米国で電子棚札の導入が一気に拡大するか!?

2024年8月19日

海外流通トピックス

■業種・業態:スーパー  
■キーワード:業務改善/デジタルソリューション/電子棚札

男性がスーパーマーケットにて商品を手にしているイメージ画像

米国最大の小売業Wの2000以上の店舗に電子棚札を導入するというニュースは、大きな話題になりました。米国はこれまで人件費が比較的安かったため、食料品店のほとんどは、棚に紙のタグを貼るという面倒な作業に依拠し続けていて、電子棚札の導入が遅れていました。現在は、電子棚札の価格が下がり、人件費が高騰していることから、Wにおける導入を機に、一気に導入が拡大する可能性があります。ここでは、電子棚札の特徴などをまとめてみましょう。

2日の業務が数分で終了

女性店員がタブレット端末を見ているイメージ画像

米国最大の小売業Wが2024年6月6日に、電子棚札を2026年までに2300店舗に拡大すると発表しました。2023年にテキサス州グレイプバインの店舗で電子棚札のテストを続けてきたところ、業務の効率化が顕著に表れたため、2024年6月現在、テキサス州の32店舗を含む63店舗へと導入店舗を広げています。

Wの店舗では通常12万点以上の商品が並んでおり、それぞれに値札が付いていて、毎週、新商品の投入や値下げによって何千もの価格更新を行っています。店内を歩き回って紙のタグを手作業で交換するのに、2日かかっていたといいます。

それが電子棚札により、モバイルアプリの数回のクリックで価格を更新でき、わずか数分で済むようになりました。

棚の補充や注文の処理方法も向上しました。電子棚札には「Stock to Light」機能も付いていて、モバイル・デバイスを使用して棚タグのLEDライトを点滅させ、注意が必要な場所を知らせることができます。この機能により、スタッフは補充が必要な棚の位置を簡単に識別できます。

さらに、注文商品の場所や数量を表示しピッキングをサポートする「Pick to Light」機能により、オンライン注文に必要な商品に直接誘導することもでき、ピッキング・プロセスが高速化され、発注の精度も向上しています。

電子棚札は取引の効率を高め、事業コストを削減することで、価格を下げることにもつながり、プラスの好循環を生み出します。

Wが数千の店舗に電子棚札を導入するという決定は、この技術の大きなお披露目になり、従来のアナログ作業をデジタル化することで得られるメリットに注目が集まることでしょう。他のスーパーマーケットもこれに追随する可能性があります。

業務改善だけではなく、顧客へのアピールにもなる

女性店員がサムズアップして笑っているイメージ画像

電子棚札は「価格データ、在庫、在庫切れ状況」をより正確に把握でき、業務効率を大きくアップします。また、顧客に対して、セール品のアピールを行うこともできるまでに進化しており、その魅力は大幅に高まっています。

最も分かりやすいのが、前述の価格データの変更でしょう。電子棚札を導入しなければ、従業員が毎週何千枚ものタグを交換しなければなりません。加えて紙タグの更新が間に合わず、レジで支払う価格が紙タグに書かれている価格と異なるのは、珍しいことではありませんでした。

しかし電子棚札ならば、顧客は正しい価格を知ることができます。デジタルに精通した顧客に対し、棚に表示されている価格が常に最新だと保証できることは、本当に大きな利点になります。

シカゴのDでは、価格とともにオーガニック、ビーガン、グルテンフリーなどのアイコンを表示し、EBT(Electronic Benefit Transfe:電子給付金転送)のSNAP( Supplemental Nutrition Assistance Program:補助的栄養支援プログラム)対象かどうかなどの主要な商品情報を表示しています。

将来的にはグルテンフリーの商品が欲しい顧客には、電子棚札が点灯してグルテンフリーであることが分かるような、高度な機能を付けることも可能になるということです。

デジタルソリューションの連携を目指す

データの流れを思わせるイメージ画像

中西部の5つの州に食料品店110店舗以上を展開するSは、店内の通路を走り回るロボット在庫チェッカーから、電子棚札、スマートカートまで、積極的にデジタルソリューションに投資しています。

店舗内のインフラをすべて専用回線の光ファイバーインフラに置き換え、通信環境を見直したことで、電子棚札の書き替えなどの更新ミスを改善しました。2025年までに、全店舗で導入する計画を立てているとのことです。

Sの幹部は、電子棚札によって混雑時の特別セールなど、時間帯別の価格設定が容易になったと述べています。従来の広告サイクルに従う必要はなくなり、金曜スペシャルや毎日のハッピーアワーセールが、より実現可能になったと指摘します。

さらに食品廃棄物を削減するため、賞味期限が近づいている商品の値引きにも電子棚札を使用しているそうです。

今後は、電子棚札とロボット在庫チェッカーを接続することで、ロボットが在庫切れを伝えたり、スマートカートとリンクさせて、LEDによる店内ナビゲーションを実現したりするなど、多くの機能を実現できると述べています。さらにSの幹部は続けます。

「紙タグを電子棚札に置き換える以上のことを考えなければなりません。電子棚札を全体的なデジタルエコシステムに組み込んで、顧客、小売業者、マーケティングにとって強力なものにするにはどうすればよいか、ということを考えることが重要です」

電子棚札は、もはや単なる退屈な白黒のデジタルスクリーンではありません。一部のベンダーは、タグの画面上の色数を増やす努力をしており、食料品店がマーケティングにも活用できるように対応を進めています。

さまざまなサイズのタグがあり、特売情報を赤いストライプに黒い文字で表示したりすることもできます。

さらにカメラやセンサーに接続して、実店舗の棚でのリアルタイムの購買決定に関する情報を集め分析すれば、オフラインでの購買行動をより深く理解することに役立てられるというコンサルタントの意見もあり、米国での今後の電子棚札活用への関心が高まっています。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2024年6月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。