AIとロボットで米国の美容業界をけん引

2024年10月29日

海外流通トピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:オンラインショッピング/EC/AI

化粧品と花のイメージ画像

米国のある調査会社によると、2024年の米国における美容業界の売上の約28%がオンラインで行われ、美容業界ではEC(電子商取引)の売上が、専門店の売上を上回っているとのことです。

ECは美容業界が成長する最も重要な原動力の一つになっているため、オムニチャネル戦略はいまや必要不可欠なものになりましたが、それに伴って複雑さやコストが増しており、成功するには専門知識が必要となっています。

ワンストップ・ビューティ店舗を展開

化粧品が並んでいる陳列棚のイメージ画像

A社は1990年創業で、化粧品、香水、スキンケア製品、ヘアケア製品を扱うだけでなく、サロン(ヘア、メイクアップ、フェイシャル、脱毛、まつ毛など)も展開しています。現在、A社は約1400店舗とECサイト(スマートフォンのアプリも含む)を運営しています。

同社の特徴といえるのが高級化粧品から安価な化粧品まで取り扱い、ヘアなど定期的に通うサロンも店舗に併設していることです。店舗やECサイトでは600以上のブランドを扱い、2万5000種類の商品をそろえています。

それまで、高級化粧品は百貨店、安価な化粧品はドラッグストアと分かれていましたが、それを一気に集約した上で、購入前にお試しができるようにしたのです。さまざまなサロンも併設していることで、A社は美容の全てがそろうワンストップ・ビューティ店舗を展開しています。

米国では小売業の店舗閉鎖や倒産が相次ぐ中、A社は「当社は美容業界のリーダーです。お客様には、メイクアップをはじめ、あらゆるものを試せることを楽しみに店舗に通っていただいています」と強気な姿勢です。

A社は2002年から増収増益を続け、20年のコロナ禍で売上が減少するものの、2021年には復活。2022年の創業33年で初めて売上100億ドルを突破し、2023年は112億ドルと順調に推移しています。利益率も11~12%と高水準を保っています。

ポイント・プログラム会員の売上が9割超

ポイントアップのイメージ画像

2014年からは会員制のポイント・プログラムを導入し、現在4,200万人以上の会員がいます。顧客の年間購入金額に応じて2つのランクがあり、1200ドル以上が最上級、500ドル以上がその次のランクです。

そして、売上の95%以上が、この会員たちから得られているのです。

A社の最高経営責任者は「私たちが販売するほぼすべての商品は、個人と結び付けることができます。つまり、どのお客様が何を買っているのかが分かっているのです。このポイント・プログラムを美容業界だけでなく、小売業界全体の中で最も優れたものにすることが目標です」と抱負を語っています。

24年1月にはプログラムをリニューアルして、誕生日特典をバージョンアップしました。従来の誕生日特典はA社が決めた商品でしたが、会員が選択肢の中から好きな商品を選べるようになったのです。

デジタル化に伴い、テクノロジー企業の2社を買収

テクノロジー企業のイメージ画像

2018年初頭に、A社は外部企業として付き合いのあったテクノロジー企業2社を買収して、デジタルイノベーション・チームを立ち上げました。

2社のうち1社は、画像処理と人工知能(AI)を活用したデータ・マイニングに強みを持っていて、アプリに搭載されている機能を使って自撮り写真に簡単にメイク処理を行うことができます。

もう1社は、アプリの商品情報、レビュー、顧客の閲覧データから関連性の高い商品をお薦めする強力なエンジンの開発をしています。

2社が一緒になったことで、A社にしかないユニークなチームで、開発者の能力を美容スタッフの専門知識と組み合わせたデジタル化を推進し、差別化を図っているのです。

コロナ禍でバーチャルなお試しをパワーアップ

バーチャルで美容体験できるのイメージ画像

20年、A社はアプリを刷新して、AIと拡張現実(AR)を活用することで、何千もの化粧品など美容商品をバーチャルで試せるようにしました。現実と同じような質感、色、仕上がりを体験でき、試した後に実際に購入したり、お気に入りに追加したりできます。

現在ではECの売上が50%以上を占め、店舗外でもA社を利用する手段として定着しています。

A社では店舗とECのシステムが連携しているため、店舗で買物をすると、スタッフはその顧客のEC上のショッピングカートを見て、例えば口紅が残っているときには、その購入をお勧めすることもあります。同様に、店舗での購入データもEC上に表示されます。

アプリで実現している機能

人々がアプリを利用しているイラストイメージ画像

ここでアプリの機能について整理しておきましょう。

  1. お試しでは、自撮り写真をアップロードするか、さまざまな肌の色や顔の形の15人のモデルの中から1人を選んで、ファンデーションや口紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラなどのメイクをすることができます。そして気に入った商品を購入し、数時間以内に店舗で受け取ることもできます。
  2. カテゴリー別に買物をしたり、ブランドや価格、ベストセラー、新着商品で検索したりすることもできます。クリーンな原料、ビーガン、動物実験をしていない商品、持続可能なパッケージなどでも商品を選ぶことができます。
  3. ARとAIにより、自分にぴったりのファンデーションの色を見つけたり、肌の悩み、状態を理解して、スキンケアの手順をカスタマイズしてくれたりします。
  4. ヘアスタイルのお試しもあり、メイクと同じように、さまざまなスタイルやヘアカラーを試せるようにしています。
  5. A社店舗でのヘア、スキンなどのサロンサービスの予約をすぐに行えます。
  6. ポイント・プログラムに入会したり、ポイントを確認したり、商品と交換したりなどの管理ができます。

まつ毛エクステとマニュキュアのロボット化

マニュキュアのイメージ画像

A社はAI搭載のロボット開発にも熱心で、まつ毛エクステとマニュキュアのそれぞれのスタートアップ企業と共同で取り組んでいます。

まつ毛エクステは、通常のサロンで施術を行うときのようにベッドに寝ているだけで、人間よりも速くロボットがまつ毛のエクステを付けてくれるシステムです。23年12月から試験導入を行っていて、施術時間の短縮効果が実証されました。

マニュキュアは、ロボット工学と自動化を活用して、世界初のサロン品質のマニキュアマシンを使うことを想定しています。24年末に商品化される予定で、箱のようなマシンに手に滑り込ませると、マニキュアを落とし、爪を整えて形を整え、キューティクルをブラッシングし、新しいマニキュアを塗り、乾燥させてくれるというものです。

このように美容業界でのAIロボットの活用が進み大きな成果につながり始めています。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2024年8月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。