新フォーマット「フード&ドラッグ」の本質

2024年5月23日

国内流通トピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:来店頻度/購入頻度/粗利ミックス/調剤薬局/医食同源

ドラッグストアのイラストイメージ画像

新フォーマット「フード&ドラッグ」が急速に拡大しています。ドラッグストアが徐々に「フード」の品揃えを増やし、「フード&ドラッグ」を鮮明にした店づくりにシフトしているのです。住宅街や郊外に立地するドラッグストアは、さながら日用品を多く扱うスーパーマーケットのようです。中には、青果や精肉、鮮魚といった生鮮3品を扱うチェーンも現れていますが、こうした展開はドラッグストアにとって必然であったようです。

同じお客の来店頻度を高める

若い男性が買い物をしているイラストイメージ画像

人口が減少し、高齢化が進む日本。その一方で店数は増え続けています。近年のコンビニにしても、頭打ちの感があるものの2,000人に1店舗の割合で全国津々浦々に店舗網を築き、それより少し広い商圏を持つ既存のスーパーマーケットも過当競争に入っています。

コンビニもスーパーマーケットも、決して楽とはいえない商圏に、今度はドラッグストアが参入して、少ない人口の中で、お客様を奪い合っています。

その店舗が密集した、すなわち狭小化した商圏で、ただでさえ数の少ないお客様を自店に呼び寄せるためには、1人のお客様の「来店頻度」を高めるしかありません。客数を増やそうと考えたとき、商圏内で新規のお客様は増えていかないからです。

そこで、同じ1人のお客様の利用を月1回から週1回に、週1回を週2~3回へと足しげく通ってもらう必要があります。

「客数」のアップは、新しいお客様を増やすのではなく、同じお客様の「来店頻度」の向上により実現させます。それを狭小化する商圏で、売上に結びつけていく必要があるのです。

ドラッグストアを「毎日の買物」に

年配の男性が買い物をしているイラストイメージ画像

来店頻度のアップを狙ってドラッグストアがとった作戦が食品強化です。本業はドラッグストアですが、もともと消費者にとって購買頻度の高い「食品」を扱うことで来店頻度を高める、すなわち客数を増やす店づくりに注力しています。

その際、日用雑貨や化粧品、OTC医薬品をついで買いしてもらえれば、客単価のアップも大いに期待できます。
逆に、化粧品の購入が主たる目的のお客に、冷凍食品のハンバーグを、ついで買いしてもらえれば、客単価も上乗せできます。

食品と非食品とでは、圧倒的に食品の方が購買頻度は高くなります。食品をドラッグストアのフォーマットに取り込むことで、ドラッグストアを「毎日の買物」に近づけていこうとしているのです。

ドラッグストアがチェーン化を始めた初期(1980年代)のころから、菓子や調味料など加工食品を安売りする店はありました。その多くは、医薬品を目的に来店したお客にスポット的に食品の購入を促す、あるいは加工食品の一部商品をセール価格で訴求して集客を試みていたわけです。

一方で、近年の「フード&ドラッグ」は、食品スーパーマーケットと同様に、普段の食生活を支えるフォーマットとして認知されています。食品の売上構成比が5割、6割のチェーンも出てきています。もはや食品が「ついで買い」の領域とはいえなくなっているのです。

「粗利ミックス」で価格を下げる

家族が買い物をしているイラストイメージ画像

次に、スーパーマーケットやコンビニではなく、ドラッグストアに足を向けたくなる理由をつくらなくてはなりません。

その一つが「価格」です。誰もが価格を認知している商品、敏感に反応する商品を仕入れて大幅に価格を引き下げています。日用品であれば、衣料用洗剤や消臭剤、トイレットペーパー、食品・飲料であれば、食用油やカップ麺、牛乳、納豆、マヨネーズ、ビール、サワー類などを安売りすることで集客力のアップを図るのです。

なぜ安くできるのかは、よく言われるように「粗利ミックス」にあります。
食品を扱う、あるドラッグストア・チェーンを見ると食品の粗利率は20%にも満たないのですが、対して医薬品は40%以上、化粧品も30数%もあります。つまりトータルすると30%以上の粗利率を確保していることになります。

