ファッションのECで役立つAIサイズガイド
2024年11月8日
海外流通トピックス
■業種・業態:衣料店
■キーワード:オンラインショッピング/EC/AI

オンラインショッピングで避けて通れない問題が、返品です。米国のECでは衣類の25%が返品されているといわれています。その理由として最も高いのは、サイズが合わなかったということで、65%にも上ります。サイズはブランドにより異なりますし、アイテムによっても異なります。大きめにできていたり、小さめだったりするため、試着ができないECでは大きな問題です。
そこで今、注目を集めるのが、採寸する必要のない会話型UXを活用したAIサイズガイドです。
衣類や靴のECの最大の問題がサイズ選び
日本では、自分に合うサイズの服選びに欠かせないのが採寸です。しかし、自分で自分の身体を採寸するのは以外と難しいものです。それを簡単にしようと、2017年にあるファッション通販サイトでは採寸用ボディースーツを無料で配布したことがあります。
センサーをつけたボディースーツを着て、専用アプリを入れたスマートフォンで撮影すれば、得られた全身24カ所の体形データを保存できるというものです。現在は新入社員などの制服の一括製作など法人向けサービスとして利用されています。
米国ではどうでしょうか。米国で最も使われているのが、Tという「AI(人工知能)サイズガイド」です。採寸をする必要はなく、質問に答えていくという会話型UX(ユーザーエクスペリエンス)を使用した30秒フィット調査になります。
Tは、先に採寸をして、それを洋服に当てはめるという日本の考え方とは異なります。同じような体型でも、サイズとフィット感は、個人によって違います。
ぴったりとしたフィット感が好きなのか、あるいはゆったりとしたフィット感が好きなのかによっても変わってきます。個人によって異なるフィット感が重視されているのです。
サイズやフィット感を保存して使用
Tの使い方は、簡単です。Tを導入しているECサイトであれば、気に入った商品をクリックすると、「What's My Size?(私にぴったりのサイズは?)」という項目があります。それをクリックすると、Tの画面に移動します。
まず身長、体重、年齢という基本情報を入れて、バストやウエスト、ヒップ、首、太ももなどのフィット感の好み(ゆったりしているのがいいのか、ピッタリしているのがいいのかなど)を選び、愛用しているブランドとサイズを答えると、その商品のおすすめサイズが分かるというわけです。
自分のサイズのデータを保存しておけば、商品ごとにおすすめサイズが提示されます。Sサイズの人でも、大きめにできているアイテムではXSがおすすめサイズとして提示されることもあります。
さらにデータを保存していれば、Tを導入している別のECサイトでも、同じように商品ごとにおすすめサイズが出てきます。家族のデータも追加でき、サイズの変更も簡単なので、すぐに大きくなる子どもの服や靴を選ぶのも便利です。
加えて、アイテム別に愛用しているブランドとサイズを追加していくと、サイズ選びの精度を上げることができます。特に靴やジーンズ、ブラジャーは、サイズ選びが難しいので、愛用のブランドとサイズを追加しておくのが安心です。スポーツブランドもタイトなシルエットが多く、サイズ選びが難しいので、これが役立ちます。
世界最大のファッションデータプラットフォーム
Tの最大の特徴といえるのが、2万9,000というブランドの衣類と靴の細かい寸法やデザインのデータを持っていることです。
メンズウェアからウィメンズウェア、キッズウェアまでの下着や水着を含むすべての衣類と靴のデータがあり、世界最大のファッションデータプラットフォームになっています。45カ国以上のサイズと言語をサポートしています。
それに加えて、8,000万人以上のTFを使っているユーザーがいるため、いろいろな体型、サイズのデータがあります。さらに、ユーザーが愛用しているブランドやサイズのデータも加わります。
つまり、あらゆる体型、あらゆるサイズ、あらゆるブランドに合わせて設計されているというわけです。
ユーザーによって提供される「プロダクトデータ」(商品名、ブランド、カテゴリー、レビューなど)、PDP(プロダクトデータプラットフォーム)は年間210億に上ります。
これによって、いろいろなユーザーが特定の商品をどのように購入し、着用しているかを確認できるので、ユーザーのデータ(サイズ、好みなど)を分析し、ユーザーのサイズ・好みに合った服を提案することができるようになります。もちろん、マーケティング、マーチャンダイジングなどにも生かせます。
TFの技術を活用しているブランドは、ジーンズのL、スポーツのAなど、数百に上ります。スポーツのAは、商品ページからカートに入れて購入したコンバージョン率(CVR)が150%増加しました。
Tの顧客のCVRが7.4%なのに、それ以外の顧客のCVRは2.4%でした。さらに、顧客からの意見に基づき、返品や交換は実店舗でも行うというような「返品ポリシー」を変更、それが支持されているということです。
ストリートカジュアルのセレクトショップであるPは、膨大なブランドとカテゴリー、および商品を扱っています。TFと提携してからCVRは13%、注文率は40%上昇、収益も4.7%増加しています。
仮想フィッティングルームは消滅か!?
同様にファッションECのサイズの問題に役立つAIを利用した仮想フィッティングルームも登城しています。独自の身体測定値に基づいたおすすめサイズとバーチャル試着を組み合わせた最初で唯一のソリューションです。
専用アプリをダウンロードしたあとに、性別、身長、体重を入れて、正面・横向きの全身写真2枚をスマートフォンで撮影・アップロードするだけで寸法を測ることができます。
そして、撮影した正面の写真を使って、自分自身がモデルとなり、スカートやパンツなどECサイトの商品を試着できるというものです。
アメリカの紳士服大手Aでは、実店舗でモバイル・ボディ・スキャニングを提供。店舗で、販売員が顧客の写真を撮って、正確なサイズを瞬時に取得して接客に役立てているということです。
また、この技術を使って、AIを活用したフィットネスデータの分析ソリューションへの活用も進められています。
3Dボディの可視化と80以上のボディ測定値を提供し、フィットネスの進捗を追跡できるというものです。日々スマホで全身を2枚撮影すれば、自分が痩せたい部位の変化も確認することができ、部分痩せもしやすくなります。またジムなどでは、その結果を見て、コーチがプログラムを変更することも可能になるのです。
(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2024年9月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

