駆けとされていますが、インターネット回線の高速化やスマートフォンの普及などにともない、2000年代は大手スーパーを中心に市場参入が続きました。

ただし、従来の店舗型スーパーは地代や設備費などの「固定費」が経費の多くを占める「固定費ビジネス」のため客数の増加により黒字化が可能でしたが、ネットスーパーは客数の増加に合わせて配送費やピッキングコストなどの変動費が増える「変動費ビジネス」という大きな違いがあります。

そのため、ネットスーパーでは、やみくもに客数を増やしても黒字化が困難どころか、逆に赤字幅が拡大してしまうという事態に陥ってしまう可能性もあります。2010年代は、大手EC事業者が食品を積極的に取り扱い始めたことで競争が激化し、大手物流事業者の配送費値上げも相まって黒字化がさらに困難となり、撤退する企業も相次ぎました。

しかし、2020年からの新型コロナウイルス感染拡大により日常の買い物を含めて外出が自粛されたことで、ネットスーパーの需要が急増しました某調査会社によると、2022年のネットスーパー市場は大手スーパーがサービス対応店舗を拡充したことでエリアカバー率が向上するとともに、取扱品目数が増加したことで利便性向上と単価アップにつながり、その結果2,770億円(前年比12.1%増)となったとレポートしています。

そして、2023年も大手スーパーを中心に配送網整備と自動化・省人化への積極投資によりサービスエリアが拡大し、3,128億円(前年比12.9%増)となる見込みです。さらに、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類に移行して外出機会が増加した2024年も約3,500億円と前年比2桁増の予測となっています。

しかし一方で、(一社)全国スーパーマーケット協会の2024年版「スーパーマーケット白書」によると、ネットスーパーの実施率は2023年の業界推計値で20.7%(前年差3.8%増)と着実に増加しているものの、総売上高に占めるネットスーパー売上高の割合は同じ2023年の業界推計値で1.5%(前年差0.1%増)と非常に少ない状況です。

ネットスーパーの実施率/総売上高に占めるネットスーパー売上高の割合

ネットスーパーの実施率と売上高の割合のグラフの画像
出典:(一社)全国スーパーマーケット協会 2024年版「スーパーマーケット白書」

ネットスーパーの今後の展望

スーパーにて商品を選定しているイメージ画像

今後のネットスーパーの展望について、現状における利用者側の視点から整理していきます。(一社)全国スーパーマーケット協会の2024年版「スーパーマーケット白書」によると、ネットスーパーについて「よく利用している」人は2割程度となっています。

ネットスーパーの利用率(n=2,039)

ネットスーパーの利用率のイメージ画像
出典:(一社)全国スーパーマーケット協会 2024年版「スーパーマーケット白書」

そして、ネットスーパーを「よく利用している」人の割合を性年代別に掘り下げると、男性は各年代とも利用率に大きな差は見られないものの、女性は30代が28.2%と3割近く占める一方で60代・70代以上がそれぞれ14.9%・15.5%と大きな差が生じています。

女性の社会進出により若い世代ほど専業主婦は減少しており、共働き・子育て世帯の多い30代女性が、「時間や場所を選ばす注文できる」、「指定した日の配送時間帯に届けてくれる」、「重い商品やかさばる商品も届けてくれる」、「総額を確認しながら買い物ができる」といったネットスーパーによる時間短縮や節約のメリットを享受している様子が伺えます。

一方、60代以上の女性についても、本来であれば身体機能の衰えから買い物の行き来や商品の持ち帰りに負担を感じるケースが多くなり、利用率が高くても不思議ではありません。しかし、「実物を見ることができない」、「注文をするためのデシタル機器(パソコン、スマートフォン、タブレットなど)が使えない」、「配送料が高い」などの理由で、実際にはネットスーパーを敬遠していることが予想されます。

しかし、関東SMにおけるスーパーの利用客に占める人数構成比は、60代以上の女性の17.7%と30代女性の7.3%の約2.5倍あります。今後、高齢化が進展することもあり、ネットスーパーがさらに利用されるようになるには、60代以上の女性へのアプローチが必須と言えるでしょう。

電話やFAXによる受注や月額制使い放題サービス、注文サイトの文字サイズ拡大・文字色変更など高齢者向けのアプローチを充実させるほか、最新技術の導入により新たなサービスを提供することも重要となるでしょう。例えば、AIを搭載した音声対話型のオンラインショッピングシステムの導入により、「会話をしながら買い物をしたい」というニーズに応えることができます。

また、VR(Virtual Reality ※仮想現実)やAR(Augmented Reality ※拡張現実)の技術を用いた商品体験や購買支援などにより、「実際に商品を目で見て確認したい」というニーズに応えることもできるでしょう。今後のネットスーパーの利用率向上には、ネットスーパーのさらなるDX化がカギとなりそうです。

(文)田中イノベーション経営研究所
中小企業診断士 田中勇司
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2024年2月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。