小売店で広がるサンプリング・キオスク端末

2024年6月24日

海外流通トピックス

■業種・業態:小売店  
■キーワード:店内サンプリング/デジタルスクリーン/マーチャンダイジン

スマホアプリで商品情報を視聴しているイメージ画像

米国で次々と登場しているスタンドアロン型のサンプリング・キオスク端末。多くの大手スーパーに設置され、食品や日用品のサンプルを配布しています。ただ単にサンプルを配布するわけではありません。サンプルを受け取る前にスマホアプリで商品情報を視聴してもらったりして、商品のPRに一役買っています。また、広告やサンプルが購入に繋がったか、リピート購入されたかなどマーケティングに活用されています。

スーパーに設置して食品や日用品のサンプルを配る

グミやキャンディなどのサンプル食品のイメージ画像

米国でスタンドアロンのサンプリング・キオスク端末Fが登場したのは2015年です。現在、このキオスク端末は提携している大手スーパー1400店舗以上に設置され、グミやキャンディ、ビタミン剤など食品、加えて柔軟剤、洗剤、香水などの日用品のサンプルを配布しています。

このキオスク端末は、日本の自動販売機のような大きさで、そのうち4分の1はデジタルスクリーンが付いたサンプルの受け取りエリアになっていて、それ以外は商品棚になっています。サンプルを配っている商品が並んでいて、購入もできるというわけです。

この利用の仕方は、デジタルスクリーンの下に、会員カードかスマートフォンアプリのQRコードをかざすと、10~15秒の商品情報が流れ、それが終わるとサンプルが出てくる仕組みです。

キオスク端末でもらえるサンプル数は1週間に1個のみで、基本的には1週間でサンプルが入れ替わるようになっています。お客様がたくさん来店する週末だけ配布する店もあるようです。Fのアプリでは、近くの店舗や配布しているサンプルの情報も見ることができます。

顧客情報を登録してアプリをダウンロードするため、広告主は顔の見える消費者に無料サンプルを配布でき、彼らが試した特定の商品を購入したかどうか、いつ購入したかまで特定できます。消費者にとっては、簡単に楽しく新たな商品を試すことができると来店する楽しみがあるようです。

Fでサンプルキャンペーンを行った商品は、平均50%以上売上が増加し、購入者の70%は新規購入者だということです。そして、新規購入者のうち20%以上が繰り返し購入しているといいます。

この技術は、店内でのマーチャンダイジンからデータ収集、商品の教育、サンプリングを同じ場所で行うことができるという点でユニークです。

コロナ禍後、店内サンプリングが復活

軟剤や洗剤などの日用品サンプルのイメージ画像

最近では、デジタル広告のコストが高くなっているため、コロナ禍後は大手スーパーマーケットの店内サンプリングが復活しているようです。2023年5月には米国で4番目に大きい協同組合Wの95店舗でもFがスタートしました。

Wのマーケティングおよびウェルネス戦略担当ディレクターは、「買い物客の行動を把握することで、ブランドには透明性の高い測定と小売メディアの機会が提供され、さらに新たに参入したり、リニューアルしたりしたブランドと関わることができます」と述べています。

多くのスーパーは、eコマースプラットフォーム上で広告や検索機能を提供していますが、ブランドキャンペーンに店内デジタルメディアを提供しているのはわずか9%です。

販売の大部分が店内で行われているにもかかわらず、店内デジタルメディア化が遅れているという実情があるのです。

温かいものから冷たいものまで試飲・試食するマシン

ホットティーなどの飲料のサンプルのイメージ画像

2023年6月には、新たなサンプリング・キオスク端末Uが誕生しました。カナダのモントリオールに本拠を置く会社が開発したのは、食品や飲料のサンプルをその場で食べたり、飲んだりして、気に入れば購入するというキオスク端末です。こちらは毎週サンプルを変えるというよりも、同じものを提供するスタイルです。

