スーパーマーケットの物流改革における
流通BMSの現状と課題
2024年8月19日
海外流通トピックス
■業種・業態:スーパー
■キーワード:2024年問題/物流問題/物流業務効率化/ペーパーレス化
「物流2024年問題」の影響が懸念される中、スーパーマーケット業界では物流改革の取り組みが加速しています。その中で、物流業務効率化のカギと期待されている流通BMSについて、その概要と現状、今後の業務効率化に向けた課題について整理していきます。
「物流2024年問題」の概要
「物流2024年問題」とは、働き方改革関連法の施行により2024年4月1日から自動車運転業務の時間外労働の上限規制等が適用されることで発生する問題の総称のことを指します。
総務省「労働力調査」によると2022年現在、ドライバー等の輸送・機械運転従事者数は約86万人で直近10年は80万人前後とほぼ横ばいで推移しているものの、現役トラックドライバーの高齢化や女性層・若年層の担い手不足により、就業者の年齢層・男女比に偏りが生じているという問題があります。
一方、コロナ禍を経てEC市場は急拡大しており、国土交通省によると2022年度のトラックによる宅配便の取扱個数も4,925百万個と10年前の2013年度(同3,595百万個)比で137.0%と急増しています。取扱個数は増加しているにもかかわらずトラックドライバーの人数は変わっていないため、近年は慢性的な人材不足に陥っています。
そして、働き方改革関連法の施行による時間外労働の上限規制等の適用にともない、トラックドライバーが1日に運送できる荷物量が減少することで物流企業の売上・利益が減少し、さらに現役トラックドライバーの収入減少や離職、女性層や若年層といった新たな担い手の減少を加速させるという悪循環が進むのではないかと危惧されています。
スーパーマーケットの物流改革へ向けた取り組み
(一社)全国スーパーマーケット協会が発行した「2024年版スーパーマーケット白書」によると、「物流2024年問題」がスーパーマーケット運営に「かなり大きな影響がある」「大きな影響がある」と回答した企業は全体の80.1%にも達します。
こうした危機感に対して、「定番商品発注の運用見直し」と「納品リードタイムの見直し」を実施した企業が半分近くに達しているものの、「特に実施していない」と答えた企業の割合も25.6%と1/4を上回り対応にばらつきがあるようです。このような状況は、一つの企業だけで取り組みが難しいことに起因しています。
特に、取り組みの割合が比較的低い「2分の1ルールの適用」や「発注データ規格の見直し」については、卸やメーカー、物流企業も含めてサプライチェーン全体で解決していく必要があります。さらに、スーパーマーケットの物流を取り巻く環境は、2024年問題への対応だけでなく、世界中で意識の高まるSDGs(持続可能な開発目標)への対応など、今後も厳しさを増していくことが予想されます。
近年は、各企業が物流分野を「競争領域」ではなく「協力領域」と考え始めており、危機感を強めた各エリアの大手が中心となってエリア内の各企業が協力して物流効率化策やサプライチェーン全体の効率化につながる施策を検討する研究会を発足させる動きが顕在化しています。
例えば、2022年8月に「九州物流研究会」が発足したのを皮切りに、2023年3月に「首都圏SM物流研究会」、同年5月に「北海道物流研究会」、2024年4月に「中四国物流研究会」が相次いで発足しています。
特に、当初首都圏を地盤に店舗展開する大手4社が参加して発足した「首都圏SM物流研究会」は、発足後に首都圏の他の企業だけでなく近畿圏など他エリアの大手企業や全国展開する大手企業も相次いで参加し、2024年6月末現在で参加企業が16社まで拡大しました。「首都圏SM物流研究会」では、発足と同時に「持続可能な食品物流構築に向けた取組み」として以下の4項目を宣言しています。
では次に、4つの宣言の中でも物流業務効率化のカギと期待されている流通BMSについて、その概要と現状、今後の業務効率化に向けた課題について考えてみましょう。
持続可能な食品物流構築に向けた取り組み宣言
| 宣言 | 取り組み内容 |
|---|---|
| ①加工食品における定番商品の発注時間の見直し | 加工食品における定番商品の店舗発注時間を前倒しすることで、取引先の夜間作業の削減および調整作業時間の確保を実現する |
| ②特売品・新商品における発注・納品リードタイムの確保 | 特売品・新商品の計画発注化を進め、確定した発注データをもとに商品・車両手配ができる環境を整えることで、緊急手配等の作業負担軽減とともに積載効率・実車率向上を目指す |
| ③納品期限の緩和(1/2ルールの採用) | 加工食品における180日以上の賞味期間の商品に対し、「1/2ルール」を採用することで商品管理業務の負担軽減と食品物流の効率化を図る |
