〝デジタル高齢者〟の心をつかむ
新シニアマーケティング

2024年10月29日

お店づくりトピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:高齢者マーケット/思い出消費/消費意欲

〝デジタル高齢者〟の心をつかむ 新シニアマーケティングのイメージ

2023年9月時点で65歳以上人口は3623万人。総人口に占める割合は29.1%と過去最高を記録しました。2025年には戦後最大のボリューム層である団塊の世代(1947〜49年生まれ)が全員75歳以上となり、世界最大級の後期高齢者マーケットが誕生します。そうした新時代の高齢者にアプローチする新シニアマーケティングを紹介します。

消費に意欲的な世代が参入 激変する高齢者マーケット

2023年家計調査によると、世帯主が60歳以上の家計消費支出の割合は全世代の約半分を占めています(図1)。年間収入は50〜59歳をピークに減少に転じますが、60歳以上の貯蓄額は50〜59歳の約1.4倍あり、消費の財源として貯蓄からの切り崩しも想定されます。また、65歳以上の就業者が増え続けていることも追い風になっています。

従来、「高齢者」としてひとくくりにされることの多かったシニア層ですが、育ってきた時代や環境、考え方やライフスタイルは異なります。彼らはどんな時代を生き、どんな価値観を持っているのでしょうか。それを世代論から分類したのが図2です。

注目すべきは、平成と令和の時代では高齢者像が激変することです。今後、高齢者のボリュームゾーンとなるのは戦後生まれの世代です。団塊の世代をはじめ、DCブランドブーム※1に夢中になっていた「しらけ世代」、高度経済成長期に子ども時代を過ごした「新人類世代」、そして昭和末期の好景気を体感した「バブル世代」など、消費に対してより意欲的な層が続々と高齢者市場に参入します。今後約20年間は高齢者市場にとって黄金期になる可能性を十分秘めています。

※1 デザイナーの名前を全面に打ち出した、個性的でキャラクター性の強いファッションが、1980年代を中心に流行した。

図1.2円グラフで紹介した画像

人付き合いが多く、活動的な〝デジタル高齢者〟

高齢者の生活実態やメディアへの接触度などを探るために行った調査※2では、高齢者が定期的に接する人数(人間関係数)は平均9.52人でした。平均より多かったのが、高齢者の中でも若い「60代」や「可処分所得あり」の層ですが、特筆すべきはpcやスマホを保有し、日常生活で活用している、いわゆる〝デジタル高齢者〟ほど、人間関係数が多くなるという事実でした。外出目的を「旅行」とした層もデジタル高齢者は平均の2倍以上、「スポーツ」もタブレット端末保有層では平均の約2倍に達しています。つまり、pcやスマホなどデジタル機器を保有して日常的に使う高齢者ほど人付き合いが多く、頻繁に外出し、可処分所得も大きくなる傾向が見られました(図3)。

より人間関係数が多く、旅行やスポーツを楽しむ機会が多ければ、必然的に消費する機会も増えます。pcやスマホを保有しているため、個別に情報を届けやすく、デジタル高齢者は高齢者の中でも優良な消費者になりえます。ただし、この調査でも80代になるとデジタル機器保有率が一気に下がるので、デジタルが届くのは70代までと考えていいでしょう。

※2 2021年3月からにかけ、原田曜平氏のグループがWEBアンケートと聞き取り調査によって実施。対象は60歳以上の男女640人

図3・可処分所得についてグラフを使って説明している画像

過去×現在の組み合わせで思い出消費を誘う

同じ調査では、高齢者が最も利用しているメディアは「地上波テレビ」(93.7%)で、次が新聞(56.2%)でしたが、3番目がスマホアプリの「LINE」でした。次いで「Google検索」と「Yahoo!検索」。注目すべきは動画共有サイト「YouTube」の利用率が25.7%あり、高齢者の4人に1人が利用していることです。この4大デジタルメディアの利用率は、デジタル高齢者だけに限ると、いずれも1.5倍以上に跳ね上がります(図4)。

図4・シニア層がよく利用するデジタルメディアを説明している画像

マーケティング戦略を立てる場合、こうした高齢者の実態調査で明らかになった「現在」と、世代論としての「過去」を組み合わせることが有効です。例えば、高齢者の中でも最大のボリューム層である団塊の世代は、若い頃に米国文化にハマり、アイビーファッションやビートルズに夢中になった世代です。したがって広告は、アイビーファッションでコーディネートしたモデルにビートルズのBGMなどを使い、ノスタルジー消費(思い出消費)を誘うといった戦略が考えられます。

思い出消費はシニア層を攻略するキーワードの一つです。近年は「昭和レトロ」と称して、昭和の風景が残る街並みや建物、当時の家具や雑貨なども人気を集めています。

それぞれの世代が体験してきたファッションや流行、音楽、衣食住などを取り入れた商品やサービスを提供することで、消費を促すことができます。

デジタルメディアを使い来店動機をつくり出す

では、小売店や飲食店がデジタル高齢者を取り込むにはどんな施策が効果的でしょうか。実店舗を持つ業態の場合、来店動機をデジタルでつくり出すのが一番効果があると考えられます。

高齢者は新聞の購読率が他の世代より高く、折り込みチラシもよく見ています。デジタル高齢者は、新聞やテレビなどで目にした気になる情報をpcやスマホを使って検索し、詳細な情報を得ています。したがって、チラシなどに二次元コードを掲載し、詳しい情報が知りたい人は、それを読み込んで各小売店や飲食店のホームページに飛んでもらうという方法などが考えられます。

高齢者の視聴率が高いYouTubeに広告を出すという方法もあります。YouTubeは高齢者の4分の1が見ているメディアであり、デジタル高齢者に限れば、その比率はさらに高まります。動画なら情報量も多く、わかりやすく消費者に伝えられるというメリットがあります。

YouTube広告は配信範囲を店舗の半径3キロ以内とか、町名などを選んで表示させることができ、地元密着の小売店や飲食店でも高い効果が得られます。

また、LINEも高齢者の利用が多いデジタルメディアです。お店と〝お友達〟になってもらい、お得な情報を発信したり、お店や商品への問い合わせを受け付けることで親近感を持ってもらい、来店動機につなげることができます。

子どもや孫世代を巻き込み高齢者の消費意欲を喚起

高齢者でもAmazonをはじめとするECサイトの利用者は増えていますが、実際に商品を見て選びたいというニーズが高いので、来店のたびに何かしら目新しい商品があって、接客も心地よければ、リアル店舗に来店する確率は高まります。

高齢者に限らず、水やトイレットペーパーのように重い物、かさばる物はネットで購入し、店舗では生鮮品や惣菜などを買うという人が増えるなど、デジタルとリアルの使い分けが進んでいます。したがって、店舗で購入した商品を家まで配達してもらえるようなサービスがあれば、実店舗に足を運ぶ頻度も増えてくるはずです。

現在の高齢者は孫世代と距離が近いのも特徴です。子どもの数が少なくなっていることもあり、孫世代はシックスポケットを持つなどと言われ、祖父母や子どものいないおじ・おばなどから金銭的援助を受けることが多い。そういう意味では、高齢者単体で考えるのではなく、デジタルでアプローチしやすい子どもや孫世代を巻き込んで、どう消費してもらうかを考えるのもよいかもしれません。

監修:原田 曜平(はらだ ようへい)
マーケティングアナリスト、芝浦工業大学デザイン工学部教授

※当記事は2024年10月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。