小売業界で注目される『ユニファイドコマース』とは
2024年6月24日
国内流通トピックス
■業種・業態:小売業
■キーワード:購買経験/オムニチャネル/ユニファイドコマース
スマートフォンやSNSの普及に加え、コロナ禍におけるデジタル化の加速と収束後の店舗回帰の流れにより、オムニチャネル化が急激に進行したことを背景に、ユニファイドコマースが注目されています。ユニファイドコマースとは、「unified(統合された)」「commerce(商取引)」を実現するための概念です。具体的には、オンライン・オフラインという概念にこだわらず、すべての販売チャネル(店舗・オンライン・モバイル)で取得したデータ(顧客情報、検索履歴、行動履歴、購入履歴、ポイント情報、アプリ利用情報など)を統合して一元管理することで、一人ひとりの顧客に適切なタイミングでパーソナライズされた購買体験やサービスを提供するマーケティング手法のことです。今回は、注目の背景や取り組みについて紹介します。
購買体験を一体的にマネジメントし最適な体験の提供を目指す
店舗での情緒的な体験とデジタルの利便性をかけ合わせた体験を提供する事業者間の競争が顕在化する中、差別化に向けて従来の画一的なマーケティング施策を脱却し、顧客一人ひとりに合わせた施策を行うことが求められるようになりました。
オムニチャネルはオンライン・オフラインの販売チャネル統合により顧客の商品購入・情報取得の利便性(UX:User Experience ※ユーザーエクスペリエンス)を上げて収益を向上させることが目的ですが、ユニファイドコマースはオムニチャネルの仕組みを構築した上で、従業員体験(EX:Employee Experience ※エンプロイーエクスペリエンス)と顧客体験(CX:Customer Experience ※カスタマーエクスペリエンス)を含めて購買体験に影響するすべての活動を一体的にマネジメントすることで、顧客一人ひとりのニーズに合わせた最適な体験を提供することを目的にしています。
<オムニチャネルとユニファイドコマースのイメージ図>


また、ユニファイドコマースと似たような概念にOMO(Online Merges with Offline)があります。OMOは、オンラインとオフラインの融合を意味します。オンラインとオフラインを区別せずにマーケティングをすることで、「顧客の利便性」を高めることを目的としたものです。一方、ユニファイドコマースでは、さらに「顧客の体験価値向上」まで視野に入れています。
2024年1月にアメリカ・ニューヨークで開催されたNRF(全米小売業協会)による世界最大級の流通小売向けイベント「NRF 2024:Retail's Big Show(リテールズ・ビッグ・ショー)」においても、生成AI(人工知能)やリテールメディアと共にユニファイドコマースが注目を集めていました。特に、オムニチャネルの次のコンセプトとして、セッションのテーマとして取り上げたり、展示ブースなどで各社が紹介したりするシーンが多く見受けられました。
ユニファイドコマースが注目される背景
ユニファイドコマースが注目される背景として、①顧客の情報接点及び購入チャネルの多様化、②人口減少と広告費の増加、③生産性向上と効率化の必要性の高まり、の3つが挙げられます。
① 顧客の情報接点および購入チャネルの多様化
最近は、ECサイトやSNSの普及にともない、購入方法の選択肢が増えただけでなく消費者が購入判断に活用する情報も多様化が進みました。具体的には、新聞・雑誌・ラジオ・テレビなどのマスメディアを通じて企業が自ら発信する情報に加え、他の消費者が投稿したレビューや口コミも手軽に参考にできるようになりました。
その結果、不特定多数の消費者全体に対して画一的に仕掛けるマス・マーケティングの効果が薄れてきました。そこで購買体験にまで目を向けて取り組むユニファイドコマースが注目されるようになったのです。
② 人口減少と広告費の増加
日本はもちろんのこと、中国でも2022年以降人口が減少に転じるなど、出生率の低下にともない今後多くの国で人口が減少局面を迎えます。これまでのように、人口増加に支えられて「商品や店舗をだせば売れる」という時代ではなくなってきており、収益を確保するためには顧客一人ひとりのLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を高めることが必要となります。ユニファイドコマースは、最適な体験価値を提供することで顧客のリピート率を高めるという点で、LTVを高める最適な取り組みと言えるでしょう。また、リテールメディアやソーシャルメディアなどデジタル広告費の増加にともない、世界的に広告費は増加傾向にあります。
新規顧客に販売するコストは既存顧客に販売するコストの5倍かかるという「1:5の法則」もあり、今後さらに既存顧客のLTVを高めるユニファイドコマースを指向する企業は増えていくことが予想されます。
③ 生産性向上と効率化の必要性の高まり
小売業界では、在庫管理や顧客管理、POSなど様々なシステムが運用されていますが、それぞれ独立したシステムが使用されているケースが多く、従業員に負担がかかっています。ユニファイドコマースで統合されたシステムを実装することで、その負担を低減することができます。
小売業界において人材確保は各企業が抱える共通の課題であり、ユニファイドコマースで統合されたシステムを実装することが従業員体験の向上につながり、優れた人材の採用と流出防止の効果を期待することができます。
ユニファイドコマース導入の際の取り組みポイント
ユニファイドコマースの導入には、顧客体験のオンライン・オフオフライン統合と顧客一人ひとりのニーズに合わせた体験の最適化に向けて、ハード・ソフト両面の整備が必要です。
ハード面では、オムニチャネルの実装が重要となります。顧客データの基盤を整備してオンラインとオフラインを統合した上で、アプリを軸として店舗とECのシームレスな購買体験の実現を目指します。また、店頭でデジタル接続する接点を創出することも、シームレス化の重要なポイントです。
日本では、小売企業の多くがシステムの開発・運用を外部のシステム開発企業に委託しており、さらにPOSシステムや基幹システム、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)システムなどシステムごとに委託企業が異なるケースも少なくありません。そのため、システム統合が困難となり、ユニファイドコマースの最大の障壁となります。
ソフト面では、顧客一人ひとりにあわせた体験や自社ならではのユニークな体験といった顧客体験の向上に加え、労働環境の改善や顧客に寄り添ったサービス価値の提供を通じた従業員体験の向上も含めたアプローチが必要となります。
日本では従業員体験が疎かになりがちですが、顧客体験の向上にはコールセンターや店舗のスタッフも重要な役割を担うという観点から、海外では従業員体験も重要視しています。
例えば、世界最大の小売業Wは、従業員体験の向上に向け従業員アプリを開発しました。アプリをインストールしたモバイル端末が従業員に無償貸与されており、従業員は自分の労働時間を管理できます。その他にも、商品の陳列場所や業務に関する質問などに回答する音声アシスタント機能などを備えています。
これまでの日本では、オムニチャネルの実装や顧客体験の向上が重要視されていましたが、大手を中心にこのような従業員体験の向上を目的としたアプリの導入が徐々に進んでいます。
日本でも、オムニチャネルの実装を前提に、従業員体験と顧客体験を含めて顧客ニーズへの最適な体験提供を目的にするユニファイドコマースが進展していくことが、今後期待されます。
(文)田中イノベーション経営研究所
中小企業診断士 田中勇司
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2024年4月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

