有職主婦の購買行動と食品小売業の対応

2024年9月25日

国内流通トピックス

■業種・業態:スーパー  
■キーワード:食品小売業/購買行動 /社会進出

スーパーで買い物をする女性のイメージ画像

2023年5月に新型コロナウイルスの感染症法上の分類が季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行したことなどにより外出機会が増え、買い物手段として実店舗の利用が回復しています。そのような状況下で、オフィスへの出社機会が再び増えてきた有職主婦の実店舗における購買行動と食品小売業の対応についてまとめました。

女性の社会進出

笑顔で話し合う二人の女性と男性のイメージ画像

安倍首相が2012年12月の政権復帰以来、女性の社会進出を積極的に後押ししてきた結果、2023年の就業者数は男性がほぼ横ばいの3,699万人に対して女性が過去最高の3,051万人と、2012年と比較して大幅に増加しました。それにともない、近年は専業主婦世帯の減少傾向と共働き世帯の増加傾向が顕著になってきています。(図表1・2)

<図表1>就業者数の推移(15歳以上人口)

<図表1>就業者数の推移(15歳以上人口)の図表画像
出典:総務省「労働力調査」

<図表2>専業主婦世帯と共働き世帯の推移(非農林業雇用者)

<図表2>専業主婦世帯と共働き世帯の推移(非農林業雇用者)の図表画像
出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構HP

有職主婦が増えることで世帯の購買行動も変化しており、食品メーカーは簡便性や利便性を重視した商品開発、食品小売業は総菜やミールキット、冷凍食品といった即食性の高い商品の品揃え強化にそれぞれ注力しています。さらに最近は、食品小売業において有職主婦の購買行動を意識した売場や販促の見直しが進んでいます。

有職主婦の購買行動

ペンを持ってチラシをめくる手元のイメージ画像

家事や育児に専念する専業主婦は、買い物を仕事の一旦として捉えることが多く、買い物に対する準備を十分に行う傾向があります。

具体的には、根強い節約志向から各食品小売業のチラシを比較して価格の安い日にちや商品を探したり、事前に購買する商品のメモを作成したりといった行動が該当します。

さらに、チラシに掲載された商品が品切れする前の午前中に買い物を済ます割合が、有職主婦と比較して大きいことも特徴の一つです。

一方、有職主婦は、1日の生活における就業時間の割合が大きいため、家事全般において時間的な制約が多くなりがちです。日常の買い物についても同様で、勤務先や子供の預け先からの帰宅動線上の店舗で買い物を済ますパターンが多く見受けられます。(図表3)

<図表3>保育園児の子育てをしている有職主婦の1日のタイムスケジュール例

<図表3>保育園児の子育てをしている有職主婦の1日のタイムスケジュール例の図表画像
出典:株式会社ニチイ学館「サニーメイドサービス」HP掲載情報に基づき筆者作成

そのため、有職主婦は専業主婦と比較して買い物で利用する店舗数が少なく、忙しくて事前にチラシ情報などを確認して買い物メモを作成することができないケースも多いことから、訪れた店舗で実際に売場や販促を見て商品を購入する傾向にあります。

また、有職主婦は価格への意識が専業主婦と比較して低く、決まった店舗で買物をする割合が相対的に高いことから、有職主婦に支持される企業となることは食品小売業にとって安定した収益を確保するための近道と言うことができそうです。

有職主婦に対する食品小売業の売場・販促対応

スーパーで買い物をする笑顔の女性のイメージ画像

有職主婦からの支持を得るため、売場面では「タイパ*重視」という需要に対応した売場編集を工夫する企業が増加しています。

具体的には、関連性の高い商品の組み合わせや同一テーマでコーナー展開をすることで、有職主婦が短時間で買い物できるようにしています。

これまでも、関連性の高い商品同士を売場でクロスMD展開することで買い物客の購買意欲を喚起するケースはありましたが、有職主婦を意識した売場編集では短時間で目的の売場に行くことができるように、さらに「いつも同じ売場でコーナー展開をすること」が重要となってきます。

一方、有職主婦は時間的制約が多いため日常の買い物を短時間で済ませる傾向にありますが、本来はもっと時間をかけて食品や酒類を選びたいと考えています。(図表4)

*タイパとは「タイムパフォーマンス」の略称。時間対効果を意味する言葉。

<図表4>買い物の時に本当はもっと時間をかけたいもの(3つ回答)
※有効回答者数:n=120(20~40代の女性会社員)

<図表4>買い物の時に本当はもっと時間をかけたいもの(3つ回答)の図表画像
出典:株式会社エアークローゼット「タイパ」に関する働く女性の意識調査
(2023年1月5日 ※インターネット調査)

そのため、コーナーでは従来のクロスMDのような決まった商品同士の組み合わせではなく、同じテーマで商品の品揃えを充実させることで、「短時間で買物をしたいが、選ぶ楽しみも味わいたい」という有職主婦のニーズに対応しています。

例えば、食品スーパーのインストアベーカリーの什器の上部に複数のおすすめワインを展開している事例の他に、低糖質やカロリーオフの麺やレトルトご飯、菓子などをまとめてコーナー展開している事例、各カテゴリーに存在するアレルゲンフリー商品を集めてコーナー展開している事例などが該当します。

また、それぞれのコーナーにおいてテーマやお勧め商品の特徴を一言で簡潔に表現したPOPを展開し、多忙な有職主婦がコーナーを認識したり、その中から自分に合った商品を選んだりする手助けをしています。

一方、販促面では、チラシではなくEDLPや月間、曜日別でのインストアプロモーションを強化する取り組みが加速しています。これらの販促によって特売商品の品切れを防止するだけでなく、有職主婦に対しては「自身の仕事や家庭の事情で買い物するタイミングが変わったとしても特売商品を確実に購入できる」という安心感を醸成することができます。

各企業は、これらの特売商品を定番売場においてPOPで訴求するだけではなく、エンド陳列や他箇所展開などの取り組みにより、店内で買い物商品を決定することの多い有職主婦の視認性を向上させて買上点数を増やそうとしています。

有職主婦にとっても、店舗に訪れてから簡単に特売商品を見つけることできるというメリットがあります。

さらに、最近は各カテゴリーの特売商品を集約してコーナー展開する取り組みも徐々に増えてきています。

特売商品だけの集約コーナーを設置すると、特売品だけしか買い物をしない来店客の増加につながる懸念もありますが、特に駅前立地の店舗など多忙な有職主婦の来店が多い店舗では、コーナー展開により買上点数が増加するなどのメリットが高まっています。

有職主婦はさらなる増加が見込まれるということもあり、今後も各企業は売場面・販促面で試行錯誤を重ねながら、常にその購買心理を把握しておく必要があるでしょう。

(文)田中イノベーション経営研究所
中小企業診断士 田中勇司
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2024年7月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。