世界に先行するフランスの衣類破棄禁止法
2024年8月19日
海外流通トピックス
■業種・業態:衣料店
■キーワード:廃棄物規制/ReFashion/ファストファッション法案/分別収集
フランスでは、プラスチック廃棄物を削減するための長期目標として、2025年までに全ての使い捨てプラスチック包装の100%リサイクル、2040年までに使い捨てプラスチック製の容器・包装の販売を全面停止することを目標にしています。環境問題への取り組みや、エシカル消費の高まりから、今後はさらにさまざまな動きが加速しそうです。
フランスの廃棄物規制と修理情報提供
フランスでは、2022年から全ての小売店で野菜と果物のプラスチック包装が禁止されています。
廃棄物を増やさないためには、使い捨てをやめることと同時に、買い替えよりも修理を促して、物を長く使うことも大切になります。
そのため、フランスでは「修理のしやすさを見える化」しています。洗濯機、テレビ、パソコン、スマートフォンなどの電気・電子機器では、2021年から販売時に修理の可能性の指標(0~10まで)を表示、2024年からは耐用性の指標を表示しています。
家具と電気・電子機器では、2022年から修理用部品が入手できるかどうかに関する情報の提供を義務付けています。
衣料品については、世界初の衣類廃棄禁止法が施行されました。これについて詳しく解説します。
世界初の衣類破棄禁止法
フランスでは、2022年1月から企業が売れ残った新品の洋服を焼却したり、埋め立てしたりして廃棄することを禁止した、世界初の衣類廃棄禁止法が施行されました。売れ残った衣料品は寄付やリサイクルが義務付けられ、違反した場合は最大1万5000ユーロ(約250万円)の罰金が科されます。
これは、スウェーデン・ルンド大学の環境経済学者、トーマス・リンドクビスト教授によって初めて提唱された、生産者が製品の廃棄やリサイクル(製品化された物を再資源化して、それを利用して新たな製品などをつくること)まで責任を負うという拡大生産者責任(EPR:Extended Producer Responsibility)の考えに基づいたもので、EPR法と呼ばれます。
レジ袋やプラスチック製・発泡スチロール製の使い捨て食器や食品容器など、プラスチック廃棄物(包装廃棄物)に関するEPR法はEU加盟国で共通していますが、繊維廃棄物に対する在庫廃棄の規制に踏み切ったのはフランスが世界初となります。
フランス政府はEPR法によって、EUにおける包装廃棄物と繊維廃棄物を削減し、リサイクル率を向上させたいと考えているのです。
「衣類、リネン、履物」を回収するReFashion
衣類廃棄禁止法は、アパレルの過剰生産と戦うことを目的としています。
売れ残った新品の洋服は、原材料でもあり、再利用とリサイクルを通じて製品に第2のライフサイクルを与えることを目的としています。
ちなみに、再利用とは製品をそのまま使うことであり、リサイクルとは物を分解して新しい製品を作ることです。再利用は、リサイクルよりも環境にやさしく、ソーシャルエコノミー(社会的な目的を追求するための経済的な活動)の面でもメリットがあります。
例えば、中古繊維のアップサイクル(創造的利用)、再利用、販売を中心とした小規模ビジネスを立ち上げ、雇用機会を創出します。さらに、恵まれない人々に衣類を提供することもできます。
衣類廃棄禁止法では、再利用できない使用済みの「衣類、リネン、履物」の製造業者、または輸入業者は、独自のリサイクルプログラムを策定する必要があります。
フランスの非政府組織(NGO)の「ReFashion」は、唯一認定された回収システムです。フランスには約4万7000カ所の回収場所があり、その8割は歩道などに設置された専用回収ボックスです。これに加えて、5段階の廃棄物階層に従って繊維を分類することも行っています。このNGOは、プロセスとコストを透明化することに尽力しています。
フランスで繊維製品を販売する小売業者は、ReFashionに登録しなければなりません。販売される製品が5000点未満、または年間売上高が75万ユーロ未満の場合、業者は年間75ユーロ(税抜き)の定額料金を支払う必要があります。
この数量を超えると、追加料金が請求されます。このような「エコ料金」は、持続可能な繊維産業のために使用されます。
ネット通販大手のAを通じて、フランス国内に衣類を販売するファッションオンライン小売業者もReFashionに登録が必要です。登録後にEPR番号を受け取ります。このEPR番号がない業者の出品は、プラットフォーム上でのフランス国内への販売が禁止されます。
ファストファッション法案の影響
2021年、スウェーデン発のH社やスペイン発のZ社などファストファッションは、フランスの消費者の衣料品購入の70%を占め、平均価格は8.2ユーロでした。
最近では、もっと安価でスピードが速い、中国発のネット通販のS社やT社といった超ファストファッションが台頭してきました。
2024年3月には、フランスの下院は、環境への影響を相殺するために超ファストファッション製品に罰金を課す法案を承認しました。ファストファッション法案と呼ばれ、次の3つの措置を通じて、ファストファッション製品を規制しようとしています。
- 購入が可能な全ての商品説明には、商品の小売価格の横にファストファッションの経済、社会、健康、環境への影響を消費者に知らせるメッセージを表示する。そうしない場合は、最高1万5000ユーロ(1万6160ドル)の罰金が科せられる。
- 一定期間内に一定数の衣類やアクセサリーを販売する業者には、2025年から5ユーロの手数料が課せられ、2030年までに10ユーロまたは商品小売価格の50%に引き上げられる。この資金は、EU外のリサイクル施設の資金として使用され、EUの規制に準拠する企業に有利となる。
- インフルエンサーによるプロモーションを含む、ファストファッション業者の広告禁止。この法律に違反すると、最高10万ユーロの罰金が科せられる。
大きな問題なのが2の「一定期間内に一定数の衣類やアクセサリーを販売する業者」というところです。中国発のネット通販のS社やT社だけではなく、EU加盟国に本社があるH社やZ社にも影響を及ぼす影響があります。
加えて、3の「ファストファッション業者の広告禁止」は、市場を阻害することになると、警鐘を鳴らす政治家もいます。
そのためか、この法律は上院に送られていますが、6月になっても結論は出ていません。9月になる見込みのようです。
EUでは2025年から繊維の分別収集を義務付け
2025年1月1日以降、EU加盟国は使用済み繊維の分別収集システムを確立することが義務付けられています。EU内で繊維製品を販売する生産者が、繊維製品の収集、選別、リサイクルに掛かる費用を負担しなければならない生産者責任制度の拡大に合意しました。
新しい規則は、衣類やアクセサリー、毛布、寝具、カーテン、帽子、履物、マットレス、カーペットなどの製品を対象とし、皮革、合成皮革、ゴム、プラスチックなどの繊維関連素材を含む製品も含まれます。
EU加盟27カ国の半数以上では、すでに繊維製品の分別収集が義務付けられていますが、これは主に再利用可能な繊維製品を回収するためです。
選別とリサイクルの能力が拡大されなければ、収集された大量の繊維廃棄物が引き続き焼却炉や埋め立て地に送られたり、EU域外の地域に輸出されたりするリスクがあります。
さらに各加盟国で収集システムや、廃棄物の分類の解釈も異なるため、統一する必要があります。おそらく、EUではフランスの衣類廃棄禁止法を模範とした政策が採用されることになると考えられます。
(文)販売革新 編集部
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2024年6月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

