最初の情報が基準となり購買に影響する
アンカリング効果

2024年6月24日

国内流通トピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:円安/人手不足/価格志向/衝動買い/セール消費者心理

アンカリング効果のイメージ画像

アンカリング効果とは、最初に提示された特定の数値や情報が印象に残って基準点(アンカー)となり、意思決定や購買判断に影響を及ぼす消費者心理のことです。心理学者のエイモス・トヴェルスキーと行動経済学者のダニエル・カーネマンが、1974年に発表した考え方です。例えば、小売希望価格あるいは通常価格と記載されたプライスカードやPOPに“決算セール30%OFF!”などと記載されているのを見ると、価格そのものから判断するのでは無く、「いつもより3割も安い」ということに目が行き、最初の価格が基準となって購買に影響を及ぼします。今回は、このアンカリング効果について紹介します。

値上げ続きで生活防衛意識高まる

円安などや人手不足などの影響により、あらゆる消費やサービスの価格が上昇し、一気にインフレが加速しています。賃金上昇が中小にまで広がっていない中での物価上昇は、生活防衛意識を高め買い控えや価格指向を強めています。

こうした中、仕入れ価格や原材料費、光熱費や人件費などあらゆるものが上昇し、やむにやまれず販売価格の見直しを進めている店が続出しています。

一方で二極化が進み貧富の差は広がっていて、高額商品が順調に売れているという店もあり、富裕層と庶民層で購買意識に大きな隔たりがあるようです。

小売店や飲食店では、お客様の価格に対する意識を読みながら、上昇するコストに見合った販売価格への転嫁を進めていますが、買い控えを誘発しないようにと値付けには細心の注意を払っています。

こうした中、お客様の負担を減らすことは勿論ですが、いかに価格に納得してお求め頂けるかも大切になります。

お得に買えたという気持ちを作る

先述の通り、アンカリング効果とは、提示された特定の数値や情報が印象に残って基準点(アンカー)となり、判断に影響を及ぼす消費者心理のことです。

例えば、29,800円のコートがあった場合、通常であれば製品の品質や利用シーン、自分の持つ類似商品を考えて、価格に見合ったものかどうかを判断します。

ところが、「通常価格58,000円→特別価格29,800円」と表示されていると、先に提示した通常価格58,000円という情報がアンカーとなり、29,800円という価格に対して「28,200円も値引きされている」という判断がなされ、お買い得に感じられるのです。

こうした価格判断は、衝動買いにも大きな影響を及ぼしていることがわかっています。

だからといって、元の価格を偽って、さも大幅に値引きされているかのような売り方は問題があるでしょうが、単に割引価格を提示するよりも値下げ前の価格を表示してお得感を印象付けることは販売手法として一般的に行われていることと思います。

<アンカリング効果>

■ 表示価格や情報が印象に残って基準点(アンカー)となり影響を受ける購買心理

興味を示さず通りすぎる女性のイラストイメージ画像

興味を示さず通りすぎる女性

思わず立ち止まる女性のイラストイメージ画像

展示しているコートのプライスカードの価格が当店通常価格「58,000円」が取り消され29,800円と表示されていること気付き思わず立ち止まる女性

他の商品と比較するアンカリング

セールなどでの価格の表記方法だけでなく、同じような商品で価格差があるものを並べると、高い方の商品の価格がアンカーとなり、もう一方の商品が非常に安くお買い得に感じてしまいます。

実際、1商品だけ並べるよりも、売りたい商品の隣にあえて高額商品を並べると、売上が伸びるといったことが実証されています。

ただし、当初販売していた時の価格を偽ったり、理由もなく半額にするなどしては、「そもそも元の価格がおかしいのでは」などと、お客様に不信感を抱かせることにもなりかねません。

また、消費者心理として、価格から商品の品質を推察する機能が働くといわれます。商品に対する情報が十分でない商品が特にそうですが、価格が安すぎると感じると商品の品質に問題があるのではないかと疑い、かえって販売数量が下がるといわれますし、実際そうした事例もあります。こちらについては、また別の機会に紹介させて頂きます。

今回は、アンカリング効果について紹介させて頂きました。「安く買えた」「お得だった」という気持ちを持って頂けるように、上手に利用することも必要だと思います。

(文)販売革新 編集部
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2024年4月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。