日本の消費者と小売業にとってのグリーンウォッシュ

2024年11月8日

国内流通トピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:グリーンウォッシュ/エシカル消費/SDGs/環境

緑の背景と地球を持つ片手のイメージ画像

近年、日本でもエシカル消費の意識が高まってきており、今後も関連市場のさらなる拡大が期待されます。一方、環境配慮を謳って企業が消費者を欺くグリーンウォッシュ問題が顕在化しており、海外の事例を踏まえた上で日本の消費者と小売業への影響を整理しました。

日本におけるエシカル消費の意識の高まり

エシカル消費のイメージ画像

エシカル消費(倫理的消費)とは、より良い社会の実現に向け、人や社会、環境に配慮した倫理的な消費行動のことです。

具体的には、消費している物やサービスの生産背景を知り、児童労働などがなく公正な取引が行われている商品や環境負荷の低い商品を購入することを指します。

エシカル消費は、国際目標となったSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)と関係する考え方で、持続可能な社会に向けて取り組むべき17の目標のうち12番目に設定されている「つくる責任つかう責任」の達成につながります。

消費者庁の調査によると、「あなたは、エシカル消費に関連する以下の言葉を知っていますか」との問いに対し、「知っている」と回答した人の割合は、直近(2023年度)で29.3%と、2016年度の6.0%から約5倍に増加しています。

<エシカル消費の認知度>

※ 調査方法:
インターネットによるアンケート調査
※ 調査対象:
2022年度・2023年度=全国の15歳以上の男女5,000人
2019年度=全国の16~65歳の男女2,803人
2016年度=全国の16~65歳の男女2,500人
エシカル消費の認知度のイメージ画像
出典:消費者庁「令和5年度第3回消費者生活意識調査について」より筆者作成

食品業界においても、環境に配慮して持続可能な生産方法で作られた農産物(オーガニック農産物、植物工場産野菜)や畜産物(アニマルウェルフェア畜産物、代替肉)、水産物(陸上養殖水産物、認証水産物)などの「サステナブルフード」について、矢野経済研究所によると2023年の日本における市場規模がメーカー出荷金額ベース1,722億円(前年比109.1%)と拡大しています。

最近では、スーパー各社のPB商品開発においても、従来の「低価格」や「高品質」だけでなく、プラスチックなどの化石由来燃料を削減した「環境配慮」や自然の恵みを活かした「健康志向」のブランドが立ち上がり始めており、消費者の支持を集めています。

そして、食品小売業のさらなる品揃え拡充により、「サステナブルフード」の日本における市場規模が、2030年にはメーカー出荷金額ベース2,976億円と2023年の約1.7倍となる見込みです。

グリーンウォッシュの概要と海外・日本における対応の比較

グリーンウォッシュのイメージ画像

一方、エシカル消費の意識の高まりにともない、グリーンウォッシュという言葉を耳にすることが増えてきました。

グリーンウォッシュとは、環境やエコなどのイメージを持つ「グリーン」と、「問題をごまかす」「うわべを飾る」といった意味を持つ「ホワイトウォッシュ」を合わせた造語で、実際には根拠や実態がないにもかかわらず、企業側が環境に配慮したサステナブルな商品やサービスであるかのように見せかけて消費者を欺く環境活動です。

日本と比較して、海外ではグリーンウォッシュに関する訴訟などが近年急増しており、既に処罰を受けている企業もあります。

例えば、小売世界大手のWは、店舗で販売していたプラスチック素材商品に「生分解可能(Biodegradable)」「堆肥化可能(Compostable)」と表示していたことがグリーンウォッシングだとアメリカのカリフォルニア州で訴えられ、司法取引の結果2017年2月に合計約94万米ドルの制裁金等を払うことで合意しました。

同州の州法では、プラスチック素材商品に「生分解可能」「堆肥化可能」という環境に優しいことを示す文言を記載することは原則禁止していました。

また、スポーツウェアメーカー大手のA社も、2021年にスニーカーの広告において「50%リサイクル」というキャッチコピーと「End Plastic Waste(プラスチック廃棄物に終止符を打つ)」という文字からなるロゴを使用したところ消費者から苦情が寄せられ、フランスの広告自主規制機関ARPPが、「50%リサイクル」との主張は明確性を欠き、「End Plastic Waste」の表記もプラスチック廃棄物を無くすと誤認識させてしまうと裁定しました。

これを受けてA社は、明確かつ誤解を招かない文言を追記しました。

さらにEU理事会は、不公正商行為指令、消費者権利指令を改正し、グリーンウォッシュを規制する指令案を2024年2月20日に採択しました。

この指令案は、グリーンウォッシングを用いたマーケティング方法を禁止することで、消費者が製品を購入する際に適切な情報を得た上で判断できるようにすることを目的としており、以下の具体例が明示されています。

