EUとマレーシアのデジタル規制

2024年10月29日

海外流通トピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:デジタルサービス法/EC/マレーシア

マレーシアとEUの国旗のイメージ画像

EUのデジタルサービス法(DSA:Digital Services Act)は、ECサイトやSNSなどオンライン・プラットフォーム事業者などを規制する法律で、2024年2月に施行されました。この動きに追随して、マレーシア政府は、2025年1月からSNSの事業者に免許取得を義務付けることを発表しました。日本版DSAも期待される中、この2つについて説明します。

オンラインのリスクが大きくなった

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DSAが生まれる契機となったのは、オンラインサービスの発展に伴い、オンライン上の偽情報を含むリスクへの対処が必要になったことです。

2018年のEU世論調査(ユーロバロメーター)によると、回答者の65%は、インターネットは安全ではないと考えています。

そして90%は、オンラインでの違法コンテンツの拡散を制限するための措置を講じる必要があることや、ネット事業者などは行政機関が違法と判断したコンテンツを直ちに削除すべきであることに同意しています。

ネットは、デマや差別、児童ポルノなどの違法コンテンツを拡散したり、危険物や偽造品を販売したり、違法サービスを提供したりするために悪用されると、国民を危害にさらす可能性があります。

一方、プラットフォーム事業者は、ユーザーに通知したり、救済の可能性を提供したりすることなく、ユーザーのコンテンツを削除できます。これは、ユーザーの言論の自由に大きな影響を及ぼします。

そこで、ユーザーの安全を確保し、基本的権利を保護し、公正でオープンなオンライン・プラットフォームを構築する目的で、EUが2022年にDSAを採択しました。

多くの人が利用するサイトは厳格にする

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EU内にユーザーがいるオンライン・プラットフォーム事業者をはじめ、クラウドやレンタルサーバーなどのホスティングサービス事業者、インターネット・サービス・プロバイダーなどは、EU内外を問わず新しいDSAの規則に従わなければなりません。

欧州委員会が違反を確定した場合、全世界年間売上高の最大6%の罰金を科されることになります。

特に影響が大きいのが、A社やG社、T社などEU内でのユーザーが極めて多い「超大規模オンライン・プラットフォーム(VLOP)」と「超大規模オンライン検索エンジン(VLOSE)」です。従業員数が50人未満で年間売上高が1000万ユーロ未満の中小企業は、この要件の影響を受けません。

デマや誹謗中傷を監視

ネットを監視しているイメージ画像

先のVLOPとVLOSEには、次のようなことを義務付けています。

  1. 違法な商品やサービス、コンテンツをオンライン上で拡散しないための対策を講じること。SNSなどでは、違法コンテンツを報告する新機能を導入しています。
  2. コンテンツモデレーションの透明性の向上と異議申し立ての選択肢の増加。ネットのコンテンツを監視し、デマや差別、誹謗中傷などがあれば削除したり、アクセスを制限したりします。そして、削除した理由などを伝える必要があり、それにユーザーが納得できなければ異議を申し立てる権限も与えています。
  3. 子どもの保護。SNSの中には、未成年者を対象とした広告を禁止している他、未成年者のプロフィールを自動的に非公開に設定して、未成年者がアップロードした動画は承認した人だけが視聴できるようにしているところもあります。

この他、パーソナライズされたコンテンツをオフにするオプションや、選挙の公平性、A社などマーケットプレイスには販売者の身元を確認する要件を設けました。

マレーシアではSNSを免許制に

人々がSNSでつながっているイメージ画像

2024年7月に、マレーシア政府は主要なSNSの事業者にマレーシアでの免許取得を2025年1月から義務付けると発表しました。

マレーシア通信マルチメディア委員会(MCMC)によれば、SNSの事業者は国内で800万人以上のユーザーを抱えるF社やX社などが対象となるということです。

ガイドラインではユーザーの最低年齢を13歳と定めていますが、この年齢未満の多くの子どもたちが積極的に使用しています。そのため、彼らはオンライン詐欺、サイバー攻撃などの重大なリスクにさらされています。

マレーシア王立警察によると、2019年~2023年にかけてオンライン詐欺事件が倍増。2024年1月だけでもロマンス詐欺が69件に上り、15歳~20歳が被害に遭いました。オンラインギャンブルも大幅に増加しています。

さらに2024年7月には、女性のインフルエンサーがオンラインで嫌がらせやいじめを受けて自殺するという事件が起こったことも、マレーシア政府の新しい法律の制定を加速させました。

SNS事業者へ詐欺対策などを義務付け

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SNSの事業者には、次のような対策を義務付けることになります。

  1. 13歳未満のユーザーを制限するなど、子どもの安全を守ること。
  2. ネットいじめ、オンライン詐欺、ロマンス詐欺などのオンライン被害に対処すること。
  3. 広告の透明性を促進し、詐欺を助長する広告を制限すること。
  4. 有害なコンテンツや誤解を招く広告から未成年者を保護すること。
  5. ディープフェイク(フェイク動画など)といった人工知能(AI)生成コンテンツを管理すること。

免許の有効期間は1年間で、毎年申請する必要があります。

2025年1月までに免許を取得しないでマレーシアでの事業を継続すると、50万リンギット(8月26日現在の為替レートで約1,650万円)以下の罰金、もしくは5年の懲役、またはその両方が科せられる可能性があります。

違反が重大な場合、MCMCはSNSへのアクセスを停止したり、事業者の免許を解除したり、起訴を開始したりすることができます。

日本でもSNSで有名人になりすまして投資に誘う詐欺広告での被害が急増。総務省の有識者会議が法規制の導入を視野に検討を進めています。パリ五輪での選手へ誹謗中傷が相次いだこともあり、その対策が急がれます。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2024年8月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。