「酸っぱい葡萄の合理化」と「甘いレモンの合理化」
2024年7月22日
お店づくりトピックス
■業種・業態:小売業
■キーワード:買い物心理/自己防衛的心理/正当化/ファン作り
誰もが、欲しくてしょうがなかった商品を買えずに悔しい思いをしたり、この買い物はちょっと早まったかなといった思いをした経験があるはずです。そうしたとき、自分を納得させようとする心理が働きます。今回は、そうした顧客の買い物心理について紹介します。
酸っぱい葡萄の合理化
イソップ寓話の中に「酸っぱい葡萄」という話しがあります。お腹をすかせた狐が、高い木の枝に実った美味しそうな葡萄を取ろうとして飛びつきます。
しかし、何回ジャンプしても届かず、結局手に入れることができません。ついに諦めた狐は、「あの葡萄はどうせ酸っぱいに違いない」と言って立ち去るという物語です。
この狐は、手に入れられなかった葡萄を過小評価することで、取れなかった言い訳を作りました。
このように、目的や欲求が達成されなかったとき、自分に都合のいい理屈で埋め合わせしようとする心理を「酸っぱい葡萄の合理化」と言います。自分の考えや行動を正当化しようとする一種の負け惜しみであり自己防衛的心理です。
例えば、欲しくてしょうがなかった新作のバッグが、思っていたより高額でどうしようか悩み、結局諦めたとき。「無理して買っても、持っている服とのコーディネートが難しく、きっと使わずに眠ったままになるはず」と自分に言い聞かせることはありませんか。
これがまさに「酸っぱい葡萄の合理化」の心理です。
甘いレモンの合理化
「酸っぱい葡萄の合理化」とは逆に、自分が手に入れたものを正しい判断だと納得させる心理を「甘いレモンの合理化」といいます。自分の判断を正当化し自分を納得させるために、酸っぱいレモンであっても「このレモンは甘い」と思い込ませるように働く心理のことです。
米国の有名な百貨店のNには、伝説といわれる接客サービスがいくつもあります。例えば、お客様が、購入した商品を身につけて来店したとき。
「やはり私の見立ては正しかったですね。とてもお似合いです」と徹底的にほめることもその一つです。
「店のスタッフに勧めを鵜呑みにしてちょっと背伸びした商品を買ってよかったのか……」と、すこし疑問符を持っていたお客様は、スタッフのこの一言で「やはり買ってよかった」と自分の買い物を正当化します。
これが「甘いレモンの合理化」という心理です。
実際、日本の某大学の先生が、Nでコートを買ったときの経験を話してくれたことがあります。たまたまNでコートを探していると、スタッフがやってきて先生の好みを一通り聞いたそうです。
先生は、オーソドックスなステンカラーのコートを希望したそうですが、スタッフが勧めてきたのは、以外にもトレンチコートだったと言います。
先生は、トレンチコートに興味はあったものの、小柄な自分には似合わないと敬遠してきたコートであり躊躇したそうですが、スタッフの「きっとお似合いですよ」と言う言葉に押され購入したといいます。
アパートに戻って、冷静になって改めてそのトレンチコートを羽織ってもしっくりこなくて、「やはりステンカラーにすべきだった」と後悔していたそうです。
暫くして、購入したコートを着てNへ買い物に行くと、そのコートを勧めたスタッフが近寄ってきて、満面の笑顔で「とってもお似合いです。やはり私の見立ては正しかった」と言ってきたといいます。
先生は、「このコートを買ったのは失敗だった」と内心思っていましたが、このスタッフの一言で、まんざらでもない気持ちになったそうです。
このように自分の行動や判断を正当化しようとする心理はだれにでも経験があるのではないでしょうか。こうした顧客の心理を理解すれば、ファン作りにつながる接客のヒントが見えてきそうです。
(文)販売革新 編集部
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2024年5月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