<グリーンウォッシュを規制する指令案(EU)で明示された具体例>

「環境に優しい」「エコフレンドリー」「グリーン」「エコ」「生分解性」などの一般的な環境訴求は、実証できなければ禁止
認証スキームや公的機関以外が提供する持続可能性ラベルの使用禁止
カーボンオフセットのみに基づき環境への悪影響が軽減されたなどの訴求は禁止
「当社は〇〇年までに温室効果ガスの排出量を30%削減します」など将来の環境訴求は、明確・客観的で、現実的な実施計画に基づく実証可能なコミットメントに基づき、独立した第三者の専門家による検証がない限り、禁止

出典:日本貿易振興機構「ビジネス短信」(2024年2月21日)より筆者作成

アメリカにおいても、米連邦取引委員会(Federal Trade Commission、以下「FTC」とする)が企業による虚偽の環境主張を防止するため、「グリーンガイド(Green Guides)」というマーケティングガイドブックを発行(2012年10月発表の改訂版が最新)しています。

その中では、商品やサービスなどが一般的な環境上のメリットを提供するかのような表示を欺瞞的としています。

具体的には、「エコフレンドリー(環境にやさしい)」というブランド名とともに木や鳥の巣のイラストと「変えよう」などの言葉を記載しているといった事例が該当します。FTCはグリーンガイドの見直しに向けて意見を募集しており、2024年に採択予定です。

一方、日本ではグリーンウォッシュそのものを規制する法律はなく、景品表示法による規制(優良誤認表示規制)を実施しています。

グリーンウォッシュにより実際の商品よりも著しく優良・有利と消費者に誤認させるおそれがある場合は景品表示法違反となり、不当表示により一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命ずる「措置命令」などの措置が採られます。

また、環境省の「環境表示ガイドライン」には、環境主張の正しい実施方法が提示されています。

消費者庁は、「生分解性」を謳ったカトラリー、レジ袋、釣り用疑似餌など10社について2022年12月に「措置命令」を実施したものの、景品表示法は企業広告などには適用されず、環境表示ガイドラインも法的拘束力の弱いソフト・ローにとどまるため、欧米を中心とした海外と比較すると現行の法規制は緩い状況です。

グリーンウォッシュが消費者・小売業に与える影響

野菜を手に取っている男性のイメージ画像

グリーンウォッシュによって引き起こされる問題点について、消費者側・小売側それぞれの視点から整理してみましょう。

消費者側では、購入意図とは正反対である環境破壊に加担してしまう可能性があります。

「環境に配慮して」といった虚偽記載のパッケージを使用している商品の中には、環境破壊につながるような悪質なものも存在しています。このような商品を購入してしまうことで、環境破壊につながってしまいます。

また、企業がコスト削減や利益を確保するために「環境に配慮して」といった虚偽の文言を使用することで、消費者が環境問題への取り組み自体に疑問を抱いてしまう問題もあります。

一度このような商品を購入した消費者は、「環境に配慮した商品」という表示自体に不信感を持ち、他の正しく環境に配慮している企業の商品にも疑いの目を向けてしまうでしょう。

小売側では、グリーンウォッシュが投資家から見放される原因になる可能性があります。

近年は、「ESG投資」や「グリーンボンド」などの投資市場が拡大しており、企業が環境や社会に配慮した企業運営を行っているかが投資先の選定基準に含まれるようになってきています。

グリーンウォッシュは投資家の出資意図を欺く行為であり、彼らから見放されることで企業経営が立ち行かなくなる恐れがあるのです。

また、意図的ではないものの、十分な裏付けがないままに「環境にやさしい」など曖昧な表示をした商品を開発したり品揃えしたりした結果、消費者からグリーンウォッシュと指摘されるケースもあります。

これは、グリーンウォッシュに対する理解がなかった企業に起こる可能性が高く、注意が必要です。

騙されたと感じた消費者のSNSへの投稿などを通じて情報は瞬く間に拡がり、企業の大幅なイメージダウンにつながってしまいます。

しかし、海外のような厳しいグリーンウォッシュ規制が日本で普及した場合、消費者・小売業に与える負の側面も見逃すことはできません。

食料品や生活必需品の相次ぐ値上げによる根強い節約志向という逆風の中、これまで順調に市場規模を拡大してきたエシカル消費関連市場ですが、厳しい規制により商品開発に際して各種の認証が過剰に必要になると、メーカーや小売業の手間やコストもそれに合わせて増加します。

その結果、流通する商品の種類も少なくなり、さらに生産原価の高騰にともない販売価格が高止まりすることで消費者にとっても購入しにくくなってしまいます。

今後は、グリーンウォッシュに関する訴訟の状況やグリーンウォッシュをめぐる世界の動き、リスクなどを踏まえた上で、事実に基づいて正確にわかりやすく伝えることに主眼を置いた、日本独自のグリーンウォッシュ規制が根付いていくことが期待されます。

(文)田中イノベーション経営研究所
中小企業診断士 田中勇司
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2024年9月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。