| ④流通BMSによる業務効率化 | 卸売業と小売業間の受発注方式に、標準化された流通BMSを導入することで、高速通信による作業時間確保、伝票レス・検品レスによる業務効率化を進める |
出所:経済産業省「物価高における流通業のあり方検討会(2023年3月22日 第7回)」
流通BMSの概要と現状、今後に向けた課題
流通BMSとは「流通ビジネスメッセージ標準(Business Message Standards)」の略称で、スーパーマーケットを初めとした流通業界の企業が利用できるEDIの仕様です。EDIとは、「電子的データ交換(Electronic Data Interchange)」の略称で、流通BMSは経済産業省の「流通システム標準化事業」により2007年4月に制定されました。
流通BMSに対応することで、各企業は受注や発注、出荷や受領、検品、請求などの流通に関わる一連の取引を電子データとして高速かつ低コストで交換することができます。
流通BMSが導入される以前、各企業でEDIの仕様として利用されていたのはJCA手順でした。JCA手順は、1982年に日本チェーンストア協会(JCA)と当時の通商産業省によって制定されました。
これまで紙の伝票を郵送やFAX送付したり、フロッピーディスクや磁気ディスクなどを使ったりするアナログなやり取りが中心だった各企業の受発注データについて、インターネットがまだ一般的に普及していなかった頃でも固定電話回線を使って通信できた上にオンライン上で交換できるように仕様を標準化したJCA手順は、当時非常に画期的でした。
1985年には大容量の通信回線を保有するVAN(Value Added Network)事業が全面的に自由化され、これまで各企業が実施していた受発注データの集配信をVAN事業者に委託することでJCA手順によるデータ交換が一気に普及し、取り扱うデータも受発注から出荷、請求、支払などに拡大しました。
しかし、長い間各企業で使用されてきたJCA手順も、近年は「通信基盤の老朽化」と「データ拡張性の低さ」が問題となってきています。
「通信基盤の老朽化」については、現在ブロードバンド環境が整備され、JCA手順制定当初と比較して取り扱うデータ量が飛躍的に増加しています。その状況に対して、固定電話回線であるJCA手順の通信速度は2400bpsまたは9600bpsと非常に遅く、受発注などの業務に支障をきたすようになってきています。
さらに、インターネットの普及にともない、固定電話回線を利用するために必要となるモデムについても故障した際の代替品を探すのが困難になってきています。
「データ拡張性の低さ」についても、JCA手順では画像や漢字が扱えないため、受発注データには最小限の情報しか反映できません。さらに、データが構造化していないため項目の追加や変更を容易に行えず、受発注業務にもさまざまな制約が生じています。
また、データ形式や項目は各企業が自由に定めているため、卸やメーカーは個別に自社への連携システムを準備する必要があり、開発費用の負担も増加傾向にあります。
ただし、NTT東日本・西日本の固定電話網のIP網への移行を2024年1月から順次実施することで従来のEDI取引に影響が出る「EDI2024年問題」により、各企業はEDIの仕様変更を迫られています。
(一財)流通システム開発センターによると、2023年12月現在で19600社以上の卸・メーカーが流通BMSを導入済みであり、特に直近1年間で約1900社と導入企業が急増しています。
しかし、中小規模のスーパーマーケットの一部には、流通BMSの導入には費用と労力がかかることから発注をメールに切り替える動きもあるようです。
一方、標準化された流通BMSの導入は、物流分野にも「ペーパーレス化」「データ処理時間の短縮」による業務効率化という好影響を及ぼします。
「ペーパーレス化」については、中小規模のスーパーマーケットでは未だに大量の紙伝票を用いて入荷検品作業を行っているケースが散見されますが、流通BMS導入によりハンディー端末とバーコードを用いて伝票の目視ではなく正確な入荷検品作業が可能となります。
また、受発注業務における「データ処理時間の短縮」により、後工程である出荷作業時間を長く確保することにつながり、現場作業量の平準化に大きく貢献します。
今後は、各エリアで発足した物流研究会が中心となり、中小規模のスーパーマーケットへと協業の輪を拡げながら流通BMSの導入率を向上させることが期待されます。
(文)田中イノベーション経営研究所
中小企業診断士 田中勇司
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2024年6月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

