共働き世帯の増加にともなう新しい食のトレンド
2024年10月29日
国内流通トピックス
■業種・業態:スーパー/飲食店
■キーワード:健康志向/経済性志向/簡便化志向/完全食
近年は、女性の社会進出にともない共働き世帯が増加しています。共働き世帯の増加により食の志向がどのように変化しているか、その結果どのような食品が支持されるようになってきているかについて、ポイントをまとめました。
食に関する志向の変化
日本政策金融公庫「消費者動向調査(令和6年1月)」によると、現在の食の3大志向は「健康志向」「経済性志向」「簡便化志向」となっています。
直近の3大志向の動きは、「健康志向」(45.7%、前回比+3.4ポイント)、「簡便化志向」(38.2%、同+2.3ポイント)が増加傾向にあります。
「経済性志向」(40.8%、同▲1.7ポイント)は低下したものの、前回に続き40%台となりました。一方、3大志向以外では「手作り志向」(13.4%、同▲3.4ポイント)、「国産志向」(11.2%、同▲1.6ポイント)、「外食志向」(2.9%、同▲1.4ポイント)が低下しました。
3大志向について、2009年7月からの長期時系列変化を確認すると、「健康志向」は2011年1月以降40~45%と堅調に推移しています。
「経済性志向」は、飲食料品や生活必需品の相次ぐ値上げもあり、前回に引き続き2010年1月以来の40%台という高水準にあります。
「簡便化志向」は、2015年頃から右肩上がりとなっており、直近は過去最高値となりました。
背景には、政府が2012年12月以来、女性の社会進出を積極的に後押ししてきたことで有職主婦が増加した結果、簡便調理の需要が高まった点が挙げられます。
新しい食のトレンド
近年は、「簡便化志向」の高まりに加えて根強い「健康志向」もあり、ラーメンやカレーといった「調理は簡単でも比較的脂肪が多く、たんぱく質やビタミン、ミネラルなどが不足になりがちな単品料理」から、「簡便・時短調理が可能で栄養をしっかり取ることのできる食品」に共働き世帯を中心に支持が移り始めています。
代表的な事例には、冷凍食品のトレンド変化があります。
冷凍食品は、1963年にスーパーDで初めて冷凍食品売場が設置されてから、冷蔵庫や家庭用電子レンジの普及にともない市場規模を拡大していきました。特に、家庭用は右肩上がりで拡大しており、コロナ禍の2020年に業務用を上回りました。
その結果、スーパーにおいても、現在は総菜と並ぶ伸長カテゴリーとして収益に貢献しています。
ただし、これまでのメニューの中心は、ハンバーグや唐揚げ、フライ、カツといったお弁当向けのおかずの他に、餃子や炒飯といった単品料理だったものの、最近では、主食とおかずをバランスよくセットにして1回の食事にまとめた冷凍食品「ワンプレート冷食」の人気です。
「仕事や家事、育児に疲れているから料理をしたくない」けど「栄養バランスのよい食事をしたい」という悩みを持った共働き世帯を中心に急上昇しています。
また、物価高の中で、ワンプレート冷食は400円程度と値頃感のある商品が多く、「経済性志向」にもマッチしている点も人気につながっています。
共働き世帯では、家族それぞれの仕事や学校、習い事による生活リズムの違いから家族が別々に食事をとるケースが増えており、メーカー各社は個食対応強化に向けてワンプレート冷食の開発に積極的に取り組んでいます。
昨今の冷凍技術の飛躍的な向上もあり、冷凍食品が「主婦の負担を軽減する食卓の1品」から「家庭の食事そのものになった」ことで、さらなる売上増が期待されます。
その他、新しい食のトレンドとして今後注目されているのが、「完全栄養食品(完全食)」です。完全栄養食品とは、元々卵や玄米など一つの食品で比較的バランスよく栄養素が含まれているもの指していましたが、現在は厚生労働省「日本人の食事摂取基準」に基づき1食分で1日に必要な栄養素の約3分の1が摂れるように設計された食品を指します。
つまり、それを3食とれば、1日に必要な栄養素を全て摂取できるということになります。
健康にとって一番大事なのはバランスのよい食事ですが、忙しい毎日を過ごす共働き世帯が厚生労働省の推奨する食事を家庭で実践しようとしても、毎日違う種類の野菜を摂らなければいけないなど非常に大変です。
しかし、毎日の食事の何回かを完全栄養食に置き換えることで、簡単に1日に必要な栄養を摂ることができます。
完全栄養食には、大きく3つのタイプがあります。
区分 | 商品例 |
---|---|
ドリンクタイプ | スムージーなど |
固形タイプ | グラノーラやクッキー・グミなど |
食事タイプ | カップラーメンや具沢山のスープ類、パン、パスタなど |
様々な商品が発売されており、時間のない朝食時や普段の食事にプラスしたり、仕事が忙しく食事が偏りがちと感じた際に置き換えたりと、無理をせずに生活習慣を整えることができます。
また、長期保存が可能な商品も多く、防災食・保存食としても活用できます。
ただし、長期的に継続して摂取することで、摂取カロリーが不足気味になったり、五感(嗅覚、視覚、触覚、味覚、聴覚)で味わう食事の楽しみが減ったりといったデメリットも生じます。
例えば、1日に1食のみを完全食に置き換えるなど、完全栄養食品を共働き世帯が取り入れるには課題も多く存在します。
ただし、今後も共働き世帯の増加は長く続くことが予想される中、今回挙げた「ワンプレート冷食」や「完全栄養食」以外にも、「健康志向」や「簡便化志向」、「経済性志向」といった食の志向に対する共働き世帯のニーズを満たす商品開発が、これまで以上にメーカーや小売に求められるでしょう。
(文)田中イノベーション経営研究所
中小企業診断士 田中勇司
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2024年8月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。