「無人店舗」の出店立地が拡大
存在感を増す買物困難者への対応

2024年6月24日

国内流通トピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:ウォークスルー店舗/専用アプリ/AI/販売チャネル/路面店

無人店舗、省人化店舗のイメージ画像

人手不足が深刻化する中、無人店舗、省人化店舗が注目を集めています。AIやセンシング技術、セルフ決済技術など駆使し、参入企業も増えると同時に試験的な運用を始めたり、実証実験も多くなりました。その一方で、「どんな消費者が求めているのか」「無人店舗に適する立地はどこか」「どんな条件があれば店数は増えるのか」といった議論はまだ深まっているとはいえません。
そこで無人店舗を展開するプレイヤーや、その最新動向から現状を整理したいと思います。

小売業の未来を感じさせる先進技術

小売業の未来を感じさせる先進技術のイメージ画像

「無人店舗」が日本で本格稼働してから4年になります。日本中が新型コロナウイルスの感染拡大おびえる中、T社の無人店舗が、2020年3月23日、JR山手線の新駅「高輪ゲートウェイ駅」(東京・港区)構内にオープンしています。

約18坪の売場に、おにぎり、弁当、菓子、飲料などコンビニアイテム600種類を用意した、少し小さめのコンビニです。

天井に設置したセンサーカメラが入店客を捕捉、商品棚の重量センサーで手に取った商品をリアルタイムで認識、決済エリアにお客様が立つと、タッチパネルに商品と購入金額を表示する画期的なシステムが搭載されています。

この頃は、既に米国で稼働していた無人店舗と同様の、最新デジタル技術にばかり注目が集まりました。センサーカメラと重量センサーを使って、入店客と商品を紐づける、誰も見たことのない先進技術が、一般客だけでなく、小売業に携わる人たちに対して未来を感じさせたからです。

さらに、同時期に唱えられた「新しい生活様式」により、人と人との会話や接触の自粛傾向が強まります。無人であることが、感染防止にもつながり、新しい店舗の在り方として好感されたのです。この頃から、新たなプレイヤーも登場し無人店舗を展開していきます。

課題はウォークスルー店舗の専用アプリ

オフィス街や繁華街のイメージ画像

無人店舗に適する立地は、第1に駅構内やオフィス街、繁華街といった店前通行量の多いところです。

このようなケースでは、近隣や同じ施設に有人の母店があり、無人店舗をサテライト店のような位置付けにして、1つの有人店舗で、もう1つの無人店舗をカバーしていく方法を取ります。現状はたばことアルコールの販売には本人確認が必要とされるので、それが欲しければ、無人店舗から有人店舗への利用を促す、または同じ施設内であれば、無人店舗でも扱って、決済時に画像モニターで確認する方法をとるなどしています。

23年10月に横浜駅西口にオープンしたウォークスルー型の無人店舗は、スーパーに併設した路面店です。売場面積は約15坪とコンビニの半分から3分の1の広さ、取扱品目数が弁当、飲料、菓子など約400品目、目標客数が最大で1日1000人を目指しています。

天井から35台のセンサーカメラが利用客とその動きを捕捉、手に取った商品を画像および棚に設置した重量センサーで認識します。どの利用客が何の商品を手に取ったのかをAIが認識しています。そのため、利用客は棚から手に取った商品を、そのまま自身のバッグに収めても構いません。

普通の店では「万引き」として認識される行為も、ここでは当たり前の買物風景としてとらえられます。また、一度手にした商品を棚に戻しても、AIが認識するので、そこは普段の買物と同様になります。

冒頭でウォークスルー型と記しました。入店からイメージすると、事前登録したアプリを起動させ、QRコードを入り口ゲートにかざして止まることなく店内に入ります。次に商品をマイバッグに、どんどん放り込み、止まらずに退店します。「レジ待ち時間」は実質ゼロ、入店から退店まで止まらずに最短10秒程度で済むことになります。ゲートを出ると、購入履歴と購入履歴詳細、領収書の3点がアプリから確認できます。

この無人店舗は、横浜駅西口から徒歩5分に立地し、多くの通行量があります。おにぎりやサンドイッチなどのワンハンズフーズ、ペットボトル飲料や菓子などの利用が見込まれます。1、2点の買物であれば、スーパーの広い店内とレジ待ちの時間はストレスになります。

その点、短時間で買物ができる、他のコンビニが競合になりますが、併設のスーパーと同じ商品を提供するため、コンビニよりも価格は低めに設定しています。レジ待ち時間も基本ゼロなので、他チェーンとの差別化を図ることができるでしょう。

もちろん、無人店舗といっても、品出しや鮮度チェック、フェースアップ、清掃などの運営管理は不可欠ですが、スーパーに併設にすることで、物流や人時の効率的な運用が叶うとともに、レジ精算に関わる人時や、レジを置くスペースの大幅な削減に貢献しています。

商品登録は電子レンジくらいの大きさの機械で360度の画像(3Dスキャン)と重量を記録します。その画像と重量をJANコード(商品識別番号)に紐付けて、商品を陳列する際に、どの棚にどの商品が並んでいるのかを登録します。その時点で棚割に商品が紐付いている状況になります。

棚割りは従業員のスマホから見ることができ、棚の段と列で商品名と画像、売価、在庫数を確認できます。お客様が商品を棚から取ったり、戻したりしても、在庫数の増減が確認できます。

