米国のスーパーで最も使われているScan&Go
2024年7月22日
海外流通トピックス
■業種・業態:スーパー
■キーワード:アプリ/AIベース/フードスタンプ/EBTカード
米国のメンバーシップホールセール(会員制量販店)では、出口で従業員が顧客のレシートのチェックを行っています。万引き防止ではなく、過少請求あるいは過大請求されていないことをレシートで確認しているというわけです。
このレシートチェックは日本に進出しているCだけではなく、世界最大の小売業W傘下のS、ホールセールの元祖のBなどでも行われていて、週末や夕方など会員が多い時間帯には、出口に長い行列ができて時間がかかり、クレームが出ていました。
この問題の解決のために、Scan&GoとAIベースのレシート認証が導入され、大きな成果を上げています。
AIベースのレシート認証を導入
大きな差別化に
業界最大手のSは、モバイルアプリで購入商品をスキャンして決済するScan&Go(日本ではセルフスキャンと呼ばれる)を導入しています。これで決済すれば、出口でのレシートチェックが不要になり、並んでいた顧客の不満を解消できます。
そこで導入されたのが、空港のセキュリティゲートのような形をした「AIベースのレシート認証」する青いゲートです。
会員がレジまたはScan&Goで支払いを済ませて、カートを押して出口近くにある青いゲートに入ると、コンピュータビジョンとデジタル技術の組み合わせでカートの画像をキャプチャし、AIを利用して会員のカート内のすべての商品の支払いを確認します。
これにより、退場時間が23%短縮され会員に喜ばれています。
2024年3月には10店舗に試験導入されていて、5月に120店舗に拡大、年末までに全600店舗で同様の導入を予定しています。
この買い物、退店プロセスは、競合他社と差別化するのに大いに役立っています。
さらに、いままでレシートチェックをしていた従業員を、会員の買い物を手伝う業務につかせることができ、大幅な顧客サービスの向上にもつながっています。
米国内で最も使われるアプリ
SはScan&Goでも業界をリードしていて、会員の3分の1が定期的に使用するようになっています。
その理由としては、メンバーシップホールセールでは大型商品を扱っていて、購入点数があまり多くないことが挙げられます。例えば、トイレットペーパー18ロールを3個買うとすると、Scan&Goならばカートに入れるときにスキャンして支払いを完了すれば、レジでカートから出したり入れたりという手間が省けます。
レジでは、こうした手間がかかるため、どうしても行列になります。これを避けたい人が率先してScan&Goを使っていることや、会員からの要望で機能を拡張していることも影響しています。
一度Scan&Goを使用すると、その利便性が気に入って、再度使用する可能性が90%と高いため、積極的にメリットを体験できる機会を増やしているのです。
また、補助的栄養支援プログラム(SNAP:Supplemental Nutrition Assistance Program)で使える政府給付金クーポン(EBT:Electronic benefit transfer:電子給付振替)を、給油所やカフェでも使えるようにするなどして、米国内の店舗や飲食店で最も使用されているアプリになりました。
この成長の裏には、EBTカードを使えるようにしたのも、大きく影響していています。
こちらは最後に説明します。
Scan&Goに加わった機能
Scan&Ship
Scan&Shipとは、配送が必要になる大型家具やマットレス、大型テレビ、グリルなどを店舗内で自宅への直送を依頼できるサービスで、Scan&Go機能に統合されています。
店舗にはない色やサイズを選択することもできて、通常3~5営業日以内に自宅など希望の目的地に配送することができます。
さらに2024年には、カスタマイズしたケーキの販売をECで始めました。アプリでもPCでも注文できます。これは「売り場でケーキを注文するための手作業のプロセスが面倒」だという会員の声に応えたもので、まず30店舗から始めて、2024 年中に全店舗に展開する予定です。
会員はケーキをカスタマイズし、カートに追加し、ケーキの受け取り日を指定することができるようになり、他の食料品や消耗品も同時に購入できるようになりました。
EBTカードとScan&Goの良い関係
先に触れたEBTカードの概略から説明します。EBT(Electronic Benefit Transfer:電子給付振替)カードとは、SNAP(Supplemental Nutrition Assistance Program:補助的栄養支援プログラム」)を申請して受給が決定すると手渡されるデビットカードです。現金の引き出しは、できません。
わかりやすく言うと、以前の「フードスタンプ」です。米国農務省が、低所得者向けにスーパーなどで食料が買えるフードスタンプを配っていました。それがEBTカードとして、低所得者用食料品購入支援プログラムに生まれ変わったのです。
SNAPの受給条件である収入は州によって異なりますが、米国人の12%が受給していると言われています。日本の生活保護率2%と比較すると、非常に多くの人に食料費が提供されているのです。
ちなみに農務省の予算は、日本円で10兆円近くあり、同省の予算全体の7割を占めているそうですから、大きな市場だということがわかります。
EBTカードで買えるものには条件があり、自宅で調理することを目的とした食品と決まっています。乳製品、肉、魚介類、野菜や果物、ソフトドリンク、シリアル、パンなど。温かい食べ物やその場で食べることを意図した食べ物は対象外です。
EBTカードが使える店舗は州によって決まっていて、Sは米国全国で使われているようです。Sであれば、Scan&Goで決済まで可能です。レジでEBTカードを出す必要もなく、対象外の商品を購入して、返品になることも防ぐことができます。
これが他のスーパーならば、どうでしょうか。混んでいる有人レジに並び、多くの人の目がある中、EBTカードを出さなければなりません。対象外の商品を購入した場合、返品処理となり、この処理が加わることで、多くの人たちを待たせることになるのです。
このようにセルフスキャンのScan&Goによって、レジ会計がスピーディーになり精算ミスも削減され、付帯機能が加わることでさらに利便性が向上し、新しい買い物体験の提供に繋がっています。
(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2024年5月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

