国民を巻き込むフランスの食品ロス対策
2024年9月25日
海外流通トピックス
■業種・業態:スーパー
■キーワード:食品ロス/フードロス/ガロ法

フランスでは2022年1月に、企業が売れ残った新品の洋服を焼却したり、埋め立てしたりして廃棄することを禁止した世界初の「衣類廃棄禁止法」が施行されました。実はその前の2016年に世界初の「食品廃棄禁止法」が制定されるなど、フランスでは食品ロスに対しても、さまざまな施策が進められてきました。
フードロスと食品廃棄物、食品ロスの違い
まず確認しておきたいのは、フードロスと食品廃棄物の違いについてです。国際連合食糧農業機関(FAO)の定義では、次のようになっています。
フードロス(Food Loss、食品ロス)は、小売りまでのサプライチェーン(栽培と生産、加工、流通)の段階で生まれるロスのことを指します。
一方、食品廃棄物(Food Waste、フードウェイスト)は、スーパーやコンビニエンスストア、惣菜店などの小売り、レストランやハンバーガーショップなどの飲食店、そして消費者から生まれるロスのことになります。
フードロスが多いのは発展途上国で、収穫技術が低いことや、厳しい気候下での貯蔵が難しいなどの理由から食品の生産や加工の段階で生まれます。
食品廃棄物が多いのは先進国で、生鮮食品の外観を重視する「外観品質基準」が強いことや小売店で大量陳列すること、食品を簡単に捨てる余裕があることなどから、加工段階、卸・小売り、飲食店、家庭で発生します。
英語では、この2つを合わせてFood Loss and Wastと言い、日本語にすると「フードロスと廃棄」ということになります。
日本では農林水産省が、まだ食べられるのに廃棄されている食品のことを「食品ロス」と言って、さらに事業系と家庭系に分けています。
つまり、日本語では食品ロスは、Food Loss and Wastのことを指しているというわけです。混乱しないように本稿では、食品ロスで統一することにします。
フランスのさまざまな食品ロス施策
世界的な食糧危機や、飢餓に苦しむ国々がある一方、食べ物は社交や娯楽の中心にあり、それを無駄にしている国々もあります。「美食の国、フランス」では、環境エネルギー管理庁(ADEME)によると、毎年1000万t以上の食品ロスが発生しています。国民1人当たりの食品ロスは年間約50kgにも上っていました。
ちなみに日本では、農林水産省によると2022年で国民1人当たり食品ロスは年間約38kgなので、いかにフランスの食品ロスが多かったのかが分かるでしょう。
フランスでは、国民の行動を変えることで、食品ロスと環境への影響を減らすことができると考え、2013年には、政府が「社会の過剰消費と戦い、購買力を取り戻すための共同の取り組み」と表現した「食品廃棄物削減に関する協定」が制定されました。
この中で、2013年~25年に食品ロスを50%削減する目標を設定しています。
加えて、国民の意識を高め、責任ある習慣を奨励するために、協定では11の対策が概説されています。
例えば、企業の社会的責任の一環としての食品ロスを測定することや、ラベル上の既存の「賞味期限」(フランス語の略語「DLUO」)を「最小耐久期限」(DDM/品質が損なわれる可能性が生じる期限)に置き換えることなどです。
2015年にはギヨーム・ガロ議員によって、報告書「食品廃棄物対策:公共政策の提案」が提出されました。この活動を継続するために、2016年には世界初となる「食品廃棄物対策法」(通称「ガロ法」)が制定されました。
この法律は、売れ残った食品や賞味期限が迫った食品をスーパーで廃棄することを禁止し、寄付を義務付けています。
具体的には、400m2以上のスーパーに対して、売れ残った食品を廃棄することを禁止しました。
売れ残った食品はフードバンクなどに寄付する、または飼料、肥料などに再利用することが義務付けられ、違反した場合は3750ユーロ(約50万円)の罰金などが規定されています。
食品の誤解を招くラベルの明確化も含まれています。「この日まで使用可能」や「最高の品質を保つには、この日までに使用してください」などのフレーズが明確化され、区別されました。