課題もあります。専用アプリをインストールして、支払方法(クレジットカードまたはQRコード決済)の登録を必要とします。この2つの操作を利用客にさせる仕掛けが求められます。

冒頭のT社は、専用アプリを必要としないようにハードルを下げた分、退店前に立ち止まって支払いを必要とします。一方、こちらの横浜の店舗タイプは、専用アプリを必須としてハードルを上げた分、退店すると自動的に支払いが完了します。

毎日同じ人が事業所を行き来するので、専用アプリを一度インストールしてもらえれば、継続してお得に利用できることを訴えていきたいと考えています。

支持率を高める販売チャネルのマルチ化

過疎地のイメージ画像

無人店舗に適する立地の2つめは、リアル店舗により買物困難者をサポートする過疎の立地です。

過疎地における買物困難者の増加が社会問題化しています。食生活を担ってきた複数のスーパーマーケットが、商勢圏から一挙に引き上げる例も報告されています。有人店舗では必要利益の確保が難しくなっているのです。

そこでは、ネットスーパーの利用促進や移動販売車の稼働などで、食生活を守っていく必要があります。それに加えて、人件費の負担がほとんどなく、利益が出やすい無人店舗の選択肢も考えられます。

23年8月にオープンした長野県茅野市の無人店舗も、その一つです。母体は、長野県域にスーパーマーケット60店舗、外食事業6店舗を展開するグループ企業の中核を担うD社です。
この無人店舗は、ガソリンスタンドの事務所に設置したもので、幅3m、奥行き4mの面積に、弁当や菓子、飲料といった即食商品や冷凍食品、アイス、日用品など200アイテムを品揃えして、マイクロマーケットに対応しています。

同社によると、必要商圏人口に満たず、食品スーパーを出店できないエリアを、自社のネットスーパーや移動販売車(31台、23年12月末)を稼働させています。

しかしながら、蓼科エリアの住人、別荘地の人たち、観光で訪れたお客様に十分な利便性を提供できていないと考え、T社が開発した無人決済店舗システムを採用しています。

こちらは前述の店舗と同様に天井のセンサーカメラがお客様の入店や動きを把握、商品の陳列棚の重量センサーにより、お客様と商品を紐づけます。最後にお客様がレジ前に立つと、手に取った商品を自動で画面上に提示、正しければ、交通系ICカードやクレジットカードによる決済に至ります。

店舗への配送に関しては、自社が運営するネットスーパーの配送ルートに乗せて納品します。商勢圏の自社物流を上手に活用してコストを最小に抑えています。

このように、実店舗とネットスーパー、移動販売、無人決済店舗といった販売チャネルのマルチ化により、商圏の支持率を高めていくと同時に、買物困難者への対応もしっかりと図っていく意向です。

商品もポイントも商勢圏のスーパーと共用

一般企業や、その施設のイメージ画像

無人店舗に適する立地の3つめは、事業所で働く特定の人たちが利用する閉鎖立地です。

一般企業や、その施設が、福利厚生の一環として施設内に「売店」を設けるところも多くあります。しかし、企業のコスト削減や、人手不足も相まって旧来の売店を撤退する動きもあります。

茨城県つくば市に本社を置き、食品スーパー195店舗(23年12月末)展開するK社は、無人店舗を168カ所(24年1月20日)展開しています。

こちらは、企業などの事業所や工場、病院、自治体などの施設で働く職員や、学校の学生などへの身近な食への貢献を目的としています。

取り扱い品目は常温ゴンドラ2台で100から120品目の設置が多いといいます。決済方法は自社のスーパーマーケットで既に導入しているスマートフォン決済アプリによるキャッシュレス決済に限定しています。

商品の補充は週1回を基本に、近隣にあるスーパーの店舗から配送便を走らせ、補充時に賞味期限管理や清掃などの作業も実施しています。

スマートフォン決済アプリは、①事前にアプリを自身のスマートフォンにインストールしてアカウント情報を登録、②店に入り店頭のQRコードでチェックインしたら、欲しい商品を手に取って、バーコードをスマホカメラにかざして読み取り、③商品の読み取りを終えたら、アプリ内の会計画面に進み、スマホ上で決済を完了、といった新しい決済手段を導入しています。

ポイントも自社のスーパーで利用ができます。スーパーを母体とする品揃えの強みを活かしながら、そこに無人店舗を加えて商勢圏の占有率を高めていく戦略を取っています。

マイクロマーケットから路面店へと拡大

AIなど無人店舗で開発された最先端の技術のイメージ画像

最後に、無人決済店舗は、今後どのように発展していくのでしょう。日本国内は、まだ黎明期にあります。まずオフィスや工場内など閉鎖立地型のマイクロマーケットで小型店舗から徐々に広がり、それから、一般の利用者も利用できる店へと広がっていくと考えられます。

日本の人口減少と高齢化は、嫌が応でも進んでいきます。それに伴い、不便な買物環境を強いられる人たちも増える中、買物環境をより便利にしていくために、無人店舗をはじめ移動販売、ネットスーパーなど、様々な取り組みが本格化するはずです。

そしてもう一つ、AIなど無人店舗で開発された最先端の技術が、やがては既存の店舗に応用され省人化、省力化を果たし生産性の向上に貢献するようになるはずです。

(文)販売革新 編集部
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2024年4月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。