「つながり」で売る!
ニーズを引き出すPOP活用術
2024年7月22日
お店づくりトピックス
■業種・業態:小売業
■キーワード:潜在的ニーズ/お客様起点/売り場づくり
コロナ禍を経て、商品やサービスの販売においても、これまで以上にお客様との「つながり」が大切になっています。お客様と深い関係を築き、「この店で買おう」と思っていただくにはどうしたらよいか。POPを活用し、お客様の信頼と潜在ニーズを引き出すノウハウを紹介します。
「囲い込む」では売れない 「つながる」ことで売れる
「経営の安定にはお客様の囲い込みが大切」とよく言われます。「囲い込み」は店独自の制度やポイントサービスなどを利用して客離れを防ぐもので、売り手側が枠をつくり、その中にお客様に入っていただくというイメージです。携帯電話会社の「2年間の継続利用で割引を適用」などが代表例です。ポイントサービスや会員カードを使った施策は、小売店や飲食店でもよく行われています。
しかし、ほとんどの消費者は囲い込みされることを好まず、ポイントや特典は利用するものの、言われた通りには買わないというのが本音です。つまり囲い込みとは顧客をつなぎとめる手段であり、囲い込んだだけでは売れないのが真実です。
では、買ってもらうには何が必要なのでしょうか。それはつなぎとめるのではなく、しっかりとした「つながり」をつくることです。「つながり」とはお客様とお店が一本の糸で結びついているイメージです。お客様と「つながり」を築いている店はいざというときに強く、コロナ禍ではそうしたお客様に支えられ、営業を継続できた店がたくさんありました。
お客様が「つながり」を感じるお店について、その理由を聞いてみると、「店主の〇〇さんがいるから」「スタッフがみんな明るいから」など、ほとんどの場合、「人」に関する言葉が出てきます。さらに「なぜその人ですか」と聞いてみると、「何でも相談に乗ってくれる」「元気をもらえる」などという答えが返ってきます。つまり単なる「人」ではなく、「お客様に何ができるかをいつも考えている人」のいる店が、「つながり」を感じてもらえるのです。
お客様の「コト」に着目し「つながり」を生み出す
繁盛している店や高い利益を出している会社は、業種を問わず、お客様のことをよく知っています。逆に、お客様が減ったり、利益が落ちていたりするところは、お客様のことをあまり知りません。お客様をマスで捉え、ざっくりと大雑把に見ているからです。つまり「お客様のことをよく見て、知っている」ことが、つながりを生み出すための第一歩であり、そのためには、商品やスペックで売ろうとするのではなく、お客様の中にある「コト」(興味や関心、不安、不満など)に着目する必要があります(図1)。
そうした関心や不安はお客様自身も気づいていない場合が多く、「何か困っていることはありませんか」と聞いても「特にないです」という答えが返ってくることもあります。人が自分自身で把握できる顕在意識は脳全体の3〜10%程度に過ぎず、残りの90〜97%は本人も気づいていない欲求や不安などが眠る潜在意識だと言われています(図2)。その潜在意識の中の関心事や欲求などを引き出してあげると、お客様の感動や共感を呼び、より強固な「つながり」を生み出すことができます。そのために活用したいのがPOPです。
POPを使ってお客様の潜在的ニーズをつかむ
実店舗のある小売店や飲食店は、お客様がすでに店舗に足を運んでくださっているというアドバンテージがあります。そこに効果的なPOPが1つ2つあれば、お客様の潜在的なニーズをつかむことができます。
例えば、あるラーメン店ではコロナ禍でお客様同士の距離を取るため、席を減らさなければなりませんでした。店内は常に満席という人気店だったため、席数が減った分、売上が落ちます。そこで同店では「トッピングにネギの山盛りはいかがですか」というPOPを作り、各席に置きました。そのPOPには「ネギは免疫作用を上げる効果があります。ネギをたくさん食べ、免疫力をつけましょう」と書かれていました。その結果、多くのお客様がネギを追加注文し、席数の減少で減った売上を補うことができました。
お客様は商品自体だけではなく、その商品やサービスを通して得ることができる体験にお金を払います。POPというと、お店側が売りたい商品をアピールするツールと捉えがちですが、商品やサービスを購入すれば、どんなメリットがあるのか、どんな不満を解消できるのか、それをPOPを使って伝えることで、購買に結びつけることができます。
接客の助けになるPOP
お客様の不満や疑問を解消
POPはお客様の疑問や不安を解消する手段としても活用できます。ある古着店ではお客様からよく聞かれる質問に、「これ(商品)って洗ってあるんですか」というものがありました。そこで「すべての商品はきちんと洗濯した上で販売しています」というPOPを掲示したところ、そうした質問はなくなり、売上も伸びました。
近年では人手不足も相まって、スタッフが品出しなどに追われ、接客に専念できないという店舗が多くあります。お客様の方でもスタッフが忙しそうにしていると話しかけづらいと感じます。そこであるアパレル店では、「『これ何と合わせたらいいですか?』気になるアイテムを1つ手にとって、スタッフにこう言ってみて!」というPOPを付けたところ、実際に声をかけてくださるお客様が増え、購買に結びつくケースも増加しました。
そのアパレル店では接客時にお伝えするようなアドバイスもPOPに掲示しています。今、若者の間ではビッグシルエットのパンツが流行っていますが、試着したにもかかわらず、売場に戻すお客様が多くいました。そこで、「実際にはいてみたらウエストがゆる過ぎたのが原因では?」という仮説を立て、「ベルトでウエストを絞ってはくとカッコよく着こなせます」というPOPを書き、試着室にベルトを用意したところ、購入する人の割合が増えたそうです。
お客様に近いパート従業員の生の声や売る側の〝熱い思い〟などをPOPにすると反響が大きい。お客様の反応がよかったPOPを検証していくと、品揃えや販促など売場づくりのヒントにもなる
効果や反応を検証
お客様起点の売場づくりへ
「つながり」はお客様との信頼関係から生まれます。その基本はお客様のことを「知ろうとする」「見ようとする」「わかろうとする」ことです。それを伝える手段として有効なのがPOPです。どうしたらお客様に喜んでもらえるか、不安を解消できるか、日頃から感じていることを一度POPに書いてみましょう。それに対するお客様の反応などから何がよかったのかを検証すると、お客様のニーズをさらに深掘りできるようになります。また、POPを見ているお客様にどんなところが気になったのかを尋ねたりすると、会話のきっかけにもなります。
POPから得られた情報を各スタッフが日報などに記録していけば、相当数の情報が集まります。その結果、「今度はこんな売り方をしてみよう」「こんな商品を揃えてみよう」というお客様起点の売場づくりができるようになります。スタッフのモチベーションも上がり、売上アップにつながるはずです。
監修:松野 恵介(まつの けいすけ)
一般社団法人コトマーケティング協会代表理事
※当記事は2024年5月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