前者は安全性と関連しており、通常は生鮮食品に付けられます。後者は最高の栄養価と味を保てる期間を示します。
この期限が切れたからといって、必ずしも食品が腐っているわけではありません。これは、政府が消費者に啓発して、まだ食べられる食品の廃棄を減らすことを目指している考え方です。
ガロ法施行の成果
フードバンクとは、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品を、困っている人や施設に寄付する団体、またはその活動のことです。フランスはフードバンク発祥の地で、1980年代から始まったといわれています。
ガロ法により、5000を超えるフードバンクが誕生して、そのネットワークに登録しているといわれています。2016年にはフードバンクへの寄付が約4万1000tでしたが、2017年には4万6000t、2018年には4万8000tに伸びています。
ガロ法の施行当時は、家庭よりも食品ロスが少なかった大手スーパーからは反発が強くありました。法制定の1年後、フードバンクなどへの寄付の増加に加え、余剰食品を再配布する事業者が誕生し、アプリを展開するなど大きな効果が出ています。
さらにドギーバッグ(食べ残しを持ち帰るための容器や袋のこと)は、2016年には年間10tの生ゴミを出す飲食店への「推奨」でしたが、2018年には「全ての飲食店に対し義務化」になりました。
2020年には循環型経済食品廃棄物法が施行されました。売れ残った食品の寄付などはスーパーのみに適用されていましたが、飲食店などにも拡大されることになりました。
そして、集団給食施設(学校、病院、介護施設など)と流通部門では、2025年までに、食品ロスを2015年のレベルと比較して50%削減させる必要があります。食品加工業者や飲食店などは、2030年までに50%削減させることになっています。
これには、2040年までに全ての使い捨てプラスチック包装を段階的に廃止することも伴います。
生ゴミの分別が義務化
2024年1月から、フランス全土で生ゴミの分別が義務化されました。個人の台所や庭から出る野菜や果物の皮、しおれた花、コーヒーかすなどの生ゴミは、専用のゴミ箱に捨てなければならなくなりました。
個人用コンポスターを用意するか、公共のコンポストや、生ゴミ収集所などに持って行かなければならなくなったのです。
環境エネルギー管理庁(ADEME)によれば、生ゴミはフランス人の食品ロスの3分の1を占めているということです。「生ゴミの埋め立ては、温室効果ガスの排出源になります。しかし、食べ残しや野菜くずなど家庭から出る生ゴミも、コンポスト化により良質な肥料に変えることができます。無駄なく有機物を循環させることができます」と説明しています。
食品ロスなどをなくすのに役立つアプリ
最後に、ガロ法がきっかけとなって生まれた、余剰食品などを再配布するアプリをまとめておきます。
- ベーカリー、レストラン、スーパーなどが提供している、その日の売れ残りやパッケージが破損している商品など、何が入っているかは事前には分からない「詰め合わせ」を割引価格で購入できるアプリ。自宅の近所の店舗や受け取り時間などで検索、決済して、商品は店舗で受け取る。
- 食事に困っている学生や家族に、個人や企業の食品寄付を促進するアプリ。個人が買い過ぎた食品、旅行直前で無駄になりそうな食品などを無料で配布する写真を投稿します。個人の他、精肉店、肉加工品店、鮮魚店、チーズ店、スーパーマーケット、レストランやホテルも参加しています。
- 冷蔵庫や食器棚に残っている食材に基づいて、レシピを取得できるアプリ。アプリには約4000種類の簡単で素早いレシピが用意されており、食べ物にチェックマークを付けるだけで、関連するレシピが表示されます。
- 家具や自転車、スポーツ用品など不要になった品物を寄付したり、受け取ったりできるアプリ。
(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2024年7月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

