活気づく米国スーパーの総菜売り場
2024年7月22日
海外流通トピックス
■業種・業態:スーパー
■キーワード:インフレ/消費支出/ハイブリッドワーク/寿司
インフレが進み、賃金の上昇が続く米国でも、生活防衛が進んでいるようです。特に日常使いの食料品の倹約が進んでいますが、富裕層は高品質なスーパーの惣菜を高く評価しています。時間節約にもなるスーパーの総菜は、ファストフードでの食事に取って代わる勢いがあるといわれています。今回は、米国スーパーの惣菜部門の取り組みに一端をご紹介します。
米国でもインフレで食生活の倹約化が顕著に
米国の高インフレは消費支出を圧迫し、家で食べるか外出するかの行動や価値観を一変させました。米国の消費者は外食する頻度を減らし、飲食店を訪れても注文する量が減っているといいます。
デートや友人と夜会うのに飲食店を使いますが、それ以外は家で食事をする機会が増えているようです。
スーパーでより安価な商品を買ったり、特売品を求めて、いくつかのスーパーを買い回ったりする人たちも少なくありません。
一方で、裕福な買い物客層には調理の疲れと利便性の追求から、スーパーの総菜が支持されています。小売業者にとっては最も急成長し、最も収益性の高い部門の1つとなっています。
また、Z世代とミレニアル世代中心に、ハイブリッドワーク(テレワークとオフィスワークを組み合わせた働き方)が広がったことで、食事習慣が変化し内食傾向が強まっています。
アメリカーのスーパー(惣菜部門)の取り組みはどのように行われているのでしょうか。
「利便性、健康、味×価格」を重視
コロナ禍で多くの飲食店が閉店しましたが、米国のスーパーは総菜売り場に多額の投資を行ってきました。消費者にとってより重要な部門にしようと、シェフや専門スタッフを増員し、品揃えを強化した上、米国のスーパーの82%が惣菜売り場を増床しています。
これまで総菜売り場で人気の鶏の丸焼きロティサリーチキンとフライドチキンに加えて、健康的な料理を提供することを目的として、あるスーパーではガラス張りのテイクアウトサラダを刷新したり、グルメサンドイッチのラインも立ち上げたりしています。
シアトルのオーガニックのスーパーでは、買い物客は1ポンドあたり18ドルで、作りたてのポケボウル(アメリカ風海鮮丼)を自分で作ることができます。この店舗のポケバーはレジカウンターの近くにあり、さまざまな新鮮な魚のオプション、ご飯、海苔、キュウリ、ワサビなどの付け合わせが含まれています。
別のスーパーのウェブサイトでは「2人分のオールインワンディナー」としてミールキットや、サンドイッチ、寿司、スナックの「持ち帰りグルメ」セレクションなどの「簡単でおいしい料理」を強調しています。
大手スーパーでは、買い物をしながらアプリやキオスクを介して「持ち帰り」を事前に注文したり、その場で食べたりできるようにしています。消費者が食べ物を見つけ、支払い、食べる方法を1つのアプリに統合することで、ビジネスの流れを維持しているというわけです。
消費者はデリバリーのプラットフォームを使用して、さまざまな総菜や食料品の受け取りや配達のオプションを確認できるため、スーパーとレストランの間の境界線がなくなっています。
モバイルアプリは、顧客の好みを収集し、どのような総菜を望んでいるかを分析して提案します。
加えて、キオスクにも大きなメリットがあります。注文量に応じて、メニュー上の総菜・フードサービスの提供を自動的に調整できることです。注文が多い場合は、より簡単で迅速で利益率の低い商品を表示し、注文が少ないときには、より複雑で利益率の高い商品を表示できるのです。
これにより、満足度と注文の精度が向上し、待ち時間も短縮されます。
店舗を代表するアイテムをつくる
スーパーでは、自社の代表するアイテムをつくることも検討する必要があります。大手スーパーのKでは、総菜やベーカリーは、顧客が手頃な価格の食事の目玉として、あるいは平日の夜の付け合わせや仕上げとして長い間利用されている定番であると指摘します。
「私たちはロティサリーチキンを人気アイテムとしてとらえているのは変わりませんが、今では、次のレベルになっています。ロティサリーチキンの骨をとった肉を売り出したところ、大ヒットしたのです」と語っています。
顧客は骨をとるという手間がなく、鶏肉をサラダやスープ、その他のレシピに入れることに利便性を感じるようになったのです。
別の大手スーパーPでは、燻製食品がヒットしています。約10年前に一部の店舗に燻製器を設置し、豚肉、ブリスケット、リブ、鶏肉の燻製を開始。とても好評だったので、現在はリブとプルドポークを自家製バーベキューソースと一緒に全店舗で提供しています。
Pでは、四旬節(イースター前の準備期間で肉食を断つことが多い)に向けて特製の魚介類プログラムを拡張し、カニ肉を使ったキャセロールや、店内で作るシュリンプカクテルやシーフードサラダを追加しました。このような期間限定の特別オファーで大成功を収めており、「顧客は、店舗を訪れた瞬間に出合える特別な商品を常に探している」と指摘しています。
スーパーでの寿司の地位
米国のスーパーの総菜の定番として忘れてはならないのは、持ち帰り寿司です。サーモンやマグロのロールだけではなく、新しい太巻き寿司を創作したり、寿司事業を立ち上げたりしています。
スーパーは売り上げを伸ばし続けるために、寿司を最も頻繁に購入するミレニアル世代に照準を合わせたいと考えています。年齢以外に収入も要因であり、寿司は都市部や郊外のスーパーで普及していて、惣菜に興味を持っている裕福な買い物客層と一致しています。
米国で寿司の最大の売り手は、前述した大手スーパーのKであり、例年4000万個以上の寿司を販売しています。Kでは「持ち帰り寿司は外食に費やす予算の一部を獲得する」という戦略の中心的な要素となっています。
Kは1991年から寿司を販売しています。アボカド、キュウリ、カニカマのカリフォルニアロールだけではなく、エビの天ぷらが入ったシャギードッグロールや、生のマグロのミンチが入ったスパイシーなツナロールなど手の込んだ商品を開発。
そして、2020年に消費者調査会社によれば、Kが米国最大の寿司小売店になっているとのことです。2023年には、配達アプリと提携して、寿司店がないエリアもカバーしています。
寿司コーナーはKの店舗の3分の2を占めます。そして寿司は、惣菜の中で他の品目を競合するのではなく、他の惣菜の売上を押し上げています。
寿司は現在、スーパーの総菜の中で最強の商品の一つにランクされており、ほとんどの小売店は巻き寿司の品揃えを拡大しようとしています。「米国の二大総菜は、調理済みチキンと寿司だ」という人までいます。
さらに、インフレで消費者の購買量が減っているにもかかわらず、寿司は包装済み食品部門とオーダーメイド食品部門の両方において強力なカテゴリーであると分析するフードアナリストもいるほどです。
こうした動きを見て、シアトルのスーパーTは、2022年10月に寿司のプライベートブランドを立ち上げ、寿司事業を社内に導入しました。6店舗のすべての店内の寿司カウンターと従来の持ち帰り用コーナーを設置。65以上のメニューを提供しています。
(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2024年5月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