現在、80以上の食品や飲料メーカーが参加して、カナダのケベッケ州とオンタリオ州の高級スーパーに設置され、全米への拡大を目指しています。

Uはコーヒーのカップ式自動販売機のような感じで、デジタルスクリーンが真ん中にあり、上が商品棚、下がサンプルを受け取るエリアになっています。

消費者はデジタルスクリーンをクリックするだけで、温度管理された機械からサンプルを受け取ります。気に入った場合は、フルサイズの商品を商品棚から取り出せば購入できます。画面ではフィードバックも求められるため、消費者は賛成、反対、または中立に投票して、賛成した人は商品と一緒の写真を撮るようにすすめられます。Uではスマートフォンや会員カードなど必要ないため、この写真が顧客情報になっていると想像します。

この写真は日本人だと恥ずかしがって行わない人が多そうですが、動画SNSでは、カナダ人は笑顔で写真を撮っている映像を見ることができます。

ところで、Uの特徴は温度管理ができるということ。例えば、商品がティバッグの紅茶だとします。消費者がデジタルスクリーンをクリックすると、ホットティーが出てきて、その場で試飲して気に入れば「賛成」をタッチして、商品を取り出して、商品と一緒の写真を撮り、気に入らなければ「反対」をタッチするという流れになります。

加えて、人が行う試食では、勧めるのがうまい人もいれば、下手な人もいて、品質に違いがありますが、Uはデジタルスクリーンで毎回同じビデオが配信するので、品質が一定です。さらに、サンプルは24時間年中無休、または店舗が開いているときは、いつでも提供できます。

Uの目標としては、2023年の夏の半ばまでにモントリオール地域に23台、2024年にはモントリオールとケベックで100~150台のマシンを配備。今後数年間でカナダ全土に目を向け、1500~2000台に拡大する予定です。

加えて、大きな目標が冷凍サンプルに拡大すること。アイスクリームやアイスキャンディーにもチャレンジする考えです。同時に先に説明した温かい紅茶やコーヒー、手羽先など、温かいものを試してみたいとUの創設者は語ります。

そして、この2つの分野をカバーすれば、店内でのサンプリングを100%置き換えることができると強調します。

成功している飲食店と戸惑う飲食店への提案

化粧品、スキンケア、ヘアケアなどのサンプルを使用しているイメージ画像

2023年10月からは、食品だけではなく、美容でもサンプリング・キオスク端末の導入が始まりました。高級化粧品から低価格化粧品、バス&ボディ製品、ネイルケアなどを扱う美容専門店チェーンで、全米に約1400店舗を持つUのうち、10都市の一部で採用されたのです。

サンプリング・キオスク端末は、女性2人で設立されたSという心身の健康と、健全で充実した社会とのつながりをもつ「ウェルネス」関連の会社のものです。先の2つのサンプリング・キオスク端末と比べると、コンパクトで洗練されています。

サンプルの配布だけではなく、広告プラットフォームという2つの機能があるためです。デジタルスクリーンを使って、サンプリングの認知度、製品の発売、ブランドのメッセージングを行います。

サンプルは化粧品、スキンケア、ヘアケアなど、さまざまなトラベルサイズの商品を毎週1つ受け取ることができます。Uでは600ものブランドを扱っていて、CMO(最高マーケティング責任者)は「美容では、サンプリングが重要です。そして顧客が試すと、フルサイズの商品を購入する可能性が高くなります」といいます。

消費者は店内での楽しい体験ができ、Uは貴重な顧客データを取得できるというわけです。顧客がどの製品、ブランド、カテゴリに興味を持っているかを把握できます。

Sの使い方は、Uの会員ならば、電話番号または電子メールを入力すると、サンプルを入手できます。非会員はサインアップして、Sでアカウントを作成すると、すぐに受け取ることができます。

なお、サンプリング・キオスク端末のSは、ロックフェラーセンターやフェンウェイパークなど、ニューヨーク市とボストンの各地で100台以上が稼働し、ナプキンなど生理ケアを無料で利用できるようにしています。Uの店舗でも、この端末も採用されています。

そして、小売店にSの端末があると、女性の7割以上、男性の半数以上が、好意的になるというデータがあるそうです。

Sの広報担当者は、「Sで扱うサンプルの大半は、女性がよく利用しているブランドか、少数派のブランドです。女性の4人に3人は、女性をサポートしているブランドの商品に高額のお金を払い、そうでない企業からは離れていくでしょう」といっています。

Sは社会的意義を背負っているといえます。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2024年4月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。