欧米で支持される食品ロス削減アプリ
2024年9月25日
海外流通トピックス
■業種・業態:スーパー/飲食店
■キーワード:DX/新規顧客開拓/プラットフォーム

世界中で社会問題となっている食品ロス。それをDXの力で解決する動きが広まっています。今回は、マーケットプレイスを運営する会社が、食品ロスの削減を目指しプラットフォームを構築し、顧客と売れ残った商品をマッチングすることで余剰食品を削減する動きを紹介します。
食品ロスの最大のマーケットプレイス
2015年にデンマークで生まれたTOは、ビュッフェ・レストランで廃棄される大量の食品の問題を解決することがきっかけとなるプラットフォームとアプリを開発。飲食店だけではなく、カフェ、ベーカリー、スーパーにも拡大して、売れ残った商品と顧客を結び付ける世界的なアプリに成長しました。
TOはヨーロッパ(ドイツ、フランス、イタリア、デンマーク、ノルウェーなど)と、米国、カナダの17カ国で事業を展開。世界中に9000万人の登録ユーザーと15万5,000社のパートナー企業を抱える、食品ロスの世界最大のマーケットプレイス(ネット上で売り手と買い手を結び付ける取引市場)を運営しています。
パートナー企業にはホテルや、フランスの世界的スーパー、ドイツのディスカウントスーパーなどが含まれており、余剰食品の価値を引き出し、食品ロスの削減を支援しています。
アプリの使用方法は簡単で、ユーザーが自宅近くのスーパーや飲食店、小売店で入手できる詰め合わせ商品を見つけて予約、支払いをアプリ上で済ませます。
詰め合わせ商品の詳しい内容は事前には分かりませんが、3分の1ぐらいの値段で販売されています。そして、受け取り時間に店舗に行き、商品を受け取って終了です。
フランスでは、2016年に世界初の「食品廃棄禁止法」が制定され、売れ残った食品や賞味期限が迫った食品をスーパーで廃棄することを禁止し、寄付を義務付けています。
TOのプラットフォームによって、詰め合わせにして売ったり、寄付したりすることが楽にできるようになったのです。
そして2020年には、TO主導の「賞味期限に関する協定」が公表され、フランス農業省、N社、D社など約40の団体がこの協定に署名しています。
食品流通に関わる全ての人の考え方を変え、特に賞味期限について、より明確に伝えるように促すことを目指しています。
2023年11月には、TOのアプリがAppleの「2023年App Store Awards」の「カルチャーインパクト」を受賞しました。技術的信用の証しとなると同時に、社会への大きな影響が認められたというわけです。TOのCEOは「この賞は、テクノロジーを通じて企業が強力に、社会的に影響を与えることができるという証拠となりました。
現在、賞味期限の追跡から最終配送まで、食品ロスの削減に関するデータを確認して改善などの意思決定を行うことができます。これは地球、人々、そして利益の全てにとって、メリットのあることです」と語っています。
食品ロス削減だけではなく、新規顧客開拓にも
TOでは、パートナーとなる利点として、食品ロスの削減につながるだけではなく、次のようなメリットを挙げています。まず、節約になること。売れ残った商品を簡単に販売できるようになります。
さらに、パッケージがへこんだり、味は変わらないのに商品の形が悪かったりするなどで店頭に並べられなかったものも、詰め合わせにして、利益にすることができるようになります。
TOで売ることにより、ブランドの評判を高めたり、新規顧客の開拓にもつながったりすると強調します。ユーザーの多くは、その店舗を初めて訪れる人たちで、ほぼ半数が店舗で追加の商品を購入しているということです。
2024年からはAIを使った新しいプラットフォームに
TOは、2024年1月にAI(人工知能)を用いた新しいプラットフォームを発表しました。フランスの高級スーパーMは、2017年から提携し、すでに120万食の食品ロスを防いでいます。
ちなみに世界で先駆けて食品ロスと戦ってきたフランスで、TOのアプリで詰め合わせを販売する店は4万店舗に上り、2023年だけでも、フランスでは前年比22%増となりました。
ところで、TOの新しいプラットフォームでは、次のことができるようになりました。