他方、一般的なスーパーマーケットは、粗利率が25%前後といわれています。ドラッグストアが主力とする加工食品については、こちらも20%前後なので、部門全体では大きな差はついていません。

ただし、トータルの粗利率でみると、ドラッグストアに余力があり、かつ食品の売上構成比が低いので、大胆な安売りで訴求することができるのです。つまり他に儲け頭の医薬品や化粧品があるので、食品の価格を販促手段として低く設定できということです。

調剤薬局を加えて差別化

女性の薬剤師のイラストイメージ画像

ここまでは、ドラッグストアがスーパーマーケットやコンビニに対抗する一般的な競争対策です。次に「フード&ドラッグ」同士の戦いに入っていくと、さらなる「フード」の強化が求められます。

一つ目は生鮮食品の強化です。青果でいえば、カレーライスや野菜炒め用といった基本商材だけでなく、季節の野菜や香草類、便利なカット野菜といったスーパーマーケットと同様に品揃えを厚くしています。

二つ目はアウトパックの活用です。生鮮食品の仕入れから加工・配送まで一括で行うプロセスセンターを活用しているドラッグストアチェーンもあります。これにより店内加工しなくても、生鮮食品をローコストで、幅広く扱うことができるのです。

三つ目は調剤薬局の併設です。「医薬分業」が進む中で「面分業」の促進も不可欠な要素になります。不特定多数の病院からの処方箋を受け付ける運営形態を面分業と呼び、患者は通院する全ての病院から出される処方箋を自宅近くの1カ所の薬局でもらえれば便利です。

それが、食品も扱うドラッグストアであれば、薬を取りに行き夕食用の食材も一緒に買って持ち帰ることができます。病院の近隣にある、いわゆる門前薬局に出向くよりも、日常の暮らしはさらに便利になるでしょう。

日本では高齢化が進み、2035年には65歳以上が3人に1人になります。必然的に調剤薬局を利用する患者の数は増えていきます。フード&ドラッグ、そしてさらに調剤薬局がプラスされれば、ワンストップで店を利用するお客の比率が高まっていくと予想されます。

「医食同源」など軸を定める

若い女性が食事をしているイラストイメージ画像

そこで考えなくてはならないのは、上記の「フード+ドラッグ+調剤」を新フォーマットとして成長させるために、スーパーマーケットと既存のドラッグストア、それに調剤薬局の3つを「合体」させるだけで済むのかといった課題も出てきます。

これからの将来を見据えていけば、軸となるコンセプトが求められるはずです。解答は1つではありませんが、例えば「ドラッグストア」の軸を強めれば「医食同源」も一つのコンセプトになるはずです。

「医食同源」とは、病気の治療も、正しい食事も、身体の調子を整え、健康を保つためには「源」は同じであるとする考え方です。
スーパーマーケットの多くも、「健康」を自社ブランドに用いていますが、医食同源までは踏み込めないのではないでしょうか。

調剤薬局には管理栄養士の需要もあり、薬剤師と連携して患者の相談を受けているところもあります。フード&ドラッグでは食品を多く扱うので、管理栄養士が具体的な指導も行えますし、「医食同源」の売場づくりに積極的に関与していけば、コンセプトの強化に貢献できるでしょう。

例えば、睡眠の質を高める各種乳酸菌飲料、ストレスを低減するチョコレート、マヨネーズでも「内臓脂肪を減らす」「血圧が高めの方に」「コレステロールを下げる」といった機能別の商品も取り入れながら、推奨することも可能です。

人口も世帯数も減少する中で、5年後、10年後、既存のスーパーマーケットの撤退が進めば、買物が困難な生活者が増えていきます。とすれば、スーパーマーケットに代わって、調剤や医薬品、化粧品、生鮮食品、日用品の全てをワンストップで扱う便利な店として「フード&ドラッグ」が取って代わる可能性も出てくるかもしれません。

(文)販売革新 編集委員 梅澤聡
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2024年2月時点のものです。
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