1.有効期限の管理
スーパーの従業員は通常、期限切れになりそうなものがないか手作業で、目で見て確認しています。特に乳製品やオーガニック食品などは賞味期限が短く、期限が2~3日の商品は、たとえ需要が高くても発見が遅れることが多くなります。
不当な損失を防ぐために、より厳格な監視が必要なため、それをTOのプラットフォームを使ってデジタル化することで、店舗の在庫管理は効率化されます。
TOのプラットフォームは、従業員向けに、賞味期限が近い商品の候補リストを生成し、PDA(携帯情報端末)に表示します。このリストは、商品の賞味期限に応じて、毎日または毎週、棚の位置別に分かりやすく整理されて作成されます。
そして、事前に設定したルールと設定に基づいて、賞味期限が近づいたら、それぞれの商品をどのように処理するか、PDAで従業員に伝えます。
例えば、最適化された割引率で割引ステッカーを印刷して店内で販売する、TOのアプリで販売する詰め合わせを作成する、または商品を寄付するなどです。これらは、そのスーパーのカテゴリやSKU(受発注や在庫管理の最小の管理単位)ごとに、本部や店舗で簡単に設定できます。
これにより、手動でのチェックは全商品の3~7%に削減され、その結果、従業員1人当たり1日最大1時間の節約になります。自動化されたプロセスにより人的ミスが減り、棚に並ぶ賞味期限切れ商品の量も削減するため、顧客満足度も向上します。
2.割引率の最適化
賞味期限が近づいている商品に対しては、割引率の最適化も推奨しています。これまでは、在庫や履歴データなどの要素が考慮されず、30%や50%など、固定された割引率でステッカーを貼っていました。
TOのプラットフォームは消費者の購買行動を綿密に監視し、購入のピーク時間を追跡することで、賞味期限が近づいている商品に最適な割引率を推奨します。割引によって来店客数も増えて、賞味期限が迫っている商品だけでなく、他の商品が売れる可能性も高まります。
このように商品の購買行動と賞味期限を効率的に組み合わせることで、スーパーや小売店は、かつては避けられない損失と考えられていたものを新たな収益源として活用できるようになります。さらに、複数の在庫管理プロセスの自動化・デジタル化によって、賞味が迫った商品の売上を増やすためのマーケティング活動の強化につなげられるというわけです。
従業員はモバイルプリンターで、すぐに割引ステッカーを印刷でき、割引情報も店舗の商品管理システムに送信することができます。
3.配布と寄付
従業員は、PDAから直接、余剰食品をTOで販売するための詰め合わせに割り当てて、それをマーケットプレイスにアップロードし、ユーザーに購入を促し、店舗での受け渡しができます。
寄付する商品もピックアップでき、外部の寄付アプリケーションなどに接続すれば、寄付の手続きができます。
店舗のマネージャーは、寄付された商品リストを含めて、すぐに分析できるようにデータをダウンロードしたり、統合オプションも提供されているので、これを自社のシステムに統合したりすることも可能です。
米国での取り組み
米国では国家としての「食品廃棄禁止法」はありませんが、カリフォルニアやニューヨーク、ハワイなどでは独自に行っています。2022年に食品廃棄禁止法を施行したカリフォルニアは、米国の中でも先進的な州の一つです。
全ての住民に生ゴミの分別を義務付けると同時に、スーパーや飲食店などは、まだ食べられるものについては、食品ロス削減に取り組む団体に寄付することを義務付けています。
TOは、2023年2月にカリフォルニア州ロサンゼルスの非営利団体Fと提携しました。
スーパーなどのパートナー企業は、余った食品をTOの新しいプラットフォームで寄付ができる他、ユーザーもアプリから寄付ができるようにしたのも革新的といえます。
寄付の100%がFに直接送られ、飢えに苦しむ人々を養う取り組みを支援しています。
(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2024年7月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

